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鍛え始めたとは言え、肋骨が浮き出るような細くて腹筋も薄っすら縦に割れるくらいのお腹に拳が殆どめり込むくらいのパンチを食らったらひとたまりもない。

 クラブの対戦相手はいよいよ、自分よりも強い相手が続々出てくるようになる。

 今日の相手も体型こそ私と大差なかったが、引き締まった腹筋はしっかり縦と横に線が入っていて薄っすら六つに割れていて、腕も腕を曲げるとしっかり力こぶができるほどに鍛えられていた。

 これは厳しいと敗北が頭を過り、恐怖が襲ってくるがリングに上がった以上逃げられない。

 戦っていて知ったことだが、リングに上がった後にドアへ施錠をするのは、選手が相手を見た瞬間に逃げ出さないための対策ということだった。

 クラブの試合はわかっていたことだが非公式の闇ファイトである。ただでさえ、失神するまでという過酷なルールだが、時折、明らかにミスマッチな相手との対戦を組まれることがある。

 というより、それがために高いファイトマネーが選手たちに支払わている。だからこそ、リアルでエキサイトした戦いが繰り広げられるのだと私は思っている。

 そして今日は明らかにミスマッチであるのは行われる前からわかっていが、もう戦うしかない。

 腹筋を固めて戦おうと相手に近寄ったとたん、相手が私の視界から消えて、気づいた時には相手の拳がお腹の目の前にありそれがグリッと腹筋を破壊してめり込んだ。

 ゴエと変な声を出してむせ返り、そのままお腹に拳がめり込んだま後ろのフェンスへ押し込まれた。

 両手でめり込んだままの拳を放そうと試みても、相手の腕はめり込んだままでむしろお腹の奥へめり込み、手首くらいまでそれがめり込んでいた。

 ウエ。

 胃が圧迫に耐えられず袋に入っていた内容物を吐いてしまう。

 呼吸ができない。

 何分もその状態にさらされ、抵抗していた腕と腹筋には力が入らなくなり使えなくなりますますめり込みは酷くなり、腕をグリグリと回される。

 ゴハ

 相手の腕に大量に二度目の嘔吐をする。

 朦朧としてくる意識の中で流石の私も戦意を失いかける。

 ふと相手の顔を見ると相手は楽しそうに笑っている。

 わかっていたんだ。

 私が最初感じていたように、相手も私を見た時にコイツは簡単に勝てるとわかっていた。

 意識が途切れた。

 意識を取り戻すと、フェンスの前でうつ伏せで倒れている形になっているのがわかった。リングに相手はいなかった。

 負けた。

 起き上がろうとすると観客の歓声かヤジかわからないが、怒号が飛び交う。

 いつもの負けた光景であるが、今日はやけにそれが酷く大きく汚い言葉を浴びせられている気がした。

「汚ねえなあ」

「おい、もっといい顔で吐けよブス」

「おしっこももらしているぞ。ハハハ!!」

 おしっこ。お尻の部分に意識をやると水着が湿っているのがわかった。

 失禁したんだ。

 大学の頃、初めて彼氏ができた。

 同じ学部の偶然席が一緒になったことで仲良くなった男性だった。彼はそこそこイケメンで、頭もよくて気も使える人だっが、よく私のことを笑った。 

 運動神経の良くないことが災いしてか、歩いていると何でもない平坦な道でもよく転ことがある。彼と一緒に歩いていても時々転んでは助けもせずそんな私を笑っていた。

 ファミレスに行っても、つい言い間違いをすることが多い私を天然だよなあとよく笑った。

 私と言えば、それは好かれているから弄られていてそれも彼への愛情だろうと思って我慢してモヤモヤした自分の気持ちを押し殺して一緒にヘラヘラ笑って誤魔化した。

 結局、彼は一カ月もしないうちに飽きられて他の人と付き合ってあっけなく別れてくれと告げられて捨てられた。

 立ち上がれない。

 胃が殴られたダメージで息をするたびにボロボロで切り刻まれたように痛い。

 オエ。

 無理に立ち上がろうとした歪か、胃の中に残っていたものを戻す。

「早く立ち上がれよ!!」

「いいねえ。その顔」

「次回も頼むぜ、姉ちゃん!!」

 止まない怒号。

 惨め。

何やっているんだろう私。

 ふと、観客席に目をやるといつか会ったスポンサーと言われている男性の姿があった。

 笑っていた。

 私を観ていて笑っていた。

 応援してくれているわけではないのだろうか。

 相手の失禁を観たいという要求に答えられず、私自身が失禁してしまった。不甲斐ない。でもどうして笑っているのか。期待に応えられなかったのだから、怒ってヤジを飛ばすものではないのか。

 オエ。もう胃に何もなく空なはずなのに、また嘔吐感が襲ってきて、空嘔吐をする。

 もっと強くならないと。

 もう一度顔を上げて客席に目をやると男性の姿はもうなかった。

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