6
深夜、一時過ぎ。
煙草のカートンと酒とお好み焼きを手土産に、檀原公園に帰って来た。
「ただいま」
「おう、おかえり」
「兄さん、勝ったんか?」
「大勝ちや!」
手土産を置いて、二人に十万円ずつ差し出した。
「兄ちゃん、何やこれ?」
「此れまでのお礼や。取っといて」
在れから、雀荘で荒稼ぎして五十万円程、稼いだ。お陰で出禁を喰らったが、手元に約六十万の金が出来た。
二人に十万円ずつ払っても、四十万円も残る。
「兄さん、こんなに受け取れんで!」
「せや。金が欲しいから、兄ちゃんの面倒見てた訳とちゃうで」
金を突っ張ねるのは予想してたけど二人共、金は欲しい筈や。
「良(え)ぇねんて。ほんまに只の気持ちやから、気にせんと取っといて!」
「いや、其れやったら気持ちだけで良いよ」
「兄さん、其の金は大事に置いとき!」
何や、ほんまに要らんのかいな。俺は渋々、金をしまった。
「ほな、酒と煙草とお好みは、貰ったってや」
せめて、其れぐらいは受け取って貰わんと困る。
二人共、変に遠慮してからに。恩返し出来へんやないけ。
「其れは、喜んで貰うっ!」
師匠はワンカップを、一目散に取った。
「ワイ、お好み大好きやねん!」
そら良かった。
——てか。何か知らんけど、向こうのベンチで教祖様が叫んどる。
言葉にならん様な叫び声やった。
「あれ、大丈夫なん?」
二人共、呑気にお好み焼きを突ついてる。
「たまに、あぁなるねん」
「心配せんで良(え)ぇから、放っとき」
二人共、お好み焼きと酒に夢中で教祖様なんかどうでも良(え)ぇ様やった。
まぁ、此の公園で叫んでる分には、誰の迷惑にもならんから良(え)ぇか。
「しっかし、久し振りに飲む酒は回るなぁ」
「おう。最近は、お供え物に酒とか置いとらんからなぁ」
「此の前なんか、空瓶を供えてるんやから、ほんまに罰当たりな奴もおるわ」
供え物の酒飲んでるアンタ等の方が、よっぽど罰当たりやないか。
俺もワンカップを開けて、一気に飲み干した。
「おぉ〜、兄ちゃん。良(え)ぇ飲みっぷりやなぁ!」
「兄さん、いける口やな?」
「当たり前や。チンポの毛が生える前から、飲んでるっちゅうねん!」
酒はようけ買(こ)うてある。今日は、飲むで。
「そら、おもろいなぁ!」
「兄さん、今夜は寝かせへんで!」
「ワシも混ぜろぉ!」
「うわっ。びっくりしたぁ!」
いつの間にか、教祖様が背後に来てる。
「ワシにも、酒くれ!」
「良(え)ぇよ、飲み」
ワンカップを差し出す。
「えらい珍しいなぁ。飲み会に、参加するんかいな?」
師匠は顔を茹蛸(ゆでだこ)みたいに赤くしていた。
完全に酔うとんな。
「どういう風の吹き回しでっか、教祖はん。最近、調子良ぇらしいやん?」
先生は酒強いんかして全然、酔うてないみたいやった。
「あぁ〜、アカンわ。眠となってきた」
師匠は横になった途端、鼾を掻き出した。
えらい寝るの早いな。
「君等。ワシの事、アホにしとるやろ?」
「してへん、してへん。ちょっと、変わってはるなって、思てるだけやんか!」
やっぱり先生も酔ってるんかして、いつもよりテンションが高かった。
「其らそうと。君は何で、ホームレスなんかしてるんや?」
いきなり、俺に話しを振ってくるとは思わんかった。
「ホームレスやない。俺は賭博師(ギャンブラー)や!」
「ほう。君、ギャンブル強いの?」
教祖様は疑る様な視線を寄越す。
嘗められたら、アカン。
「当たり前や!」
先生は煙草に火をつけると、自信満々に此方を見た。
「兄さんは、相当な博才の持ち主や。昨日まで一円も持ってへんかったのに大金、稼いで来たんやで!」
教祖様は頭を掻きながら一瞬、逡巡したのか思い付いた様に口を開いた。
「ほな。良い賭場、教えたろか?」
「ほんまに?」
「ほんまや」
——にやり。と、笑う教祖様を見て、以外と気の良いオッサンやないかと思った。多分、こんな感じで騙されて皆、信者になるんやろうな。
まぁ、俺は信者にはならんけどな。基本的には自分以外、信じとらんから。
「但し、条件が在るねん」
ほら、来た。
大体、こう言う時は厄介な事、頼まれるパターンやねん。
誰がどう考えても、厄介な事、頼む気満々の——にやり。やったんや。其れ以外、考えられんわ。
漫画やゲームで言う処のフラグが立つ、言うやっちゃ。
多分、次にはこう言うで。
「倒して欲しい奴がおる。——やろ?」
驚く教祖様に、今度は俺が——にやり。ってしてやった。
「何で解ったんや?」
「賭博師(ギャンブラー)の勘や。オッチャン、バレバレやな!」
煙草に火をつけてから、からかう様に笑ったった。
ワンカップを開けて、教祖様に差し出す。
「まぁ、飲もうや?」
博打の話しやったら、イニシアチブは俺が取らんとな。
こんなオッサン一人、手玉に取れん様やったら賭博師(ギャンブラー)失格や。
「はい、カンパーイ!」
カップ同士が擦れる音が、師匠の鼾に重なった。
いつの間にか、師匠のソロから先生との二重唱(デュオ)に変わってる。全く、いつの間に寝たんや。
「で、相手は?」
「めっちゃ、強いで。君、ほんまに大丈夫やろうな?」
余程、相手が強いんかして、教祖様は不安そうや。
「心配せんでも、任しとき。どんな相手でも、俺が倒したる」
「相手は警察やけど、大丈夫か?」
「はぁ? 警察? ——何や、眠たなってきたなぁ」
そら、不味いわ。ポリ公に博打で勝っても、ロクな事にならんもん。前に一回、巻き上げたポリ公に逮捕され掛けた事、在る。
煙草を咥えながら、横になる。
「おいおい、頼むでほんま……」
「捕まらん様に、ちゃんと手配してくれるんやろな?」
紫煙を細く絞り出した。良い感じに酒が回り出してる。
今寝たら、気持ち良いやろなぁ。
「そら、勿論や。軍資金(タネセン)の方もワシが用意さして貰う」
——アカン。
ほんまに、眠たなってきた。
「ごめん。詳しい話しは明日、聞くわ。めっちゃ、眠い……」
何か、ごちゃごちゃ聞こえて来たけど、俺の意識と一緒に微睡みの中に溶けてった。
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