8
中庄の公園は、檀原公園に比べると随分と規模が小さかった。
其の小さい公園に、小汚いオッサンがようけ集まってる。多分、二十人ぐらい居てるんとちゃうかな。皆、一様に上を見上げてる。其の視線の先には、滑り台の上で演説する教祖様の姿が在った。
「信ずる者は救われる。皆、私を信じて着いて来なさい!」
歓声の声が上がった。
めっちゃ、胡散臭い光景やった。かなり、異様な光景やった。
ホームレス達が、胡散臭いホームレスを奉り上げる様は相当、滑稽な光景やった。
教祖様の演説に、どんどん熱が入る。まるでヒトラーさながらに、独善的に身振り手振りを交えて演説は続いていく。
俺は少し離れた所で、煙草でも吸うて待っとく事にした。
暫(しば)らくしたら、ホームレス達の泣き声が聞こえてきた。何を感動してるねん。
「アホらしい……」
「アホらしゅうて、悪かったな」
いつの間にか、教祖様が後ろにいてた。
「彼等には、救いが必要なんや」
「ほな、教祖様が救ったるんか?」
冗談のつもりで言うたのに、真顔で睨んできた。
何を考えてるか知らんけど、あんまり感情が読めん人や。
「そうや。俺が皆を救うんや。けど、其の為には君の力が必要や。昨日も話したけど、君に倒して貰いたい奴がおる。此処では何やから場所、変えよか」
「ほんで、何時や?」
「まぁ、そう慌てなさんな。まずは、珈琲でもどうや?」
近くに在る汚(きったな)い喫茶店に連れて来られた。
教祖様はヤンキー丸出しのウェイトレスに手を上げた。気怠げな表情をしながら、ウェイトレスはお冷やを出した。
「注文は、どないしますか?」
えらい態度の悪いウェイトレスやったけど、気にせず珈琲を頼む事にした。
「アイスコーヒー」
「ワシ、ホットが良(え)ぇな」
「あいよ。マスター、ホットとレーコー入ったでぇ!!」
えらい雑やな、ほんま。
まぁ、良(え)ぇわ。
「あの姉ちゃん、可愛いやろ?」
教祖様が、えらい卑しい笑みを浮かべる。確かに此処のウェイトレスは、そこそこのべっぴんさんやった。
「えらい態度、悪いやんか」
「其処が又、良(え)ぇんやないか。解ってへんなぁ」
此のオッサン、只のエロ親父やないけ。さっき感動しとった信者(ホームレス)達が見たら、泣いてまうぞ。
ウェイトレスが無言で珈琲を置いて、其のまま立ち去っていった。
「愛想悪っ!」
「今、流行りのツンデレやな」
アホとちゃうか。
煙草に火をつけてから、珈琲に口をつける。
「ほんで、えらい不味い珈琲やな」
「せやろ? ワシも思たねん。ワシにも煙草、一本ちょうだい」
勝手に煙草を取る教祖様。ふてぶてしいオッサンやな。
「で。詳しい話、聞かせて貰おか?」
「せやったな。いや、実はな。ワシんとこのシマに、鬼瓦っちゅうポリ公がせびりに来るんや」
「其れが博打と関係、在るんか?」
「ちゃんと、最後まで聞け」
珈琲を啜る教祖様。
「ワシ等がホームレスや思うてアイツ、滅茶苦茶しよるんや。信者の事、どつきよるし、小銭は奪うし最悪なんや!」
全然、話しが見えてけぇへんな。珈琲を口に運ぶ。ほんまに、不味い珈琲やな。
「ほんで、其のポリ公は博打狂いなんや。毎日、此の辺のヤクザのシマ荒し捲って、ヤクザもえらい迷惑してるらしいんや」
成る程。
有りがちな話やな。
「そんなもん、幾らポリ公や言うても、簀巻きにして、いてもうたったら終わりやないか?」
「其れが、そう言う訳にもいかんのや」
しかめっ面で、煙草を吸う教祖様。
ほんまに胡散臭い顔しとるわ。
「何でや?」
煙りを吐き出して、続きを切り出した。
「警視総監の息子なんや」
そら、アカンわ。
そんなもんどつき回しても、ヤクザからしたら良(え)ぇ事ないわな。ポリ公に目ぇ付けられるだけや。
「そいつの親父が根回しして、ヤクザに金払ってるんや。だから、巧い事やって博打で潰したろう思てな」
「で、どないするんや?」
「此方は大金、賭ける代わりに、ワシ等のシマにも、此の辺の賭場にも出禁にして貰うんや」
「そんなに、巧い事いくんかなぁ」
えらい考えが甘いんやないかな。
「大丈夫や。もう、此の辺のヤクザの偉いさんにも話しは付けて在る。勝負にも立ち合って貰うつもりや」
相当、金積まんと話しは進まんかったやろうに、其の辺は大したもんやな。
けど、警視総監の件はどないする気なんやろか。
「言いたい事は、解ってる。ヤクザは何よりも面子を気にするからな。警視総監の圧力が在っても、息子が勝手にやった事や言うて、言い逃れする腹積もりや」
「で、いつやるんや?」
教祖様は煙草を灰皿に押し付けて一呼吸、置いてから、口を開いた。
「今夜や。場所も決めて在る」
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