第12話 「勉強のご褒美」
「じゃあ、先に行ってるぞ?」
俺は玄関のカギを閉めた。
連休3日目。連休の最終日である。
俺は一人で待ち合わせに指定された場所に向かった。
いつも双子と出かけるときはどっちかの家に集まって行くのだが、霞の希望でこうなった。
そのときの様子はこうだ。
ーー
「ね。連休最後でしょ?どこかに出かけない?」
いつものようにスカートの中で雫の膝枕を堪能していると、霞がそんなことを言いだした。
「出かけるってどこに?」
「どこか。これから決める」
なんだそれ……?
「いいけど、お前宿題やったのか?」
「あ……」
やってないな。そりゃそうだ。
初日は友達と出かけて、昨日は練習試合。宿題をやるタイミングなんかどこにもなかった。進学校じゃないとはいえ、連休ってことで宿題はそれなりに出ている。
「写させないぞ?」
「は?なんで?」
キレ気味に言ってくるが、俺には全く意味がない。
「出かけてもいいけど、宿題が終わってからな」
「言ったね?すぐ終わらせるから」
ガチャンとなぜか玄関のドアが閉まる音がした。
「……なんでアイツ外に出たんだ?」
「そんな気はしてたけど、やっぱり持ってきてなかったんだね……」
雫は頭を抱えた。
朝になっても霞は戻って来なかった。
俺は昨日と同じように雫の布団を腰までめくって、霞の布団を引っ張ってきて、最高の布陣を構築した。
と肩のあたりに固い感触があった。なんだろう?と思って手に取る。紐だ。よく見ると雫のパンツの紐が片方なくなってる。
「へえ……紐パンって紐がほどけても脱げないんだ……」
無残にも雫の寝相に負けてしまった紐を布団から回収しておく。ボケボケの雫だから絶対布団の中でなくす。もう片方はまだ頑張って耐えてるっぽい。
「よし。完璧だ」
遠くでガチャンと玄関のドアが開くドアがした。
「そうじー!あれ?」
時間を見ると12時。今日も怠惰な昼を迎えたようだ。雫はまだ寝てる。
「そうじー?」
霞が探しているみたいだが、あえて返事はしない。このままヤツの布団を使ってるのがバレれば腹を踏まれる。
トットットッと階段を上ってくる音が聞こえた。
「そうじー?」
ガチャ
「あれ?いない……?」
開けたのは俺の部屋。
「しずくー?」
ガチャ
「ん~……」
「ちょっと。アンタ、まだ寝てたの……?」
「ん~……」
モゾモゾ動く雫。まだ寝るつもりらしい。
「で?アンタはなんでアタシの布団で寝てんのよッ!」
ドスッ!
「ごほっ!?」
――
というわけで、宿題が終わった霞のご褒美ということでお出かけとなったわけだ。
連休の最後の午後ということもあって、待ち合わせ場所にはまだ結構人がいた。
10分ほど待っていると、双子がやってきた。
「おまたー」
雫はいつも通りスカートだが、霞はホットパンツにタイツ。
普段霞は私服じゃあんまり見せないのに、ここぞとばかりに太ももを主張してきてる。
「どうしたの?」
人の視線に敏感な霞が俺の視線が太ももにいってるのに気づいたらしい。霞の目論見通りにいったのだろう。ニヤけてる。
「いや。なんでもない」
どーせバレてるだろうが、ここではあえて踏み込んでこないだろう。
「で?俺はなんも考えてないけど、どーすんだ?」
霞に「ついてくるだけでいい」と言われていたので、俺も雫もマジで何も考えてない。
待ち合わせに指定された場所は、ここら辺ではここにくれば揃わないものはないといわれる大型のショッピングモール。駅から離れた場所にあって、めっちゃ広い。
「決まってるでしょ。夏物の買い物」
「は?もう?」
まだ5月なのにもう夏物……?
「アンタね……周りを見てみなさいよ。薄着の人増えたでしょ?」
霞が言った通り、周りを見ると薄着の人が多い。ちょっと前まで寒い寒い言ってたのがウソのようだ。
「必要になってからじゃ遅いの。着たいときにないと困るから今買うわけ。おーけー?雫もいい?」
「「お、おーけー」」
というわけで、荷物持ち兼マネキンということらしい。
衣食住の「住」は置いといて、「食」は雫が、「衣」は霞が担当している。今日着ている服も霞のコーディネートによるものをテキトーに着ている。つまり、俺はこの双子がいなければすぐ死ぬ。片方が多少暴力的な気がしなくもないが、全体を見ればそんなものカワイイもんだろ。
「でも去年買ったのあるよね……?」
ファッションには俺と同じレベルな雫が静かな抗議を上げた。
「あのね……アンタ、ワンサイズ上がったでしょ?着れないとは言わないけど、たぶんちょっとキツイよ?あとで泣きついてきてもアタシにはどうしようもないから」
「ええ……」
雫が露骨にイヤそうな顔をした。霞は大きな溜息を吐いた。
「どっちにしろここまで来たんだからアンタたちには拒否権はないの。おとなしく付いてきなさい」
そう言って霞はエスカレーターに向かって歩きはじめた。
「……今日何時間で終わるのかな……?」
雫が不安そうな声でつぶやいた。
「まあ……暗くなる前には帰りたいよな……」
「はあ……」と二人で溜息を吐いて霞を追いかけた。
突然だが、男子諸君に問いたい。
スカートもいいが、ホットパンツもよくないか……?
上りエスカレーターに乗る俺の目の前には、霞のお尻がある。デニム地でピタッとしてるため、その形が手に取るようにわかるようだ。
視線を少し下げればタイツに包まれた太もも。バレーをやってることもあって筋肉質だが、膝枕にすると高級感のある枕に早変わりする。その太ももを黒タイツが包んでいるのだ。
いつも生足ばかりだったが、もしかしたらタイツの膝枕もいいかもしれない……。
「ソウくん……?」
霞の足を考察していると、雫が俺の服を引っ張った。
「どうした?」
「気になる?」
雫の視線は霞の足……というか、タイツに向けられている。
「気にならないって言ったらウソになるけど、さすがにそろそろ暑いだろ」
「でも霞ははいてるじゃん」
「アイツは『寒くてもカワイイから大丈夫!』ってホンキで言うヤツだからなあ……」
霞は夏にタイツを履くことはあっても、冬にはタイツを履かない。真冬に生足で外を出歩くため、帰ってくると足が真っ赤になってることも多い。
「寒いんだからタイツ履いたら?」って言ったこともあったが、「は?コレがカワイイんだから大丈夫」と取り付く島もなかった。カワイイと大丈夫はつながらない気がするんだが、どうだろう?
「でも、雫は持ってないだろ?」
中学の頃もそれなりにいる機会はあったが、雫がタイツを履いてるところは見たことがなかった。だから持ってないはず……。
「持ってるよ?冬用だけど」
冬用は暑いだろ。
「ソウくんが気になるなら買おうかな~……たぶん夏用もう出てるはず」
「気にはなってるけど、気に入らなかったらどうすんだ?霞には合わないだろ?」
文化部を貫いてる雫と現役バリバリの霞では太ももの太さが全然違う。雫が履くと足回りがゆるゆるでも、霞にはパツパツで動けなくなったなんてこともある。
「ん~……そのとき考える」
妙な対抗意識を燃やしてる気がするけど、大丈夫か……?
「あ、ここからだとメンズの方が近いね。創司からはじめようか」
と上に着くと辺りを見回して霞はそういった。
このショッピングモールは入った場所次第で内容が大きく変わるため、この手の買い物をするときは、霞がそのときの気分でテキトーに入ってから目星を付ける。
「あんま予算ないから去年のとも合わせて考えてくれ」
「はいはい」
そう言って俺のファッション担当は近くのメンズショップに入っていった。
「もうムリ。疲れた……」
俺は家のソファーに雫を座らせてそのままスカートの中に潜り込んだ。熱気がスカートの中にもたまっている。スカートをバサバサして空気の入れ替えをする。
「あ、ちょっと涼しい……」
快適になったところで、精神の浄化をはじめた。
そうやってる間に、まだ元気が有り余ってる様子の霞は、「先にシャワー使うねー」と言って風呂に行ってしまった。さすが運動バカなだけある。
「あ~ながかった……」
そういったのはどっちかわからなかった。
予算とその他諸々を先に言っておいただけあって、俺がマネキンになった時間は1時間で済んだ。逆に俺のように予算を指定しなかった雫は、霞はノリノリで着せ替えはじめ、途中で店員さんが来ると、店員さんと霞が雫に着せては「あーでもない、こーでもない」と着せていった。
ひと段落したのは3時間が過ぎたころ。
雫が「お腹空いた……」と言い出した。が、そこから吟味することさらに1時間。
家に着いたのはちょうど夕飯の時間になったくらいだった。
「あ、そういえば、タイツも買ってきたよ」
雫は買ってきた袋をごそごそして、タイツを取り出した。黒のタイツだが、「通気性バツグン!」とか書いてあるので、なんとなくだが期待はもてそうな感じがする。すぐにでも試してみたいが、残念ながらもう体が動かない。
「優秀。けど、今日はムリ。次の休みにしよう」
「ん。わかった」
とりあえず次の休みの楽しみが増えた。
これで俺はあと2日ある学校を生き延びれる……はず。
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