第8話 「同居前夜の出来事と当日の雫さんの朝」

「なんで言ってねえの?バカでしょ?」

「い、忙しかったんじゃないかな……」


雫がフォローするが、そんなものは意味がない。


「もう旅行先に着いてるっていってんだぞ?バカだろ。あと3日あるのに」

そう。電話口が妙に騒がしいと思ったら、俺の両親はすでに海外。仕事は有給を使ったとか言いやがった。


「え?早くない?アタシたちの方なんてたぶん今頃準備してんじゃないかな」

「だから言っといてくれってさ。クソすぎる……」


頭を抱えてると、雫が手を伸ばして頭をなでてくれる。最高かよ。



「え!?もう現地にいるの!?はや!」

「じゃあ、朝イチで行くか~」

「そうね。じゃあ創司くん、2人よろしく~」


って双子の両親が言ったのは昨日の夜のこと。


朝、2人を起こしに行ったらもうすでに双子の親はいなかった。


「は?マジで行ったの……?」

「書置きあるし、そういうことなんじゃね?」

「はあ……?意味わかんないんだけど」


霞がそういうのもムリはない。

書置きといっても「行ってくるからよろしく!」と書かれた紙が1枚だけ。


「……アンタんちもアンタんちだけど、ウチもウチだね」


リビングのテーブルに無造作に置かれた書置きを手に取った霞がつぶやいた。


「朝練は?」

広い体育館だが、その分人も多い。体育館を使う部活の朝練は1日置きになっている。今日は朝練がある日だったはず。

「あー……そうだ。あるわ。じゃあ先行くから」

「はいはい」


霞を見送って雫の部屋に向かう。


雫の部屋は水色が多く、その中に黄色やピンクの小物がアクセントとして置いてある。


遮光カーテンを開けると、布団の山が光を避けるようにモゾモゾと動く。


「ん〜……」


お、今日はもう反応がある。いつもより寝起きが良さそうだ。


「朝だぞ」

「あと5ふん〜」


なにマンガみたいな返事してんの?


「霞は朝練でもう行ったから準備しないと間に合わないぞ?」

「ん〜……じゃあ遅れてく〜」

「却下」

「ええ〜」


雫が布団から出る前はだいたいこんな感じの会話が繰り広げられる。


「あーそうだ。あの人たちももう海外に行ったぞ」

「ええ〜?なんでえ?」

「知らんわ。いいから布団から早く出ろ」

「ん〜……」


頑として布団から出ようとしない雫もいつものこと。俺が起こす前から布団を剥がされて起きるを繰り返してたらしく、掴まれないように両方の手足と体を使ってガードしている。が、そこは人間の体。鉄壁に見えて意外と穴はある。


ふむ。今日は足元を固めてるな。


俺はガードの薄い腰のあたりの布団を掴んで一気に引っ張る。


「あー……」

下着姿の雫が布団を求めて手をバタバタさせてる。ちょっとゾンビみたいでヤバい。


テーブルがある霞の部屋じゃこの芸当はできないが、ベッドと勉強机、壁際の本棚くらいしかない雫の部屋であれば、多少荒っぽくしてもぶつかるものがないので問題ない。


今日の雫さんはブラが青と黄色のチェック、パンツは青と白の横縞。ブラはがっちりしたものではなく、ゆったりとしたものっぽい。なんていうのかは知らん。


外気に当てられて耐えられなくなったのか、雫はのっそりと起き上がる。


「おはよう」

「ん〜……」

まだカックンカックン舟をこいでる。けど、ここまで来れば後は半分夢の中の雫がどうにかするはずだ。

「先に食ってるからな」

「ん〜……」

と返事なんだかうなってるんだかわからない声をあげてる雫を置いて、俺はリビングで朝飯を食べる。

しばらくすると頭をユラユラさせた雫がリビングに来た。


「ん〜……あれ~?なんかある~?」


そう言って雫が手に取ったのは、霞がポイ投げした例の書き置き。


「ん〜」


少し眺めた程度でこれまた霞と同じようにポイ投げした。この辺は双子らしい共通した行動っぽい。


「はいよ」

「ん〜」


まだ睡魔に片足を掴まれたままの雫は、フラフラとイスに座って俺が持ってきたトーストをハムスターのようにモソモソ食べ始めた。


普段霞にしてもらってるメイクだが、雫が全くできないというわけではない。普段霞がやるのは、単に起きてから頭が動くまでにかなりの時間がかかるからという身も蓋もない理由である。


霞は出る前にごちゃごちゃと色々やるが、雫はカバンに入るポーチの中に収まる程度。霞曰く、「最小限で最大の結果を出す」とかなんとか。


寝起きにも色々やるらしいが、そこは霞が「あの寝起き状態でもできるようにした」らしい。軍隊かよ。


霞は自分がいないときは、ちゃんとやったかどうかを俺がチェックするようにも言ってきていた。


チェックする方法は簡単。


食べ終わってソファーで頭がまともに動くのを待つ雫のほっぺたを触るだけ。ちゃんとしてあれば、しっとりモチモチ。何もしてなければ、スベスベ、サラサラ。これだけ。アレコレ言ってもわからんからシンプルにしてもらった。基準は太ももの感触だ。


俺はスカートの中に落ち着く前に膝枕のまま手を伸ばす。伸ばした手に磁石で吸い付けられるように雫の顔が降りてきた。うむ。太ももよりしっとりモチモチ。たぶん霞には怒られないだろう。


しばらく雫のほっぺたをムニってからスカートの中に入った。


暗闇に目が慣れてくればスカートの中と言えども様子はハッキリとわかるようになる。目の前にはさっき見た青と白の横縞パンツ。顔をうずめたくなった。うん。うずめてしまおう。


パンツの生地の奥にある雫の体温と下腹のやわらかさ。最高である。


起こしたときにも見ているが、スカートの中から見るパンツは別の何かを感じる。わかるだろ?モロに見えるのとは違うんだよ。

しかも、あの手この手を使って瞬間的に見えるものでもない。そう、この光景は選ばれし者しか見れない!

それをあっさり通り越して先に進んでしまうことのなんと愚かなことか!これだけで人生の8割損してるといっても過言ではない!


誰に向けたのかもわからない考えを巡らせていると、ふと時間が気になったので、スカートをまくって壁にかけられた時計を確認する。


まだ7:30。あと30分は大丈夫だな。


時間を確認した俺はスカートを元に戻して顔を雫のお腹の方に向けて横向きの体制に変えた。

目で楽しんだ後は、触覚と嗅覚で楽しむ。


しっとりとした太ももに柑橘系の匂い。今日も変わらない。最高である。不変の最高。


「ソウくん、霞は~?」


まだ寝ぼけたままの雫が霞の気配がないことに気付いたっぽい。


「朝練で先に行った」

「そっか~」


テキトーすぎる返事だが、タイミング的にはこんなもんで問題ない。


「朝自分でメイクしただろ」と思うかもしれないが、あれは無意識なので、ほとんど覚えてない。なので、雫からこの質問が出るということは少しだけだが頭が動き出したことでもある。


出る5分前くらいになるとスイッチが入ったようにバチッと動きだすので、前みたいにソファーから落とされないようにしておく。


しばらく雫の匂いと太ももの感触を堪能してると、「ん~」と伸びをする雫の声。そろそろ動きそうだ。


「あ~……そろそろ行かないとね~」

「もうそんな時間?」

「ん~」


俺はスカートの中から出て時計を確認。あと5分。ここからはただの膝枕。平日の朝、最後の抵抗。


「もうちょっとあるけど」


睡魔から解放されたらしい。声がちゃんとしてるわ。


あと2日で怠惰な連休が来る。


宿題?知らん子ですね。

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