3
バス停留所に着いて十分ぐらいが経った。
シケモクを吸って時間を潰す。足元には、三本の吸い殻が踏み付けられてる。もうそろそろ、カモが帰って来る頃や。
三日間、此の時間帯に俺は此のベンチで時間を潰してるけど、カモは毎日、此の場所を通り過ぎてる。
今日も間違いなく此処に来る筈や。
四本目の吸い殻を踏み付ける。
——来よった。
きっちり、毟らせて貰うで。
えらい恰幅の良い中学生が、三人のヤンキーに囲まれて歩いて来る。俺の見立てでは、恰幅の良い中学生はヤンキー三人組に苛められてる。そして、金を毟られている。
「おい、智則。俺や俺や。覚えてるか?」
突然、見知らぬ男に声を掛けられて、恰幅の良い中学生は驚嘆と困惑が混じった様な表情(かお)をする。そら、そうやろうなぁ。苛めっ子に囲まれてる最中に、いきなり訳の解らんチンピラ風の俺に声を掛けられたんや。苛められっ子やったら、そらビビるわな。
「何や、智則。お前の知り合いか?」
ヤンキーの一人が困惑しながら、恰幅の良い中学生——智則に問い掛ける。ヤンキーとは言え、所詮は中坊や。ヤクザと言っても遜色のない俺の風貌にビビり捲っていた。
「知らん。こんな人、俺は全然、知らん!」
えらいテンパった感じで智則が答える。当たり前や。俺も智則の事は、顔と名前しか知らん。全くの他人やからな。
「知らんのも、無理ないな。最後に会(お)うたんは、智則がまだ小っさい頃や。俺は智則の叔父に当たるもんや。先週、刑務所から出て来たんや」
全くのでっち上げや。四人共、普通に信じてもうてる。ヤンキー達も良(え)ぇ感じにビビってくれとるわ。智則に至っては、放心状態や。——そろそろ、良いやろ。
「ところで、君等。智則の友達か?」
「は、はい!」
「僕等、智則君とは仲良くさせて貰ってます」
話しを振られるとは思ってなかったのか、ヤンキー達は困惑しながらも畏まる。
「そうか、そうか。お前等、智則の事を苛めたら殺すからな?」
「……は、はい!」
相当、ビビっとるな。
制服からして新池中学校の生徒みたいやけど、俺の通ってた頃はヤクザ相手でも平気で喧嘩売る奴がいてたな。此れやから、ゆとり世代はアカンのや。
「今日は君等、帰り。智則に用が在るねん」
「……わ、解りましたぁ!」
「……し、失礼します!」
三人共、そそくさと帰っていった。後に残された智則は、半泣き状態やった。
「心配せんでも、捕って食ったりせん。まぁ、此処に座り」
ベンチを叩いて促す。
警戒しながらも、智則は頭を下げてベンチの端っこに腰掛けた。
もう直ぐ、バスの来る時間や。早い処、話しをつけらんとアカン。
「実はさっきの話し全部、嘘や」
「えっ……?」
更に困惑する智則。
「三日程、此のベンチから君を見とったけど、アイツらに苛められてたやろ?」
「は、はい……」
「だから一芝居、打って追い払ってやった。此れで苛められる事はないから、安心しぃ」
智則から警戒の色が消えたけど、まだ困惑してる。
「苛めを解消したったんやから、俺のお願いも一つ聞いてやったらん?」
「お願いですか……?」
困惑が頭を引っ込めて、智則は再び警戒した様子やった。
「せや。大した事やない。俺と賭けをしようや」
「い、嫌ですよ……」
あからさまに嫌そうな表情(かお)をする。
「心配するなって。大金を賭けようって訳やない。百円や。ちなみに、俺の全財産や」
百円を見せてやる。
「百円ですか?」
智則が少し笑った。
「おう。どうや?」
「其れぐらいなら、良いですよ」
——良し、乗ってきた。
「ほな、次に来るバスを最初に降りるのは、男か女か当てよか?」
「解りました」
「良し。ほな、俺は女に賭ける」
「じゃあ、僕は男に賭けます」
良し良し。
——俺の勝ちやな。
俺は三日間、此の時間帯に此処で時間を潰した。此処から見える日常を観察しながら——。
数分後、バスが来て二人の女子高生が降りた。
二人以外、降りる客はおらん。三日間、此の二人以外にバスを降りた人間がおらんのを、予め知っていた。だから始めから、此の勝負は俺に有利に働いてるんや。
「ほな百円、貰おか」
「解りました」
智則から百円を受け取ると両腕を上げた。
「ほな、もう一勝負しよ。右と左どっちに百円、入ってる?」
智則は左手を指差す。右手を開いて見せた。
「ほな、百円」
右手には百円が入ってる。予め両手に百円を握りこんどいたんや。左手の百円は、智則の意識が右手に集中している間に袖に隠した。
「もう一回です!」
お、嵌ってきだしたな。博打ってのは、負けを回収しようとすればする程、泥沼の様に嵌り込んでまう。
思った通り智則は、良いカモやった。
きっちり、毟らせて貰うで。
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