深夜、一時過ぎ。


 煙草のカートンと酒とお好み焼きを手土産に、檀原公園に帰って来た。


「ただいま」


「おう、おかえり」


「兄さん、勝ったんか?」


「大勝ちや!」


 手土産を置いて、二人に十万円ずつ差し出した。


「兄ちゃん、何やこれ?」


「此れまでのお礼や。取っといて」


 在れから、雀荘で荒稼ぎして五十万円程、稼いだ。お陰で出禁を喰らったが、手元に約六十万の金が出来た。


 二人に十万円ずつ払っても、四十万円も残る。


「兄さん、こんなに受け取れんで!」


「せや。金が欲しいから、兄ちゃんの面倒見てた訳とちゃうで」


 金を突っ張ねるのは予想してたけど二人共、金は欲しい筈や。


「良(え)ぇねんて。ほんまに只の気持ちやから、気にせんと取っといて!」


「いや、其れやったら気持ちだけで良いよ」


「兄さん、其の金は大事に置いとき!」


 何や、ほんまに要らんのかいな。俺は渋々、金をしまった。


「ほな、酒と煙草とお好みは、貰ったってや」


 せめて、其れぐらいは受け取って貰わんと困る。


 二人共、変に遠慮してからに。恩返し出来へんやないけ。


「其れは、喜んで貰うっ!」


 師匠はワンカップを、一目散に取った。


「ワイ、お好み大好きやねん!」


 そら良かった。


 ——てか。何か知らんけど、向こうのベンチで教祖様が叫んどる。


 言葉にならん様な叫び声やった。


「あれ、大丈夫なん?」


 二人共、呑気にお好み焼きを突ついてる。


「たまに、あぁなるねん」


「心配せんで良(え)ぇから、放っとき」


 二人共、お好み焼きと酒に夢中で教祖様なんかどうでも良(え)ぇ様やった。


 まぁ、此の公園で叫んでる分には、誰の迷惑にもならんから良(え)ぇか。


「しっかし、久し振りに飲む酒は回るなぁ」


「おう。最近は、お供え物に酒とか置いとらんからなぁ」


「此の前なんか、空瓶を供えてるんやから、ほんまに罰当たりな奴もおるわ」


 供え物の酒飲んでるアンタ等の方が、よっぽど罰当たりやないか。


 俺もワンカップを開けて、一気に飲み干した。


「おぉ〜、兄ちゃん。良(え)ぇ飲みっぷりやなぁ!」


「兄さん、いける口やな?」


「当たり前や。チンポの毛が生える前から、飲んでるっちゅうねん!」


 酒はようけ買(こ)うてある。今日は、飲むで。


「そら、おもろいなぁ!」


「兄さん、今夜は寝かせへんで!」


「ワシも混ぜろぉ!」


「うわっ。びっくりしたぁ!」


 いつの間にか、教祖様が背後に来てる。


「ワシにも、酒くれ!」


「良(え)ぇよ、飲み」


 ワンカップを差し出す。


「えらい珍しいなぁ。飲み会に、参加するんかいな?」


 師匠は顔を茹蛸(ゆでだこ)みたいに赤くしていた。


 完全に酔うとんな。


「どういう風の吹き回しでっか、教祖はん。最近、調子良ぇらしいやん?」


 先生は酒強いんかして全然、酔うてないみたいやった。


「あぁ〜、アカンわ。眠となってきた」


 師匠は横になった途端、鼾を掻き出した。


 えらい寝るの早いな。


「君等。ワシの事、アホにしとるやろ?」


「してへん、してへん。ちょっと、変わってはるなって、思てるだけやんか!」


 やっぱり先生も酔ってるんかして、いつもよりテンションが高かった。


「其らそうと。君は何で、ホームレスなんかしてるんや?」


 いきなり、俺に話しを振ってくるとは思わんかった。


「ホームレスやない。俺は賭博師(ギャンブラー)や!」


「ほう。君、ギャンブル強いの?」


 教祖様は疑る様な視線を寄越す。


 嘗められたら、アカン。


「当たり前や!」


 先生は煙草に火をつけると、自信満々に此方を見た。


「兄さんは、相当な博才の持ち主や。昨日まで一円も持ってへんかったのに大金、稼いで来たんやで!」


 教祖様は頭を掻きながら一瞬、逡巡したのか思い付いた様に口を開いた。


「ほな。良い賭場、教えたろか?」


「ほんまに?」


「ほんまや」


 ——にやり。と、笑う教祖様を見て、以外と気の良いオッサンやないかと思った。多分、こんな感じで騙されて皆、信者になるんやろうな。


 まぁ、俺は信者にはならんけどな。基本的には自分以外、信じとらんから。


「但し、条件が在るねん」


 ほら、来た。


 大体、こう言う時は厄介な事、頼まれるパターンやねん。


 誰がどう考えても、厄介な事、頼む気満々の——にやり。やったんや。其れ以外、考えられんわ。


 漫画やゲームで言う処のフラグが立つ、言うやっちゃ。


 多分、次にはこう言うで。


「倒して欲しい奴がおる。——やろ?」


 驚く教祖様に、今度は俺が——にやり。ってしてやった。


「何で解ったんや?」


「賭博師(ギャンブラー)の勘や。オッチャン、バレバレやな!」


 煙草に火をつけてから、からかう様に笑ったった。


 ワンカップを開けて、教祖様に差し出す。


「まぁ、飲もうや?」


 博打の話しやったら、イニシアチブは俺が取らんとな。


 こんなオッサン一人、手玉に取れん様やったら賭博師(ギャンブラー)失格や。


「はい、カンパーイ!」


 カップ同士が擦れる音が、師匠の鼾に重なった。


 いつの間にか、師匠のソロから先生との二重唱(デュオ)に変わってる。全く、いつの間に寝たんや。


「で、相手は?」


「めっちゃ、強いで。君、ほんまに大丈夫やろうな?」


 余程、相手が強いんかして、教祖様は不安そうや。


「心配せんでも、任しとき。どんな相手でも、俺が倒したる」


「相手は警察やけど、大丈夫か?」


「はぁ? 警察? ——何や、眠たなってきたなぁ」


 そら、不味いわ。ポリ公に博打で勝っても、ロクな事にならんもん。前に一回、巻き上げたポリ公に逮捕され掛けた事、在る。


 煙草を咥えながら、横になる。


「おいおい、頼むでほんま……」


「捕まらん様に、ちゃんと手配してくれるんやろな?」


 紫煙を細く絞り出した。良い感じに酒が回り出してる。


 今寝たら、気持ち良いやろなぁ。


「そら、勿論や。軍資金(タネセン)の方もワシが用意さして貰う」


 ——アカン。


 ほんまに、眠たなってきた。


「ごめん。詳しい話しは明日、聞くわ。めっちゃ、眠い……」


 何か、ごちゃごちゃ聞こえて来たけど、俺の意識と一緒に微睡みの中に溶けてった。

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