26『戦隊たちの戦場』ロックシップ山採石場跡地

【五日目、朝】



 二メートルを超える巨漢が走る。

 白と茶色が混ざった石の崖に若干の緑が見えている下側、同じような砂利が転がる平らな地面。身を低くして爆走しているトラ男は何かから逃げているような様子だった。転がる死体の数は少なくない。トラ男の額に汗が浮かぶ。


「待ちたまえ!」


 切り立った崖の上から声が降ってきた。逆光に煌めく孤独なシルエットは五つ。トラ男の足が止まった。

 犬の獣人、コボルト。

 リーダーの赤、パワーの黄、スピードの緑、スライムの青、そして天才のグンジョー。お決まりのカラーリングに身を包む彼らはお馴染み戦隊ヒーロー。


「魔物を殺してこれ以上生態系を崩すことは我々が許さん!!」

「「「「「我らッ!」」」」」


 五人が思い思いのポーズを披露する。


「「「「「コボルト戦隊コボルトレンジャー!!」」」」」


 背景で無駄にカラフルな爆発が上がった。



――300X年、この世界は魔王メチャワルーイヨが支配していた!

――メチャワルーイヨは自身の権力の象徴として『全国にゃんにゃん』計画を発動する!

――世界に猫派が満ちていく時、コボルトレンジャーは激怒した!

――必ずかの邪智暴虐の王を取り除かなければならぬ!



〜 第1069話 トラック怪人イイトシシテフリーター 〜


♪ 街をつつむ Midnight dog  ♪

♪ 孤独な Silhouette 動き出せば ♪

♪ それは まぎれもなく ヤツさ ♪


♪ コボルト ルルルルラララ〜 ♪

♪ コボルト ミマママムムマ〜 ♪

♪ コボルト ウォオオゥオウ〜 ♪


(※J○SRAC申請中)




「「「「「我らッ!」」」」」

「「「「「コボルト戦隊コボルトレンジャー!!」」」」」


 尺の都合でもう一回爆炎が上がる。


「魔物を殺してこれ以上生態系を崩すことは我々が許さん!!」

「さっき聞いた!?」


 というか、実はここまでで何度も聞いている。アニメ放送で例えると三週分くらい。コボルトレンジャーが各々の決めポーズのままシュインシュイン気を高める。さっきから採石場に流れている音楽が妙に緊迫感を煽った。


「最近のトレンドは濃密過ぎる詰め込み展開だ!

 トラック真拳奥義――――『尺が足りない深夜アニメ』ッ!!」


 トラ男の猛攻が採石場の崖を崩す。全員真っ赤なオーラに包まれ、コボルトたちが空を飛ぶ。


「「「「「コボルト拳十倍だああああ!!!!」」」」」

「やべえぞトラ男ッ!!?」


 トラ男の右脇から頭を乗り出したのは、ねじり鉢巻のおやっさん。この道半世紀のベテラン走り屋トラリストだった。


「奴ら『空』属性の奥義を使いやがった! 『地』属性の奥義は効果がぞ! おいコラどこ強調してんだ!?」


 おやっさんの薄いヘアスタイルが無駄にズームされる。

 他意はない。


「ならばおやっさんを生贄にッ!」

「ッ!?」

「トラック真拳上級奥義――――『乱れグミ撃ち』ッ!!」


 トラ男の両頬がぷっくりと膨らむ。膨らんで膨らんで、破裂。そこからミニトラックが大量に飛び出してコボルトレンジャーを追撃。ミニトラックの対空性能を活かしたカウンター。


「伊達にキングオブハジケリスト目指してねえぞ!!」

「ふっ、まだまだ甘いな!」

「なに!?」


 トラ男が振り向く先、キザっぽい銀髪イケメンがキメ顔を浮かべていた。

 イケメンのシルバー、まさかの追加戦士だった。


「コボルト合体奥義――――『遠吠え、泣くのはお前だけどな』ッ!!」


 イケメンシルバーの犬笛にコボルトレンジャーが集結する。よく躾けられているようだった。イケメンは一切手を汚さず、五人が思い思いの物理攻撃をトラ男にぶっ放す。


「うぎゃああああああああああ――――ッッ!!!?」


 トラ男の絶叫が採石場に響き渡った。視界が土煙に覆われる。イケメンコボルトは勝利の確信を噛み締めていた。故に、叫ぶ。


「やったか!?」


 土煙が晴れた。哀れな男の死に様を拝もうとするが、開かれた光景は。


「トラック真拳小技奥義――――『所詮犬ころ』」


 ボール。

 球体のミニトラック。

 ちょろちょろ動き回る球体ミニトラックにコボルトたちはジャレついていた。悲しきかな犬の習性。


「きっっっっさ――「ほれとってこ〜い♪」まわあああああああああいい♪」


 フリスビートラックを投げられてイケメンコボルトが駆け出した。尻尾ぶんぶんバビブン丸である。



「ふぃぃぃいー、こんな苦戦するなんて⋯⋯⋯⋯やっぱり俺にキングは重過ぎた」


 ハジケリスト、即ちバカである。

 それを極めたハジケの中のハジケ、それがキング――即ちバカである。

 かつて目指した道がとてつもなく遠いことを実感した。しかし。


「案外、ショックじゃねえな⋯⋯」


 夢破れて不貞腐れる。そんな停滞はもう終わった。トラ男は、別にやりたいことを見つけていた。だから、この仕事はここで最後だ。

 トラ男はこれでも大人だから、仕事は最後まできっちりこなすのだ。



「「「「「「待てッ!!」」」」」」



 ハードボイルドに締め括ろうとしたトラ男を、コボルトレンジャーの声が止めた。彼らとて正義の使者、このまま引き下がるわけにはいかない。譲れない正義があるのだ。


「ヒューズ――――『芋超の芋羊羹』」


 それぞれが『芋羊羹』を掲げる。摂取することで、肉体がコスチュームごと60mほどにまで巨大化する切り札。


「悪ぃな⋯⋯⋯⋯遊びはもうおしまいさ」


 正義オーラを纏うコボルトレンジャー。

 トラ男は漆黒のトラックオーラをシュインシュインと噴き上げる。背景が劇画調に固まった。次週決着、待て次回。



「トラック真拳究極禁断奥義――――


『本番組は子供たちに著しい悪影響を与えるとのご意見を多く頂きました。従って誠に残念ではございますが本番組は本日で放送を終了することになりました。これまで長い間応援頂き本当にありがとうございました。なお、来週のこの時間は【ピヨちゃんオスメス鑑定戦記ぴよん】をお送り致します』」




















『次回予告』ダイスロール:5→ボスエリアに移動


ボスダイス→ ➊

はーしーれはしれー、トラ男のトラッークー!

ついに最終決戦――――トラ男が見つけた新しい『夢』とは。


次回、「トラ息子 ダーティダービー」。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る