14『野生のリンゴ畑』テルのリンゴ園跡地

【二日目、夜】



 エルフは大弓の名手だった。

 鬱蒼と生い茂る自然のリンゴ畑。彼はここに住まう以前のことを覚えていなかった。ただ、技術のみがその手に。


(――――来た)


 寡黙に。

 冷徹に。

 身の丈ほどある大弓を引き絞る。物音一つしない静寂。恐ろしいまでの膂力りょりょくと緻密な技術の成せる技だった。


(……手が塞がった瞬間を狙う)


 このリンゴ畑はエルフの狩り場だった。ここを通る人間を何人をも狙撃してきた。理由は分からない。自分でもどうしてこんなことをしているのか分からない。それでも、やるのだ。

 それが。

 記憶を無くし、精神に異常をきたしたエルフの、たった唯一だった。

 寡黙に。冷徹に。森に潜むスナイパーは息を潜める。必殺の瞬間をじっと待つ。そして、風向きが変わった。こちらが風下に。



「くっっっさああああああ!!!!!?????

 ええぇ!!? なんだよこの臭いう〇こじゃねえかそれもただのう〇こじゃねえぞ!! う〇こを超えたう〇こスーパーう〇こ人かあいつはぁぁああ!!? 人の住処を汚さないでほしいいいんですけどおおおおおおお――――!!!?????」



 あんまりな悪臭に寡黙と冷徹が消し飛んだ。

 暫定・伝説のスーパーう〇こ人がこっちを見た。これだけ距離があっても流石に気付かれるか。伝説うん〇はちょうどリンゴの一つを手に取っていた。

 悪臭に脳機能をやられたエルフが絶叫する。


「手ぇぐらい洗えよもおおおおおお――――!!!!????」


 放たれる大弓。スーパーう〇こはそれを見てリンゴを盾にする。回避行動を取る猶予はない。合理的な行動だった。

 が、リンゴガードは大弓を止められなかった。

 彼の膂力から放たれる大弓は、板金鎧を貫通するほどの威力なのだ。

 リンゴの真中を射貫いた大弓は、リンゴを破裂させることなく大男の額に突き刺さる。見事なまでの腕前。恐ろしいまでに芸術的な光景だった。


(っっっぶねえええええ!!!! あまりのう〇こ臭に正気に戻っちまうとこだったああ!!? て――えええ?? 俺、実はこんな性格だったの!?)


 新たな自分発見。

 思わぬ自分探しとなった。


(ん? なんだ、あのう〇こ? まだ死んでねえのかよなんかこっち見てるしぃ……目線がう〇こくせえんだよお!!)


 伝説う〇こが口を開く。エルフは遠くからも獲物の状況を確認できるよう読唇術の心得があった。口の開き方から、そこそこ大きな声だろう。『!』が2つ分くらいか。


『ト』

『ラ』

『ッ』

『ク』

『シ』

『ン』

『ケ』

『ン』

『オ』

『ウ』

『ギ』

(うっっわ! う〇こくせえ息がこっちまで届く――――うん口臭〇うしゅう、なんつって!)

真夏の夜のほにゃららブラックボックス★トラブル


 う〇こが変形した。変形のプロセスが質量保存の法則を無視しすぎてウィリアムは目を疑った。だった。しかも運転席から黒スーツの男が降りてくる。


――――ヤバい


 ウィリアムは本能で感じ取った。慌ててその場を離脱する。だが、もう遅い。一秒にも満たない間に、黒スーツの男はエルフの肩を掴まえていた。

 いつの間に。

 どうやって。

 そんな疑問を厳つい視線でねじ伏せられる。


「おいコラァ! 俺の愛車によくも傷つけてくれやがったなぁ!」

「いや誰だよお前……?」

「あ゛あ゛んッ!!?」


 あまりの迫力にエルフの動きが止まる。横目で大男を確認するが、矢尻で器用にリンゴの皮を剥いている。


「おいお前! クルルァについて来い!」

「やべえよやべえよ……!」


 活舌が悪すぎて聞き取れなかったが、すぐ隣に召喚された黒塗りの高級車を見るに、そういうことだろう。逃げられるはずもない。観念したエルフが引っ立てられる。


「ぉら! あくしろよ!」

「すんませんすんません! 俺、記憶亡くして! メンタルもヤバくてどうしたらいいか、分んなかったんです……」

「なんゃ兄ちゃん、色々あったんやなぁ」


 意外にも、黒スーツの男は共感を示してくれた。そして、優しく尻を撫でられる。エルフの純情が小さく跳ねた。


「俺のことぁリンゴちゃんって呼んどくれ」

「リンゴちゃん……素敵な名前だ」


 とろんと蕩ける瞳。リンゴ畑一面を覆〇うんこ臭にも負けない甘酸っぱさが広がっていた――――……
















 カクヨムは良い子の全年齢サイトなのでここから先は描写されない。

 あしからず。




『次回予告』ダイスロール:1→『15』に移動


おもてなしの極限に至る。

果たして、人はどこまで優しくなれるのか――――


次回、「汚物は拒絶」。

そりゃそうだ。

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