10『ゴミの行き着く先』ゴミ谷沼

【二日目、朝】



「トラック真拳基本奥義――――トランスフォーム!!」


 バッコーン、と小気味よい音と共に樽が吹き飛んだ。中から拘束を解いたのは所々傷の目立つ、しかし立派な風格を纏う大型トラック。

 谷をそのまま転げ落ちていく大型トラックが大きく跳ねた。だが、頑強。奈落の谷に聳える高台の上に勢いのまま大ジャンプ。さながらレーシングゲームのようだった。


「今、クオリティの証明!」


 跳び立つトラ男は眼下を見下ろした。

 みすぼらしい格好の人間は少数。こんなところでもしぶとく生きている人はいるのだなあと嘆息する。


「このフォルムと機能に明日を見た!」


 轟音を上げて着地。そのまま岩肌と枯れ木が並ぶ坂道をライドオン。スピードメータが限界を振り切った。


「生き残るトラックは――――俺だあああああ!!!!」


 トラックの雄叫びが谷に木霊する。が、坂道の終わりを見てぎょっとする。

 飛び舞う蠅。走り駆けるゴキブリ。それらを養う大量のゴミ。そして、排せつ物が沼のようにたまっている。当然ながら車は急に止まらない。


「トラック真拳」


 見る。

 見渡す。

 どこかに緊急避難場所山間部の高速道路でちょくちょく見かける奴はないか。

 あった。汚泥の沼にぷかぷか浮かぶ木箱が並んでいる。


原点オリジン奥義――――」


 アレらにタイヤを引っかける。最初の引っかかりさえあればタイヤは回る。タイヤさえ回ればあとは馬力で押し通るのみ。

 なんたって大型トラックだ。

 馬力が違う。



「――――『840ハシレフォワード』!!」



 奇跡の四点着地。

 排気量マックスのエンジン音が爆音を奏でる。揺れるガソリンは魂のオイル。ギアぶっちぎりの四輪駆動が汚物沼の水面をきる。まるで川面に投げた丸石のように

トラックの巨体が跳ねた。


「いっっけええええええええッ!!!!」


 そしてエンストした。


「これだからMTはあああああああああちっくしょおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ――――――――…………」


 トラ男、汚物沼に沈む。






――――夕陽に照らされる全身汚物塗れの大男

――――彼の背中には無限の哀愁に満ちていた


「うーん、これはキツいな! ………………帰りてぇ」


 トラ男――――状態異常:汚物。

 大型トラックの冒険は続く。




『次回予告』ダイスロール:4→『14』に移動


大弓の名手、三浦ウィリアム。

精悍な青年は幼馴染みのリンゴちゃんが気になっていた。

果たして彼は、リンゴちゃんの身も心も射抜けるのか。


次回、「トラ男刺さる」。

恋の始まりは――――果汁100パーセントの甘酸っぱさ。

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