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 クソな世界。クソな周りの人間。全部がクソ。その中で私が一番クソ。

 他人も自分も全部信頼できない。

 もうホントにどうでもいい。

 きっと、一度自分のことを自分も他人もわかった気がしてわかりあえたと勘違いしたから、その反動がこんな心理状態にしているのだと推測している。

 限界だ。もう、頑張って生きることなど放棄してやる。

 試合当日。

 メイが会場に来なかった。コトさんから本人と連絡がつかないと伝えらえた。

コトさんの話だとどこかで今回の相手の情報を入手して逃げたのではないかのとことだった。

 あの子もクソだな。

 プライベートでも一緒に遊んだ仲なのに、パートナーの私に黙って試合当日に来ないなんて裏切り行為をするのか。私がどうなってもいいのか。

 それとは対照的にやっぱりな。それもそうだよなと納得している自分もいる。

 私だって命が惜しかったら逃げ出したかもしれない。

 コトさんは言わなかったが、私に逃げ出すことを勧めていたのではないか。それだけ、今回の相手は危険でヤバイのは試合を観たからわかっていた。

 そうか、みんな自分のことが大事なんだ。他人なんてどうでもいい。

 ホントに死んでしまいたい。

 今はもうホントにそう願っている。

 むしろ、この試合で死んでしまってもいいくらいだ。自分で死ぬのも面倒だから、そういう場所を提供してくれるならむしろありがたいくらいだ。

 私の精神はこの時完全に崩壊しているのがわかる。

 コトさんが何やら試合放棄の方向へ動いてくれていたが、主催者側がそうはさせなかった様だ。コトさんは心配そうなすまなそうな複雑な顔をしていたが、もうどうでもいんだよ。私に構わないでと言いたかった。

 試合開始のゴングが鳴る。

 ルールは変更なしの一人ずつリングに上がって戦い、どちらかのチームが全員失神するまでのデスマッチ。

 チーム全員って私は一人。実質、ニ対一でしかもその一人は確実に私よりも強い相手。完全に試合として成立していないのは試合前から誰もがわかっていた。

 こんなの試合と呼べるのだろうか。

 それでも、止める人間がコトさん以外いないというのはここにいる人間全員クソだ。

 そもそも、コトさんも私をスカウトしなければこんな世界に足を踏み込まなくて良かったんだから、彼女もクソな人間だ。

 でも、結局はそれを知ってか知らぬかこうして足を踏み入れて、今は知っていてもあえて試合をする私がやっぱり一番クソな人間だ。

 試合は一分も持たないうちに私の劣勢になった。

 お腹が相手の蹴りとパンチで大きく凹まされていく。

 痛い、気持ち悪い、苦しい。

 こんな心理状態でもいっちょ前にそんなことを感じているんだと自分の身体が滑稽だった。

 立っていられなくなりその場に蹲る。

 お決まりの吐しゃ物が口から噴射される。

 私は声が高い方だが、嘔吐するときは凄い獣のような声が出る。

 汚い。みっともない。

 これもお決まりのそんな私を見て観客から歓声とヤジが飛ぶ。

 私が認められたい、褒められたいと思っていた人間がこれだ。ちょっと可愛いと思われたか知らないが、真面目に頑張っているのを金で釣って頑張りを利用されているだけ。使えなくなれば代わりの子がいくらでもいて捨てられる。

 クソが。

 え? 

 自分は誰だ。今、吐いてお腹を抱えて床に倒れているのは一体誰だ。

 その声を浴びながら自分が自分ではない変な現象に襲われる。

 そうこうしているうちに、相手に無理やり立たされて、フェンスに両腕を括り付けられ羽交い絞めされているような恰好になると、そこから容赦ない下腹部責めが始まる。

 激痛が頭を駆け巡り、気を失いそうになる。

 死んでもいいと思ったが、こんな苦痛ならば死ぬより辛いのではないかと逃げ出せないのに逃げ出したくなる。

 二回目の嘔吐。さらに失禁。

 観客の歓声と罵声。相手の不敵な微笑み。

 一体、何をやっているんだ。

 一発のパンチが、内臓のどこかを潰してグチュという音がしたような気がした。

 さらなる激痛が襲う。

 もういい。もう止めて。

 完全に戦意は失っていた。

 朦朧とする意識の中で、母の失望した顔がフラッシュバックされた。


 その後、試合は当然のこと私の敗北。試合後、私は自分で立ちあがることができずそのまま病院に搬送され、胃と腎臓の部分損傷と診断され手術が行われた。

 一命は取り留めたものの、選手としてはもはや復帰することは危険だと医師からは言われ、事実上、クラブの試合は出場できなくなった。

 あれから、コトさんも何回かお見舞いに来てくれたが、元気のないふりをして、寝たふりをして全く話さなかった。そのうち、彼女も来なくなって私は一人になった。

 一人天井を見上げてこれからどうすんだろうと途方に暮れていた。

 こうやって、不貞腐れて、勝手に落ち込んでいても放っておかれて一人ぼっちにさせられるだけで、助けてくれないものなのだなと自分の甘さと世間の冷たさと厳しさが身に染みた。


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