結局、智則からは九百円も毟らせて貰った。此れで俺の所持金は千円や。


 予定通り今日の目標金額は達成した。後は明日、運が良ければ此の千円が更に増える。


 元手が少ないから、出来るだけ確実に増やしていかんとアカン。博打するにしたって、軍資金(タネセン)は其れなりに必要や。其の金は働かずして稼がな賭博師(ギャンブラー)とは言えん。働いて稼いだら其れはもう賭博師(ギャンブラー)にとって、死を意味する様なもんや。だから、賭博師(ギャンブラー)は働いたらアカン。


 良く地道に生きてる奴は、コツコツと働いてそこそこの金を稼いで真面目が一番とか吐(ぬ)かしてる。俺から言うたら、そんなもんは糞や。


 真面目に生きるのなんか、まっぴらや。俺は生きるか死ぬかの人生を謳歌したいねん。


 ——人生は娯楽や。


 遊んで、生きて。


 生きて、遊ぶ。


 楽しめん様な生き方して、何が面白いねん。例えどっかでくたばっても、おもろい人生、送った方が絶対に良いやろ。


「あれ、何してまんの?」


 教祖様が雨の中、ベンチの上で座禅を組んでいる。俺達の居る屋根付きのベンチと違って、教祖様の座っているベンチは野晒しや。目ぇ瞑って微動だにせん。


 アホとちゃうか。


 幾ら初夏とは言え、濡れた体で夜を過ごすのは辛い物がある。


「あの人は、変わり者やからなぁ。寝る時も、墓地のど真ん中らしいからな」


 師匠がシケモクに火をつける。


「多分、涅槃の業をしてはるんやで」


 先生も釣られてシケモクに火をつける。


「あのおっさん一体、何もんなん?」


「アダ名の通り、新興宗教の元教祖様らしいで。今も他のホームレス相手に、胡散臭い事しとるわ」


 先生がアホにした様に笑った。


「其れより師匠。最近、眼帯のオッサンが、出て来たらしいで」


「眼帯のオッサン?」


 誰やねん。又、妙なアダ名やな。


「あのオッサン、出て来よったんかぁ。兄ちゃん、気ぃ付けや」


「誰なん?」


「名前の通り眼帯したオッサンや。小柄で汚らしい風貌してるわ」


 先生は思いっ切り自分を棚に上げて笑(わろ)うた。


「いきなり『奢るんで飲みに行きませんか?』言うて、誘ってくるねん」


「ほんで、食い逃げか?」


「せや。あからさまやから、俺は引っ掛からんかったけど——」


 師匠が先生を見る。


「先生、まさか?」


「悪かったなぁ。普通について行ったよ。飲んでる最中に何回も『トイレ、行きませんなぁ』言うもんやから『アンタ、ほんまに金持ってはるの?』って聞いたら、どないしたと思う?」


「さぁ……」


 大体の想像はつく。


「ポケットから五円玉二枚、出しよった」


 其れを聞いた途端、師匠が大笑いした。


「其の瞬間、カチンと来てな。鷲掴みにして鼻っ面どついてから顔面、机に叩き付けたったわ」


 先生がニコニコしながら言う。


「直ぐ警察、来たよ。警察が眼帯のオッサン見て『又、お前か!』やて。あら、常習犯やな」


 ロクなもんとちゃうな。


「まぁ、相手にせんのが一番や」


「せやなぁ。変な奴は相手にしたら、アカン!」


 先生が自分に言い聞かせる様に言った。


「ところで兄ちゃん、博打の軍資金(タネセン)は出来そうなんか?」


「せや、兄さん。あれから、なんぼか稼げたんか?」


 俺はめっちゃ、どや顔で十枚の百円玉をベンチにぶちまけた。


「ボチボチでんなぁ」


「凄いやん、兄さん」


「ほぉ〜。一日で千円、稼ぐとは大したもんや!」


 二人共、驚いた様子やった。どうやら、ホームレスに取って日当千円は高給の様や。


「明日は此の金を、パチンコで増やして来る」


「止めとき、兄さん!」


「あんなもんで稼げる訳ないやろ。俺も前に二ヶ月、掛けて必死に稼いだ三万、一時間で溶かした」


 二人共、パチンコで良い思いしとらんのやろなぁ。パチンコはセンスが問われる。まぁ、今回の勝負は裏技、使わせて貰うからセンスも糞もないけどな。


 ギャンブルにイカサマは付き物や。


「明日は、確実に勝てるイカサマ、使うから大丈夫や!」


「イカサマって、兄さん……」


「おい、兄ちゃん。ゴトは犯罪やぞ」


 博打事態が犯罪や。


 てか、誰がゴトなんか使う言うたんや。


「ゴトなんか使わんでも、勝つ手が在るねん」


「ほんまかいな?」


「大体、体感器やら何やら、そんなもん仕入れる金がない。其れにイカサマっていうんは、バレらん様にするのが基本や。ゴトなんか、皆やってるから直ぐにバレてまう」


 何処のホールもゴト対策はしてる。ファルコンハッキングやら、他の妙な攻略法も変則打ちに対しての対策をしてる所はしてる。


 そんなまどろっこしいやり方せんでも、もっとシンプルで確実なイカサマは存在する。


 まぁ、運が悪かったら失敗するやろうけどな。

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