第2話 平穏のCOLLAPSE

灯里と出会った日の翌日の朝。メールで職員は自宅待機という旨が伝えられた。

JGSOは国営の組織だ。俺の様な下っ端は知り得ない機密も多い。恐らく今回の自宅待機もその為と考えられる。

「ま、大方お前の事だろうなぁ…」

「?何が?」

「いやさ、お前が脱走したからうちの職員に自宅待機の命令がでてさぁ」

ふーん、と灯里素っ気なくが答える。

「ふーんってお前、それだけ真剣に探されてるって事だぞ?」

「そうなのかなぁ…何か、そんな感じしないな」

「ん?どういう事だ?」

当の本人がそう言うので何故かと聞いてみる。

彼女は少し考えてから答えた。

「私なんとなくなんだけど、追われてる時って普通以上に焦っちゃうの。でもなんかそういうのが無いっていうか…うーん、よくわかんないけど違う気がする!」

「はぁ…」

大丈夫かこの子、というもやもやを残しつつニュースでも観ようとテレビを付ける。

そこに映された事実は、さっきのもやもやを地平の彼方に吹き飛ばす程の物だった。

<日本遺伝子保安機構で爆破テロ 死亡者多数>

「んなっ…」

その画面を見た瞬間、俺は走り出した。

「え、ちょ、ちょっと!どうしたの!?」

「すまん。すぐ帰る」

俺はリアクタ等必要な物だけ持ち家を出た。

悠長に電車で行っている暇は無い。そう判断した俺は殆ど使う事が無かったバイクに跨がり渦中の職場に向かった。

***

それはもう壊滅的な状態だった。

なんとか裏口が無事だったのだが、その中は天井が崩れ、壁は割れ、所々から火が出ている。

「何だよこれ…」

「救いの船を妨げる者への天罰だ」

「逃げるんだ草薙君!ここはもうダメだ!」

 誰だ、と後ろを振り返るとそこには若い男とJGSOの所長、西園寺雷蔵がいた。

「お前、何をしてる!所長を離せっ!」

「ふん。裏切り者の事などどうでも良いだろう。こいつの言う通り素直に消えればお前の命は取らないでやってもいい」

「裏切り者…?どういうことだ!?」

 相手はそんな事も知らなかったのか、と溜息をつきながら答えた。

「簡潔に言おう。確かにこいつはこの組織を創り、なにも考えない猿供の平穏を保ってきた。だが、同時にそれを乱す者でもあったのだよ」

「どういう事だ?」

所長が苦い顔を浮かべる。相手はそれを嘲笑う様に続けて言った。

「最初は本当に守るだけだった。だが、こいつも気付いたのだろう。こんな生物は守る価値がない、とな。」

「意味がわかんねー…とりあえずお前を倒す!オーバーインストール!」

「そんなに死にたいのなら殺してやる。オーバーインストール」

爪を構え斬りかかるが簡単に弾かれ、倒れてしまう。

「くっ…!」

「ふん。口程にもないな」

『パワー強過ぎるよ…!?多分汚染されてるコアだと思う』

汚染されたコア。K913 に感染したコアという意味だろう。 あらゆる能力がありえない程上昇するが、普通なら崩壊する。

なら何故インストール出来ているのか、答えは一つである。

コアには属性というものがあり、その遺伝子を持つ動物の特徴が反映されている。

火、水、木、光、闇の五つに大別され、例を挙げると人間は光、カブトムシは木といった具合だ。

そして属性はその中にも区別があり、上位属性なるものが存在する。

各属性五段階あり、不利と考えられる相性でも位が高ければ高い程それを無視できる。

汚染されても崩壊しない属性というのが闇の最上級属性、深淵である。

その属性を持つコアは危険性が高く、違法な物として回収されていた筈だ。

だがそれを持っているということは…

「お前…NOAか!」

「知っていたか。俺はノアのランペイジ。冥土の土産に覚えておくといい。さあ…死ね!」

「…っ!」

ここで死ぬのか…とオーバーブーストされ振り下ろされる拳を見る俺の視界

は闇に包まれた。

意識が戻った俺は、自宅のソファーに居た。

「?!何で家に…」

「あ、起きた?大変だったんだよ~。光ちゃんが透が大変だっていうから行っ

たら殺されかけてるんだもん」

「…動き速くない?」

俺が一番最初に思ったのはそこである。JGSOまでここから軽く 10km はある。それを一分や二分で到着するとはどんな手段を使ったのか。

「あー、私人工生命体だからさ。実験で色々組み込まれてるの。で、大急ぎ

で連れて帰ったわけ。感謝してね?」

「はぁ…うん、ありがとう」

「ま、深くは今のところ聞くつもりは無いけど…あんまり無茶はやめてね?」

そうだな…と返し、天井を見上げる。

職を無くす事になったが、そんな事はどうでも良くなる程の不安感が俺の中に渦巻いていた。


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