第10話「運動後の膝枕は最高である」
「雫、なんか作るなら先にシャワー浴びてくれば?」
「いいの?じゃあ入ってくる」
買い物から帰ってきて、すぐ地下で折檻……もとい、霞の練習をやってバテた俺はソファに倒れ込んだ。
雫に先にシャワーに行くように言ったのは霞だ。いつも真っ先に行くのに珍しい。明日槍でも降るんじゃないか?
「なに?槍なんて降らないけど?」
ジト目で霞が俺を見た。
「……あれ?口に出てた?」
「出てないけど、そのくらい考えそうだな……くらいは思った」
「よいしょっと」とソファに倒れ込んだ俺の頭が持ち上げられたと思ったら、固いソファの生地から芯がありながらも柔らかい太ももに変わった。
視界いっぱいに霞の太ももが広がる。
「ちょっとしっとりしてんだけど?」
「そりゃそうでしょ。あんだけ打ち込んだら汗かかない方がおかしい」
俺が言いたいのはそういうことじゃないんだけどな~。まあいいか。動くの面倒だし。
鼻の位置がちょうど太ももと太ももの間にあって思ったより息ができてる。
息はできてるが、霞の汗からくるのか、いつもより甘い匂いが鼻の中に充満してる。
「あ~やっぱこれはダメ。ムリ。創司、向き変えて」
霞は俺をソファから落としそうな勢いでグイグイ押してきた。
「わかった!わかったから押すな!」
あの雫でも体育の後は恥ずかしがったんだから無理もない。
俺は仰向けに体勢を変えた。
「なんで雫は平気な顔してんの?マジで意味わかんないんだけど」
相当恥ずかしかったのか、霞の顔は真っ赤になっていた。
「そりゃあ、お前、経験の差だろ。っていうか、さすがに雫だって体育の後はアレだっただろ」
「でも今じゃ平気な顔してるじゃん」
ムッとした顔で霞が答えた。
まあ、たしかに……。
体育の後であってもスカートの中に入るのは今も変わっていない。
雫が恥ずかしがったのは、最初を含めても数回だけ。今ではもうすっかり慣れたもので、何も言ってこなくなってしまった。
でも、霞はどういう風の吹き回しかわからないが、最近になって突然膝枕を受け入れはじめたわけで。
そんな霞が急に運動してすぐの膝枕ができるようになってたら、それはそれでどうなの?って話にはなる……はず。
俺は全然平気だけど。
「その前にすでに膝枕するってことに慣れてんだよ。知らんけど」
「あー……そうゆこと?アタシにはまだ早いって?」
なんでキレ気味なの?その通りだけど。
雫の膝枕は中学卒業してすぐだったから霞よりも1カ月以上の差がある。なにより、膝枕に抵抗があった霞と違って、雫は最初から受け入れていた。
今では当たり前にやっているスカートの中に顔を入れるのも、寝起きでボケボケの雫をみて「もしかしてこの中に入れても大丈夫じゃね?」と思って入れたことがはじまりだった。
案の定、何も言われず、頭が働きだしても何も言ってこないし、ときには協力してきたこともあったので、そのままズルズルと今に至っている。
「いやでも、やっぱ意味わかんないわ。なんで受け入れてんの?」
「知らんわ。雫に聞けよ」
なんて言ってるが、霞もなんだかんだで膝枕に慣れてきているようだ。すでに昼休みにしていた膝枕の時間を超えている。この調子なら6月にはスカートの中に侵略できるかもしれない。
霞のスカートの中の様子は中学以降これまで1度も見たことがない。中学はセーラー服だったこともあって、中にジャージを着てたりしているため、仮に見えたとしてもそこにあるのはガッカリ感だけだった。
だが、高校のスカートは膝上。ジャージを仕込むことはできない。
見せても大丈夫な、いわゆる「見せパン」なるものがあることは知っているが、運動をする霞がそこまで手間をかけることなんてしないだろう。
ガチャと俺たちがいるリビングのドアが開く音がした。
「霞も入ってきたら?」
パジャマ姿の雫だった。たぶん買ってきたものだろう。双子は寝るときは下着姿だが、それまではパジャマを着ている。ワンピースなのはたぶんすぐ脱げるから……?
「じゃあ入って来よっかな」
そう言って霞は雫と入れ替わりにリビングを出て行った。
雫はそのまま晩御飯の用意をするのかと思ったら、俺がいるソファの方に来た。
「メシの用意はいいのか?」
「ん。まだいい」
そう言いながら俺の頭を持ち上げた。その間に座ってソファと俺の頭の間に太ももを入れた。
霞よりも非力な雫だが、休みの日にもこういうことを繰り返ししているので、絶妙な力加減と素早さがある。
いつものポジションにつくと、雫の柑橘系の匂いと慣れきった太ももの柔らかさに、落ち着いた気分になる。
「霞のはどうだった?」
「何が?」
「膝枕。ずっとしてたんでしょ?」
鋭い。
「ん~別に悪いってわけじゃないけど、慣れないな。ホテルの枕みたい」
「私とだったらどっちがいい?」
雫もたまにこうしてどっちがいいか聞いてくることがある。こうして聞いてくるときっていうのは、霞よりも上だと思っていることがほとんど。根拠も一応ある。
「そりゃ、雫だろ。安定感が違う」
「そっか。あれだけやったらそうだよね」
「だろ。レベルが違う」
雫は満足したのか俺の頭をなでてくる。
「まだ風呂入ってないのにいいのかよ」
「あーそうだっけ」
そう言いながらもなでる手は止まらない。
縁側にいるばあちゃんになでられるネコはこんな感じなんだろうか。
バッティングセンターで張り切ったせいで疲れたから、雫のいい感じの力加減でなでられてると眠くなってくる。
「雫、タンマ」
「ん?なんで?」
今まで数えるほどしか止めたことがないが、このまま寝るのはマズいと思って、雫を止めた。
「このままだと寝る」
「え~もう少しで霞が出てくるよ?」
「その前に寝そうだ」
「ええ~」
雫は「ウソだ~」みたいな反応をしているが、こっちはすでに睡魔に片足を掴まれて引きずり込まれようとしている。止めたいが、雫の手は止まる気配がない。
「バッティングセンターでどのくらいやったの?」
「あー……わからん。たまに休憩してたけど、ほとんどやってた」
デパートの屋上にあるバッティングセンターは、一見普通のバッティングセンターだが、実はそうではない。裏メニューに500円で無制限に打てるコースがある。
誰もができるというわけではなく、管理人と顔見知りになって、学生であることが証明できないとこのコースを紹介してもらえない。しかも占領していいのは1つだけ。スピードの可変もできない。
ただ、無制限だ。やってるうちに慣れる。
俺は2人とわかれてから雫から連絡が来るまでほぼずっとやっていた。腕に力が入らないってほどではないが、おそらく明日は筋肉痛になるだろう。
「そっか。じゃあお疲れだね」
なんて言っていると、霞が風呂から出てきた。
霞も色違いだが雫と同じワンピースのパジャマを着ていた。
「どう?なにか感想は?」
霞が見せつけるように言ってくるが、今の俺はそれどころじゃない。
「風呂に入ってくる。メシよろしく」
「は?ちょっと!?なにそれ!?」
そのあとも霞がなんだかギャーギャー騒いでいたが、風呂に入ってしまった俺にはわからなかった。
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