18『絶対領域』モモ

【四日目、朝】



 聖域。

 まさにそう形容すべき世界があった。

 神々しい山々が連なり、華は咲き乱れ、小鳥はさえずり、小川が流れて、まるでこの世の天国のようだった。領域内に人の気配は一切ない。そして、それよりも上位な、精霊の類の気配が感じられる。


――――『絶対領域』は結界に守られていた。


 邪悪を阻み、汚濁を寄せ付けない。堅固であり、聖なる隔たり。

 邪な者を通さない。そんな結界の一部にひたりと手を添える大男がいた。彼は邪悪ではなかったが、汚濁だった。臭い、臭すぎる、十万石悪臭。


――――『絶対領域』の結界は汚濁を阻む。


 大男の実力ではこの結界を越えられない。その事実がよくよく理解出来た。大男は辺りを見渡す。聖域から流れ出る小川が、結界の外へ向かい、この小高い丘を潤していた。

 大男は服を脱いだ。

 脱衣――――全裸である。

 その逞しい車体を清浄な小川に沈める。

 水を浴びる――――水浴びである。

 小川といえど、二メートルを超える巨漢が身を清めるほどの広さはあった。ここまでの汚濁を洗い流す。綺麗さっぱり。

 やがて、小川は濁り始めた。大男は眉のワイパーをウィィンウィィン動かして全身を清める。そして、洗濯。汚れた衣服は清浄な小川によって清められた。

 流された汚濁が、小川を侵略する。


――――『絶対領域』の結界がくっさああああk、l;あsdmkcfmk


 小川を伝って汚濁が登る。まるで、鮭の川登りのようだった。

 聖域をゴミ山の汚濁が。

 清浄な空気を汚物沼の汚濁が。

 歌う花々を毒リンゴの汚濁が。

 美麗な小鳥たちを邪教の汚濁が。

 犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す。犯す。侵す。冒す――――――⋯⋯⋯⋯



「トラック真拳禁断最終奥義


 ――――――――『』」



 綺麗さっぱり心もすっきり。

 トラ男は爽やかな笑顔で、絶対領域を踏破する。

 この冒険の中で最も充実した時間だった。




「ピャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ピャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ピャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ピャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ピャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ピャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 小鳥だったモノが奇声を鳴き叫び、奇怪な色合いの植物が一斉に踊り出す。はてさて、絶対領域の明日はどっちだ。

 トラ男は振り返らない。

 大型トラックは自らの明日に進むのだ。


(はっはー! 俺、しーらねえ♪)





『次回予告』ダイスロール:4→『22』に移動


――――トラ男、トラック人生の岐路に立つ。


次回、「レディ=ババ」。

打ち明けられる派遣切り。

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