5『城下町の最果て』ゴミ置き場

――――ブイーン

――――ブイーン

「わぁい、お父さんもっとー!」


 セピア色の風景。大型トラックのフロントガラスに寝転ぶトラック少年。ワイパーがゆらゆら揺れているのを面白そうに眺める。


――――ブシャー!


 ウォッシャー液が直撃した。





【一日目、夜】


「貴様にその気持ちが分かるかぁ!!?」

「いや分かんねえよ!!?」


 歯抜けの男が後退る。目当ての宝石を横取りしようとした男に襲いかかったところ、急に回想シーンが始まったのだ。


「ふん、これがそんなに大事なものか?」

「へ、そいつの価値が分かんねえなら大人しく寄越しやがれ」


 男が眼帯をひっぺ剥がす。毒々しい赤色の眼球は、トラ男が拾った宝石と同じ色合いをしていた。


「貴様、まさか重度のものもらいか……!」

「そんなチャチな代物かよ! いくぞマン坊!」


 小さなナイフと頑丈なヒノキの棒。みすぼらしい盗賊崩れの男は必殺の構え(多分)を見せる。そして背中に背負う相棒らしき毛布。


「これが俺様のエクスキャリパーとガリベーンだあ! その宝石があれば大魔神ササキが蘇るってことよぉ!! の復活かだなあ!!

 あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ――――!!」

「……ヨコハマの亡霊だったか」


 薬で愉快にキマっちゃっている男が襲いかかる。色々と終わっている格好だったが、粗末な武器の先にはゴミ山で調合された猛毒が仕込まれていた。

 対するトラ男は両拳を強く握り締める。足幅はどっしり、カウンターの構えだ。



「トラック真拳奥義――――」


 そして、眉のワイパーが激しくウインウインする。


「『ワイパーワイバーーンッ』!!」



 渦巻く烈風が龍をかたどった。無論、小汚い盗賊など敵ではない。ズタズタに引き裂かれた同業者は黒い液体に溶けていった。


「む、死んだのか?」


 異様な消え方だった。トラ男が首を傾げると、拾った宝石が光り出した。そして。


――――ガチャ


 トラ男の右脇がゆっくりと開いた。運転席側から出てきたのは、さっきの小汚い盗賊紛いだ。


「おらあ! 投打二刀流だあ!」


 不意をついた男がトラ男を滅多打ちにする。


「あ! やめろ! バンパーはやめろ! バンパーだけはやめろ! おい! バンパーだけはやめてええええええええええ――――ッッ!!!!」


 凄惨なリンチのあと、ボコボコにされたトラ男は樽に詰められる。

 謎の宝石はもちろん、王様から貰った水筒に入れた携帯食ガソリンやリュックサック、ナイフ、ランタン、銅のメダルと身ぐるみを剥がされて。残されたのは価値がないと見なされたコンパスのみだった。


「けっ、帰ってパワ〇ロやりてー!」


 樽詰めにされたトラ男はそのまま樽ごと谷から落とされる。






『次回予告』ダイスロール:なし→『10』に強制移動


やめて!

そんな不安定な木箱に大型トラックで突っ込みでもしたら大変な事故になっちゃう!

お願い、沈まないでトラ男!

あんたが今ここで倒れたら、王様や派遣元との契約はどうなっちゃうの?

立派なタイヤでこんな沼なんか踏破しちゃって!

ここを渡れば、魔物にだって勝てるんだから!


次回、「トラ男沈没」。

デュエルスタンバイ!

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