プロローグ

【一日目、朝】


 始まりの場所『ボーケン城』。

 大広間の中央に敷かれた魔方陣から異様なものが伸びていた。巨大なタイヤだ。否、それはタイヤ型アフロだった。もっさりとした弾力がぷるぷる震えている。


「これは一体……召喚は成功したのか?」


 魔術師っぽい老人がクビを傾げる。よれたスカジャンを羽織る大男は腰から下が魔方陣に埋まったままだった。運送派遣から紹介された派遣君が眉のワイパーをぴこぴこ動かす。


「あのぉ」


 雷雲のような重い声だった。


「御社の車高は何メートルでしょうか…………?」

「うむ、3.3メートルだが……」

「古い規格ですね。それでは大型トラックは厳しいですよ」

「うむ、そうかぁ……」


 素麺みたいに白くて長く、真っすぐな髭を撫でつける老人。先方との打ち合わせ不足だった。


「困ったわい。これでは魔物討伐の納期に間に合わんかもしれんのぅ……」


 納期は一週間である。過ぎればクライアント帝国からの信頼失墜は必至。弊社国のワンマン王様は声を尖らせる。


「おい。貴様、アレを持ってこい」

「はい!」


 派遣入社二年半のつわもの士達しだち君が駆け出す。ここでよいところを見せなければ契約が切られるのは目に見えている。目指せ正社員。それはそれでサビ残で使い潰されるぞ。


「王様、これを!」


 そうして持ち出されたのは『30cm四方の赤い布』だ。


「これで車高制限はクリアじゃ!」

「異世界運送派遣職員トラ男、業務内容謹んで承ります」


 魔方陣から大型トラックが吐き出された。二メートルを超える巨体が膝を折る。


「ふははは! 普通の派遣勇者を適当に召喚したら間に合うか不安だからな! トラックを呼び寄せてやったわい!」

「うむ、この案件達成も同義ですな……!」

「では早速――――参ります!」


 ガシャン!

 ゴシャン!

 ドンガラガッシャン!!

 破裂音と共に10tトラックに変貌したトラ男が走り出す。冒険の旅が幕を開ける。




『次回予告』ダイスロール:五


トラック界のサラブレットとして生を受けたトラ男。

これまで波乱に満ちた旅路を今こそ語るべきなのだ……!


次回――――第総話「総集編、万策尽きる」の巻。

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