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毎年ナゲット、ポテト係。

私がバイトスタッフたちに陰で言われているあだ名だ。

店は店長以外はバイトスタッフで運営しているから、作業も単純で効率よくできるようになている。

 だから、今日はこの持ち場と決められたらその日はずっとその持ち場で仕事を淡々とこなすシステムになっている。その持ち場は大きく分けてレジカウンター、ハンバーガーをひたすら作るバーガー、そしてポテトやナゲットをひたすら揚げていくフライヤーである。

 その三つの持ち場の中で一番作業が簡単で覚えやすいのがフライヤーという箇所で新人はまずはそこから仕事を覚えていく。

 私は四年間このファーストフード店で仕事をしているが、その一番簡単な場所以外はやったことがない。他の普通のバイトスタッフは半年くらいすれば三つの箇所を全部教えてもらってできるようになる。できるようになって初めて一人前のスタッフとして「使える」スタッフになれる。

 私と言えば、一つの簡単な箇所しか任されないし、それおろか、その簡単な場所の仕事でさえもミスを連発してまだ怒られている人間である。

 給料泥棒と言われたことを思い出す。

 きっと店長も怒り任せに言ったんだろうけれども、もしかしたらもう言ったことさえ忘れているかもしれなけど、私の心には深くその言葉が刻み込まれていた。

 刻み込まれていくら傷ついても自分が変われるわけでもなく、誰も慰めてくれるわけでもなく、同じ環境がただ続くだけ。

 むしろ、こんなにずっと傷ついているんだから環境が変わってほしいと心のどっかで考えている自分がまた嫌らしい。

 一方、一カ月くらい前に入った新人のタイセイという後輩は、もうその私が苦戦しているフライヤーという場所は一週間ほどで完璧にこなし、他の箇所も二週間ほどで完璧に覚えて今ではすっかり店のスタッフにも溶け込んで店長にも気に入られていた。

「ねえ、真面目に社員になること考えてよ」

 店長が珍しく、客が途切れた合間にカウンターで話をしている。仕事中に笑顔で雑談しているのは珍しい。相手はタイセイさんだ。

「前にも言いましたが、俺には夢があるんで」

 それを迷うことなくスッパリと断る。

「そう。残念。社員になると言ったら、もう次期店長店長にゴリ推しするのに」

 厨房から、ゴリ推しなんて使う人だったんだと違う一面を見ている気がした。

「私もさ、この仕事十年くらいしていて、そろそろ違う店舗で店長したいんだよね」

 そんな本音を話す店長を見たことがなかった。それだけでタイセイさんは凄い人間であることが分かった。

「そうですか」

「ほら、彼もねそろそろ結婚とか言われているんだよ。私も三十歳だし。こういう一人店長の職場もキツくて」

「そうでしょうね」

「そうそう。かと言って、いい加減な人間にはこの店を任せたくなくてさ、適任者を探しているんだけど。中々優秀な人は見つからないし、見つかったら見つかったでこうして断られるでしょ?」

 店長が寂しそうにため息を吐く。

「残念だけどでも、田村君の夢は何かわからないけど、あなたの夢なら私応援するよ」

「ありがとうございます」

 こんな優しい言葉をかける人だったんだ。

 私への態度とは正反対すぎて理不尽だとモヤモヤな感情が沸いてくる。嫉妬する。差別だ。どうして私だけこんな仕打ちを受けないといけないんだ。

 でも、それは私だからだとすぐに納得した。仕事ができて人柄も魅力的ならば同じ人でも態度が変わって当然なのかもしれない。

「こら! オーダー!」

 レジカウンターから店長が私に向かって叫ぶ。

 何のオーダーか全く聞いておらず、どうすればいいかわからずどうすればいいかわからなくなる。

「すみません。もう一度お願いします」

 困った挙句、店長のいるカウンターにもう一度オーダーを言ってもらうように叫ぶ。

「はあ?」

 それに店長はさっきまでの表情とは対照的に、声を荒げて私の方へ向かってくる。その顔も穏やかとは程遠い眉間にしわを寄せて私がいつも見ている店長の顔になっていた。

「仕事中!! ボーとしていたの?」

「いえ、そんなことは」

「いや、ボーとしていたよね? だったらなんでオーダー聞きそびれるの?」

 自分だって、タイセイさんと話していたくせにと頭を過ったが、それでも店長は仕事はしっかりしている。いつものように何も言い返せない。

「ったく、いい加減にしてよ。今接客中だから後でまた話があるから」

 ポテトMね。と言ってカウンターに戻っていった。ポテトを揚げながら、また怒られるんだ。と憂鬱になっていた。

「ねえ。あんたさあ」

 予告通りまた客の流れが途切れると私の前に店長が現れた。当然ながらいつもの私向ける顔だ。

「これまであんたには随分甘く見て来たけどもう限界」

「店長。取り込み中失礼します。エリアマネージャーから電話です」

 そこへタイセイさんが間に入ってくる。

「ああ、うん」

 店長は私を一回睨みつけてスタッフルームへ消えていった。

 しばらく、何となく、何故か、タイセイさんと向かい合って見つめ合う。

「店長が戻ってきたら、冷蔵庫の整理していてオーダーがよく聞こえなかったって言ってください」

「え? でも、私、そんなことしてないけど」

「いいんです。そういうことにすれば店長の怒りも沈められるし、君もこれ以上怒られないで済む」

「は、はい」

「君という人は、、、」

 吐き捨てるように彼が言う。そのあとは何だ。また何が言いたいのか。うまく立ち回れとか言いたいのだろうか。私だってうまく立ち回りたいと思っているし、怒られたくもない。憤りが一気に溜まっていくのがわかる。

「あの、タイセイさんの夢って何ですか?」

 きっと、何か反抗したくて口走った言葉だと思う。別に彼がどんな夢を持っていてもいいと思うし興味はない。

「ああ、言っても信じてもらえないと思うし、無理だと言うと思うで」

 信じてもらえない? どうして信じてもらう必要があるんだろう。

「それよりも、どうしてそんなこと聞くんです?」

「いえ、だって、あんなに店長から期待されて、いい、、」

 いいなと言おうとしたが、それはタイセイさんが社会性や人間性を今まで鍛えて磨いてきたからその結果になっているだけだ。羨ましがるのはお門違いだ。

「いいなって? 君は一体、何になりたいの?」

 何になりたいって? そんなのはない。わたしはただ、普通に生きたいだけだ。普通に生きてちょっと人からそれこそ期待されたり、好かれたりされれば言うことない。

「さ、また店長が戻ってきますよ。さっき言ったこと。言ってみてくださいね」

 彼はカウンターに戻り、接客をしていた。

 あれから店長が戻ってきて、彼に言われた通りのことを伝えると店長はそれ以上その件には何も言われずに事なきを得た。

 どこまで私はダメなんだろう。

 店長が過ぎ去った後、いつも以上の自暴自棄に襲われる。

 クラブ。

 期待されているところがった。こんな私にも期待してくれる不思議な場所。

 そう今の私にはそれがあった。

 急に目の前が明るくなった。

 気持ちが晴れると目の前の仕事にも集中できて、その日の仕事は無事に終えられた。

 今の私にはクラブの試合だけがゆういつの精神安定剤であり、希望かもしれなかった。


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