「兄ちゃん此れ、どういう事や?」


 訳が解らんと言った感じの師匠。無理もない。


「兄さん。ワイ等、此処におって大丈夫なんか?」


 不安そうな先生。無理もない。


「えらい迷惑、掛けてごめんな。二人には危害がいかん様にするから」


 今宵、檀原公園はヤクザが見守る中、俺とポリ公との勝負の場と化した。勝手に話しが進んだんやから、しょうがない。


 厳つい顔に囲まれる中、穏和な表情の老人が俺を見てる。詳しい事は知らんけど、此の辺を仕切るヤクザの偉いさんらしい。組の名前とかそんなんはどうでも良いけど、老人はヤクザ達に会長って呼ばれとった。


「君が双六君か。色々、調べさせて貰ったけど、君は中々の兵(つわもの)らしいな」


「買い被りですわ。此の間、負けて文無しになったばっかりですもん」


 会長は楽しそうに笑ってはるわ。


 穏和な表情の中に、えらいどす黒いもん隠し持ってるんやろうなぁ。


 多分、起こらせたら明日の朝には、どこぞに埋められてるか沈められてるんやろうなぁ。


 あ〜、恐い恐い。


 割りと重い空気での博打になりそうやな。


 こら、やばい。


 俺好みや。おもろなってきた。


 此れやから、博打は止められんのや。


 ——人生は娯楽や。


 生きるも死ぬも、風次第の運次第や。下手したら死ぬ。流れを読んで、運を掴めば風に乗れる。


 博打を打つっちゅう事は、そう言う事や。勝ってなんぼや。負けたら、何も残らへんのや。


「もう、後戻りは出来へんからな」


 教祖様が耳元で囁く。


「其れと悪いけど、今回の勝負に君の両腕も賭ける事になってしもたから」


 サラッと言うたな。


 まぁ、其の方がスリルが在って良いけどな。何のリスクも負わんかったら、博打やない。


「勝ったら、幾らくれるねん?」


「会長を満足させたら五百万、出してくれるそうや」


 俺の両腕、五百万円か。


 中々、悪くない値段やな。


「で、相手はまだ来てないみたいやけど、どないなってるんや?」


「心配せんでも、直ぐに来る。煙草でも吸うて、待っててくれ」


 まぁ、時間は幾らでも有るから、良いねんけどな。しかし、こんな場所で博打って、何する気なんやろか。煙草に火をつけながら、周りを見渡す。公園の真ん中に、アウトドア用の組み立て式の机やら椅子が並べられてる。其処に腰掛けながら、えらい身形の良いオッサンが、ウィスキーを飲んでる。


 偉い人なんは間違いないやろうけど、ヤクザとは違う感じやった。


「あれ誰や?」


 教祖様に聞いてみた。


「昼間に話した警視総監や。今回の勝負の立会人の一人や」


 成る程なぁ。


 どうやって連れて来たんか知らんけど、親父の方を丸め込んで鬼瓦を勝負に誘おうって腹積もりか。


 警視総監にヤクザの会長。其れとホームレスの教祖様。何かえらい滑稽な面子やな。


「どうやら、来たみたいやぞ?」


 えらいふてぶてしい面したオッサンが、ヤクザに囲まれて歩いて来た。


 ——鬼瓦。見覚えの在る顔やな。


 まさか、こんなに早くチャンスが巡って来るとは思わんかった。受けた仇は百万倍や。


「何や。今回の相手は兄ちゃんか。此の間みたいに、文無しにしたるから覚悟しときや」


 嘗めた面しとるわ。


 鬼瓦は十日前に、俺を文無しにした張本人や。こら、絶対に負けられへんな。

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