中学3年の夏、最後のバスケ

@heroyan

やる気のない僕の才能にかけてくれた夏

中学3年の夏休み、僕、児島はバスケ部最後の試合があったが、いつも控えメンバーで、試合に出ることはほとんどなかったこともあり、受験勉強優先で塾に向かっていた。

到着し、教室に入って席につき、筆記用具を出した時、塾の担当の先生から呼び出された。

「児島、お母さんから電話が来てるぞ。部活のことだそうだ。」

何のことか想像もつかず電話をかわった。

「バスケ部で今日大事な試合があるんだって?顧問の東野先生から電話があって、児島くんに来てほしいって。勉強はいつでもできるから、塾は休んで行きなさい。」

実はレギュラーが1人直前に怪我をしていることは知っていたが、まさか自分がその代役とは思いもしなかった。

急いで帰宅し、大きな番号のユニフォームを持って向かった。

そして試合にはなんとか間に合い、練習もせずそのままスターティングメンバーとして出ることになった。

相手は強豪校であり、正直自分を呼んだところでどうにもならないと思っていた。

ただ、東野先生に初めて期待されていることが、自分をこれまでにないくらい熱くさせていた。

普段はやる気のない僕だったが、この日は体力の限り全力でぶつかろうと、必死にプレーした。

結果、後半の終盤まで、僅差ではあるがリードしたまま試合を進められていた。

すると東野先生が僕を攻撃的な選手と交代させ、リードを広げようと勝負に出た。

しかし、残念ながらその後逆転され、試合が終了してしまった。

部活動に強い思い入れもなかったため、なぜ自分を変えたのだろうかとは思いつつも、仕方ないと割り切っていた。

その時、東野先生が僕のところまで来て言った。

「児島、お前を変えたのが間違いだった。すまない。勝てた試合だった。わざわざ来てくれたのに。でも助かった。ありがとうな。」

やる気もなく勉強優先で部活動を休んできた僕のことは、東野先生からすると面白くない生徒だったはずだ。

また、自分自身、東野先生には頻繁にプレーについてダメ出しをされ、バスケは向いていない、そう思っていた。

そんな中でのこの一言に、僕は胸が熱くなったのだった。

後日聞いた話だが、東野先生は僕の親にこう話していたそうだ。

「児島君はすごく良い素質を持ってるんです。運動神経、瞬発力、スピード。ただバスケに熱中してくれなくてですね、期待はすごくしているんですが。でも良い選手なんです。」

今となってはほろ苦く、熱い青春の思い出だ。

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