第4話 「押して引いて押すが攻略法」
もう少しでGWが来るタイミングで強制になった部活の紹介をする会が1日かけて開かれた。
通学や昼休みには一緒にいる霞と雫も授業や移動教室では別々の場所でそれぞれの友達と一緒にいて、この部活の紹介の会でも授業と同じように、バラバラで行動している。
俺は後ろの席のオタクこと四郎と一緒に部活紹介を見て回っている。
一つの場所でまとめて紹介するというわけではなく、校内の探索も兼ねているため、それぞれの部活に部屋が割り当てられ、目的の部活以外も見れるようにしているのだ。
ふつうなら半日くらいで終わるだろうが、この学校は部活がかなり多い。
校舎も広いため、ほとんどが移動時間になる。1つの部活に使える時間はせいぜい5分、長くても10分いかないくらいで一通りバラバラになってみて、それぞれの感想で部活を決めることにしたのだ。
「総司、イイのあったか?」
午前中に周われる分を見終わって四郎が聞いてきた。
午前中に周ったのは、サッカーや野球、バスケのほか、将棋、囲碁といった割と部活としてはメジャーな部類のモノばかりだった。
マイナーというか、「こんなのもあるの?」というのもあって、本を読むだけの読書部、美術ではなく、思い思いの作品を作る芸術部なんてのもあった。
午後には軽音部、吹奏楽部、歌唱部、ビリヤード、卓球などなどマイナーな部活名が数多く並んでいる。
「いや……どれもビミョーでコレじゃない感がすごい」
「そうか……」
「四郎は決めたのか?」
「ああ……」
そう言って銀縁の眼鏡をクイッとあげた。
「漫画部だ」
「漫画部?そんなふあったか?漫画研究部なら覚えてるけど」
漫画研究部の部室が特徴的でよく覚えている。部室が数学準備室で、漫画を描くのではなく、ホントに研究するためだけの資料が雑然と置かれている場所だった。
「漫研は研究するだけだからな。ホントに描きたいヤツが別で作ったって話だ」
「ヘー」
「しかも、そこはサークルでもあって、その手の人間にはよく知られてるんだ」
「へー。どうやって見つけたんだ?知ってたとか?」
「いや、校内を彷徨ってるときに偶然見つけた。サークルって話を聞いたのもちょっと前だ」
偶然かよ。
教室に戻ると、雫と霞の双子とその友達たちがワイワイ話していた。
「相変らず人気だな」
「そーだな」
連に教室で待ち合わせの約束をして、いつも通り購売から屋上に続くルートを辿る。
誰が開けているのか未だにわからないが、学校の中で唯一静かな場所が開かれているのは、感謝しかない。
誰もいない屋上だが、誰もいないと思って誰かいたときの気まずさったらないので、俺は人目につかない場所に行き、双子を待つ。
「ね。アンタのとこはどーだった?」
焼きそばパンをーロ頬張ったところで霞に聞かれた。
「運動部は『恨性!!』って感じだったな。やっぱり。ビリヤードとかダーツとか変わり種もあった」
「ヘー!ダーツとかビリヤードって面白そう」
「それがやってみたら思ったより難しくてさ。全然思った方に行かないんだ。霞も雫もやってみるといい。触わらせてもらえるから」
「そうだね。やってみる!アタシ達の方はね……」
霞たちの方の見てきた部活についても聞いたが、霞たちの方はあまり面白そうではなかったらしい。
女子が集まって佇ったこともあって、男子が多い部活は熱苦しいし、料理部は見てるだけでマウントの取り合い状態でとてもじゃないが、食べられそうな空気ではなかったそうだ。
「そりゃ災難だったな」
「ホントだよ」
「雫は?」
「う~ん……どれもイマイチかなあ……入ったら大変そうな感じしかしなかった」
そりゃ、霞の話を聞く限りの俺でもそう思ったんだから、見てきた雫の言葉には実感がこもっている。
購売で買ってきたパンを食べ終わると、雫の膝枕を拝借。
相変わらず最高の質感である。
「だとしたら作るとか?でも難しそうだな」
「そんなことはないと思うけど……」
「そうか?だって『勉強します』みたいな部活にしたら絶対成績で言われるぜ?」
「そりゃそうでしょ。勉強するって言ってるんだし」
「だから、それじゃ先生に丸め込まれてどっかに入らされるだろ?俺が求めてんのはそうじゃねえの」
「は?イミフなんだけど」
墊に行きたいのに部活で行けない、遊びたいのに部活でそんな時間が作れない、これをまとめればかなりの人数になるだろう。
勉強だけに絞れば許可は出るかもしれないが、この人たちの賛同は得られない。最も遊びたいのに部活で時間が作れないのは、それが目的だからどうしようもないんだけど。
「帰宅部はダメなんだっけ?」
雫が霞に聞く。
「ダメだって。帰さないことが目的なんだから早く帰れる部活なんて許可できるわけないってさ」
霞は自分は関係ないのに、こういったことには結講協力してくれる。早い段階で友達を作れる霞は情報収集にも長けているのも心強い。
「つまり早く帰りたいなら、合法的で先生に負担の少ない部活であることを認めさせないとダメってことだ」
これは本気で考える必要がありそうだ。
そう思った俺は雫のスカートをめくって柑橘系の匂いを感じながら思考の世界に入った。ちなみに雫のパンツはレモン色だった。
午後も部活を見ていたが、霞や雫が感じた通りの部活だったり、俺が受け付けない人たちがいたりと、やはり全体的にピッタリくるものはなかった。
何としても部活に入らないようにムリヤリ回避しようとして作っただろう部活もあった。意外だったのは「勉強をする」だけの部があったことだ。
「受験対策部?」
「ああ。志望校の受験に向けてひたすら勉強する部だってさ」
俺の部屋で見てきた部活の感想会のようなものが始まっていた。霞はすでに決めているが、見てきたものの感想を聞くだけでも十分参考になるといって雫と一緒に来ていた。
「なにそれ?ガリ勉の権化みたいな部活じゃん。アタシなヤダなー」
運動しかないバカの霞は頭の上でバツを作った。
「ま、一年で入るヤツはいないから的なことは言ってた」
「ふーん。ほかは?」
「ない。おもしろそうって思ったのはなかった」
「そっかー。アタシ達も似たようなモンだなー」
霞はお手上げとばかりに両手をあげてそのままゴロンと後ろに転がった。
「やっぱ作る方がいいかもしれんな。雫はどうする?」
「ソウくんが作るならそっちにしようかな。どの部活の人も目が怖かったし」
「怖かった?」
「そう!歓迎の仕方がすごかったの!」
部によってはお菓子やお茶、飲み物が出てきたり、「ちょっと休憩していけば?」みたいな話もあったらしい。おもてなしにしては距離が近く、中にはベタベタ触ってくる人もいたとか。触わられたのは友達の友達だったようだがそれでも気分のいいものではないだろう。
5人で動いてたこともあってうまく逃げれたようだが、そのときの部員の眼がヤバかったようだ。
「あのままずっといたらヤバかったよね」
「うん。もう関わりたくない」
「でも部活を作るねえ……」
俺はいつものように雫の膝枕に収まる。
「それなりに人数を集められないとダメだし、そもそもこっちの考える要求が通らないのもあるんだよな」
「うまく言い訳してってやっても限度あるしね」
「ってことはマジで作らないとダメなのか……面倒な」
面倒すぎて逃避したくなる。そうだ、楽園に行こう。
俺は雫のスカートをめくって中に入る。
ああ……、心が洗われるようだ。雫のお腹にスリスリするとめっちゃ柔らかくて枕や布団より気持ちがいい。
部活なんて入らなくても人生どうにかなる。だが、この癒しはなくなったら俺は死んでしまう。
「よし。とりあえず何も浮かばないから放置しよう」
と言うか、何か言われるまで行動しなくてもよさそうだな。誰かが作ってくれればそれでいいわけだし。
「いいの?」
雫が不安そうに聞いてくる。
「それっぱいのが思い浮かべばいいけど、そうじゃないだろ?なら『まだ考えてます』でいいだろ。あんまり言ってくるようなら今日の話をすればいい」
柑橘系の匂いでクリアになった思考でそう返す。
「アンタのそれも同じだからね?」
「そうなのか?」
「ううん」と雫。
「つーかそんなにふつーにできる?意味わかんないんだけど」
霞は呆れた目で俺を見る。
「そんなに言うならやってみるか?」
「は?」
「やってみればわかるだろ?」
雫のスカートから出て霞の方に行く。
「霞もやってみるといいよ。ソウくんなら怖くないし」
「そうゆーことじゃないから!ちょっ!来んな!」
霞はそう言いながらジリジリと後ろに下がっていく。
「まあまあ、いいじゃないっすか。試しにやってみれば」
俺が近づいた分、霞は後ろに下がる。
ジリジリと近づいては遠ざかりを繰り返す。
普通なら壁際まで追い詰めてしまえばなす術はない。それで終わりだ。
だが、それでは俺は面白くない。
先が短いなら追い詰めればいいが、この先もやってほしいならこちらも譲歩する必要がある。
ジリジリ下がっていく霞があと少しで壁際というところで俺は近くのをやめた。
「そうか……そんなにやりたくないならしょうがない。やっぱ安心安定の雫だな」
「へ?」
雫の方をみると、「おいでおいで」と雫はペシペシ自分の太ももを叩いている。
わかってはいたけど、俺の無茶ぶりをなんでも受け入れてくれる雫の器の大きさには感服してしまう。
ありがたやー、ありがたやー。
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