第1話 リアクト、開始

「怪物だ!」

そう叫び後退る青年の目の前には、辺りを破壊しながら暴れまわる狼の異形がいた。その姿はまるで怒り狂った人狼。

 叫び声に反応しそちらに向けられるその殺意に成す術のない青年は腰を抜かしてしまった。近づいてくる狼に今すぐ走り出そうとするが、体が言うことを聞かず、動けていない。

「あ…ああ…!」

「グルァァァ!」

 振り上げられたその鋭い爪が一つの命を絶とうとしたその時、1本のナイフが相手の動きを止めた。

「よし当たったァ!特殊駆除対象動物を確認。オーバーインストールを開始…えと、なんだっけ?」

「駆除及びライトストーンの回収をします。だよ。トオル!」

「あーそうそうそれそれ。オーバーインストール!!」

<OVER INSTALL>

 俺はサポートシステム『光』とよく分からない事を言いながら腕に付いた機械を操作すると光に包まれ、近未来な装甲に身を包んだ戦士となった。

「っしゃオラァ!覚悟しろ!」

「トオル、三時の方向から斬撃!」

「おっと!」

光の支持に従い攻撃を受ける。

腕に召喚された爪で弾き、隙ができた相手の左腕を切り落とす。

相手は手負いになった事で興奮し右腕を滅茶苦茶に振り回すが片腕が切り落とされ体のバランスが取れず、その場に倒れる。

「動かなくなった!チャンスだよ!」

「言われなくてもッ!G-コア、フルバースト!」

<FULL BURST>

「ハァァァ!!」

気合と共に高出力のエネルギーを纏った鉤爪で切り裂く。相手は爆散し、その跡にはくすんだ赤い宝石が落ちていた。

「おっ、ライトストーンあった」

「トオルとは共鳴しないね~。さ、帰ろ!」

「そうだな…あれ、さっきの人は?」

帰るついでにさっきいた人に話を聞こうとしていたのだが、どこにも居ないようである。帰ってしまったのだろうか。

「んー、ちょっと待ってね…あ、ちょっと前にどっか行っちゃったみたいだよ?」

「うっそーん…全く、報告書のネタ探さなきゃなぁ…」

えー、と光があからさまに面倒臭そうな声を出す。

「帰ろうよ~おじさん達への報告なんて適当でいいじゃん!」

「良いわけないでしょうが!俺がクビになっちゃうよ!」

問題発言をする彼女にツッコミを入れつつ荒らされた多目的広場『望月広場』を探索する。特にめぼしいものも無く大まかな被害状況だけメモして帰った。

上への報告を終えた俺は疲れた体に鞭を打ちながら家に帰った。この大きな一軒家は親の遺産で貰ったものだ。一人暮らしなので正直持て余しているが。

「ふぃー、ただいまぁ」

「おかえり~」

「はいはいただいまただいま…はぁ?!」

「どうしたの?」

「どうしたのじゃねぇよ誰だお前!」

繰り返す。俺は一人暮らしである。なのに何故か家主が不在の間に謎の少女が侵入していた。

所謂病院着のようなものを着た黒髪の少女はああ!となにかに気づいた表情で自己紹介を始めた。

「私は瀬戸灯里!JGSOの研究所で作られたヒューマノイド型の人工生命だよ!」

「そうじゃねぇよ!てかJGSO?!俺の職場なんだが…」

「へっ…?」

瀬戸と名乗る少女はJGSOが俺の職場だと知った瞬間顔面蒼白になり、泣き出してしまった。

「なんでこうなるの!!どうして!神様は私を見離すのぉぉ!!」

「お、おい落ち着けって!俺が連れて行ってやるからさ…」

「やだ…もうあんな実験されたくない…」

「っ?!」

うちの研究所が人体実験…?いや、人体ではないがそういう実験をしているということが初耳だった。

俺は少しこれは話を聞く必要があると考え、灯里を暫く匿う事に決めた。

「おい、詳しく話を聞かせてくれないか?暫くこの家で面倒見るからさ。」

「ひぐっ…うう…ほんと…?」

「ああ。流石に話を聞いておかないとだからな。研究科の暴走だったとしたら止めないとだし。」

「ありがと….」

灯里から明かされる事実は俺の予想をも上回る残酷なものだった。

「なるほど…ごめん、さっきは怖かったよな」

「いやいや!こっちもごめんいきなり泣き出したりして。うん、そんなもん。正直、もう限界だったんだよね…」

表には出せない治験薬の投与、細菌兵器の実験台、銃火器の実験台。再生能力が普通の生物より遥かに高いことをいい事に残酷な実験をしていたらしい。

この事実をどう報告したものか、と考えているとリビングにあるホログラム投影機から光が出てきた。

「?この子は?」

「トオル、お疲れ様。で、貴女は瀬戸灯里さんだったよね。私は光。トオルの付けてるリアクタのサポートシステムだよ!」

「へぇ…リアクタにこんな子が。」

「ああ。俺が持ってるのは古代リアクタでな、最初からいた。」

うちのサポートの自己紹介が終わったところでどうするかを改めて考える。取り敢えず自分の上司に報告するのが最善だろうが、また研究所に戻されてしまっては本末転倒だ。無論その場合匿っていた俺はクビになってしまう。彼女の存在がどう管理されているかがわからない以上動けない。もしうちの幹部の人達が了承した上での研究なら何らかの伝達が来るだろう。

「ま、取り敢えずうちで匿ってやる。ちょっとそれは見逃せないからな…」

「ありがと!なんにもしないのも申し訳ないし…私も色々するよ、家事とか」

「ん、サンキュー。よろしくな!」

「うん、よろしく!」 

灯里と光と俺、草薙透の運命がこの日、始まった。




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