2
俺の地元、泉佐野市は大阪市外に在るいわゆる田舎町や。田舎町や言うても他の田舎の県からしたら大分、都会や。
泉佐野市から堺市までの府下を、泉州地方て言われとる。日本のワースト1に当たる柄の悪い地域や。市内の人間の多くは、泉州地方には恐がって近付きたがらん。確かに柄が悪い。ネットの書き込みで【修羅の島】とか言われとる。【修羅の島】て、男子の生存率2%な訳ないやろ。皆、逞しく生き残っとるわ。そんな【修羅の島】に住むホームレス達は基本、気の良いオッサンや。先生がニコニコしながら俺を見る。
「兄さん、此処の自販機は譲ったげるわ」
先生は檀原公園のホームレスの一人や。金を稼ぎたい言うたら、笑顔で自分のシノギを教えてくれた。
普通、自分の食いぶちが減るから、シノギを他人に教えらんもんやないのやろか。まぁ、教えてくれるなら甘える事にした。
先生のシノギは、自販機の釣銭忘れを猫ババする事や。先生曰く、特定の時間と場所に行けば特定の人間が毎回、釣銭を忘れるらしい。
——ほんまかいな。
どうにも胡散臭いけど、物は試しや思うて着いて来た。
檀原公園を少し通り過ぎた所に在る松風台(しょうふうだい)と言われる高級住宅街。其の入口の坂の上に在る大きな家の前に自販機が設置されて在る。
「ほら、誰かに取られる前に釣銭あるかみてみ?」
半信半疑で釣銭口に手を突っ込んだ。
「ほんまや!」
四百円も入っとった。
「ほら、見てみぃ。入っとるやろ!」
先生はえらい誇らし気やった。
「おおきに。此れ、御礼に受け取って!」
俺は三百円を先生に差し出した。
「良(え)ぇんか、兄さん?」
「百円、在ったら充分やで!」
博打するのに百円、在れば充分や。其れに、受けた恩は倍にして返さなアカン。此の俺、雛形双六(ひながたすごろく)は義理堅い。
「じゃあ、有り難く貰っとこか。おおきに」
「ほな、先生。ちょっと、行くとこ在るから俺は此れで」
「そうか。ワイは此れから、他の自販機も回らなアカンから」
笑顔で手を振る先生。
ほんまに良い人や。多分、皆、人が良過ぎるからホームレスになるんやろな。
俺は檀原公園の方に向かって歩いた。檀原公園の直ぐ側に在るバス停留所。其処が今回の賭場になる。
もう既に、カモは見付けて在る。
今から戻れば、余裕で間に合うやろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます