第3話 「体育の後のスカートの中はヤバい(ヤバい)」
「雫のスカートの中に顔を入れるわりに、あたしのスカートの中には入れないんだ?」
「はい?」
思ってもない霞の発言に俺は固まってしまった。
「だって変じゃん。雫にはあんなに簡単にするのに、あたしにはしないとか」
なんで急にそうなる?
「ええ?やっていいのかよ?ダメだと思ってたんだけど」
「ダメなんて言ってないけど?そりゃあ、雫にさせ続けるのはどうかと思うけど……」
それは遠回しに霞にするのもダメって思うだろ……ふつう。
でも……そうか。やっていいのか。
「ってそうじゃない!見たか、見てないか、どっち!?」
「え……見てはないし、見えてもないんだけど……」
「は?なんで?」
なんでキレてるの?
「お前だってテーブルの下が暗いことくらいわかるだろ」
「そんなの当り前じゃない。何言ってんの?」
「んなとこで脚を動かしたくらいじゃパンツなんて見えねえよ?」
「は?」
雫がやってるのを見て真似していたようだが、俺と一緒になって試行錯誤した雫と見よう見真似の霞では格が違う。
でもそう考えると雫もなかなかアレだな。明言はしないけども。
ん?待てよ?霞もなんだかんだでコッチ側ってこと……?何それ。ヤベーじゃん……。それだけで生きる理由ができたかもしれない。
「いや違うし。見せようとしてなんかないし」
この期に及んで言い訳したしたんだけど。
「そなの?」
「そうなの」
「ふ~ん」
それから霞の家に着くまで声を発することはなかった。
俺たちのクラスには、週に1回だけ体育が昼休み前の4時間目にある曜日がある。
今日はその初日で、さっき授業というか、体カ測定が終ったところだ。
さっさと着替えを済ませた俺は、購売で買ったパンを持って屋上に向かう。
放課後は開放されているのを知ってる人が多いが、昼休みも開放されている人は少ないらしい。よし、今日も誰もいない。貸切状態。
俺はいつものように人目につかない場所に行き、雫と霞を待つ。
身体測定をしているときに、少しだけ2人と一緒になる時間があって、そのときに格好をつけようとつい全力を出してしまった。そのせいか、地味に疲れてる気がする。
入学して2日ほどは2人と別々で食べていた。だが、別のクラスの男どもがわざわざ2人の近くに来て大騒ぎしたり、放課後に呼び出すために待ち伏せをしてたりと、全く食べる気分にならなかったらしく、今はこうして3人で食べるようになってしまった。
あまりに遅いと先に食べてしまうこともあるが、最近は3人で食べることの方が多い。
ギィ……とドアが開く声がしたと思ったら双子の声が聞こえた。
「あーもう最悪!!何アレ!?」
ボーッとしてた俺はあまりの声に体がビクッとなってしまった。
声の感じ、大声で叫んだのは霞だな。
屋根を踏み抜かんばかりにドシドシ足を踏み鳴らしてこっちに来た。
「どうしたんだ?」
霞が叫ぶほどイライラしてるときは、雫に聞くに限る。これで霞に聞こうものなら八つ当たりされるので、この方がいいのだ。
「えっと……」
「聞いてよ!」
霞が遮った。
これは面倒なパターンだな。
「双子なのに胸のサイズはこんなに違うんだね!だって!」
「は?」
着替えてるときに雫と霞で見比べられて、割と「ない」方の霞に同情の声がかけられたらしい。
「だからー!雫よりもないって!双子なのに!うっさいわ!アンタらの方がアタシよりもねえだろ!比べんな!」
はぁ……はぁ……息を切らして一気に叫んだ。
「霞、言葉遣い」
雫は弁当を広げながら霞を嗜める。
「あー!マジキレそう!!」
「いや、今のそれはキレんじゃないの?」とは言えない。下手なことを言えば、八つ当たりされるのがわかってるので、こうなったときの霞は言いたいだけ吐き出させた方が俺に被害が少ない。
俺も雫に倣って買ってきたパンの袋を開ける。1つ目はピザパンで、2つ目はコッペパン、3つ目がメロンパンだ。ピザパンの袋を開けるとトマトソースの匂いが口許まで来た。
食欲をそそるいい匂いだ。一口頬張ると、トマトソースとチーズの味が口の中に広がる。冷たいがうまい。
欲を言えば温かい状態で食べられたらと思うが、残念ながらここに来るまでに固くなってしまうため、それはできない。
と、霞の視線を感じた。見てるのは俺じゃない。見てるのは俺の足元にあるパンだ。
「どうした?」
「なんでもない」
と言いながらも霞の視線は動かない。ジーっと見てる。
「自分の弁当があるだろ」
「知ってる」
まだ噴火が終わった直後の火山のようにぷんすかしてる霞だが、その視線は俺のメロンパンに定めたまま、弁当の包みを広げて、モソモソ食べはじめた。
器用すぎない……?
「お前、弁当食ってこれも食うつもり……?」
「食べないよ?」
なんて言ってるが、視線は動かない。ずっとメロンパンを見てるのに、弁当の中はどんどん口の中に入っていってる。
コイツ、いつからこんなに器用だった……?
ピザパンの口直しに買ったコッペパンも食べ終わり、メロンパンに手を伸ばすと「あ……」なんて声が聞こえた。
「なんだ?」
「別に。」
「さいですか」
ここまで来れば俺でも霞がメロンパンを食べたいことがわかる。わかるが、さっきまで大声でキレてたのに、メロンパン1つでかなり静かになってるのが面白いと思ってしまった。
霞の手の中にある弁当の中身はもうすでにない。
メロンパンの袋の封を切ろうとすると、「食べるの?」という目を向けてきた。
「はあ。そんなに食いたいならやるよ」
「いいの?」
「そんな目で見られたら食いにくいわ」
メロンパンを霞に投げつけると、雫の膝枕に頭を乗せた。
「メロンパンのお返しにアタシの膝枕でも貸そうか?」
「いや、いい。メロンパンのクズを落とされたらかなわん」
「落とさないし!」
いや、ムリだろ。
いつものように雫の膝枕に収まって、仰向けになって空を見てると、ふといつもとは何かが違うことに気づいた。
頭の置き方が変とか、空の見え方が違うとかではない。目に見えない部分だ。
体を雫の方に横向きにした。
その道のプロの中には膝枕で最高なのはうつ伏せという人もいるが、個人的に順位をつけるなら横向き、仰向け、うつ伏せの順だと思ってる。
うつ伏せをするくらいならスカートの中に顔を入れても変わらないし。むしろそっちの方がいいまである。異論は認めない。
横向きの場合、顔はお腹の体温と匂いを感じられる上に、膝枕まで堪能できる。うつ伏せだと顔全体で足の感触を味わえるが、呼吸がほとんどできなくなってしまうため、気持ちよさより息苦しさの方が強くなってしまう。
だから横向きの方が最高と言える。
と誰に向けてかわからない証明をしたとこで、猫が飼い主の脚に顔を擦り付けるように雫のお腹をグリグリする。
たまにしかしないんだが、雫のお腹でこれをやるとマジで気持ちいい。服越しなのに適度な柔らかさに温かさも感じられて、一言で言って最高。強いて言えばブラウスのボタンが邪魔。
「どうしたの?」
「なんかいつもと違う気がする」
「え?何もしてないよ?」
「それはない」
「ええ?」
「何もしてないよ〜」と雫は言うが、毎日膝枕をやってる俺にはその違いがわかる。俺は違いが判る男なのだ。
「雫、アレじゃない?スプレー」
と、俺のメロンパンを奪った霞。
「え?匂いのしないやつ選んだんだけど間違えたのかな?」
「じゃなくて。何もしてないって言ってもやったのそのくらいじゃん」
「スプレーか……たしかに言われればそうかもしれん」
だとすればスカートの中もいつもとは違うかもしれない。
俺はスカートの中に顔を入れて、匂いを嗅いでみる。雫の柑橘系の匂いの中にミントのような爽やかさもある匂いだ。
いつもと違うが、これはこれでいい。
「ソウくん……体育の後はさすがに恥ずかしいよ……」
雫は恥ずかしさからモゾモゾと足を動かす。そのせいで頭が雫のお腹の方にさらに動いてしまう。
晴れた日の空のような水色のパンツが目と鼻の先だ。
今日も学校に来る前にも見てるが、こうやって屋上で見るのはまた別の何かを感じさせてくれる。しかも体育の後。最高なんてもんじゃない。高みのさらに上、つまり宇宙。
いつもならこのまま寝てしまうのに、今はこの瞬間を少しでも堪能したい思いが強すぎる。まったく眠気が来ない。
こんなに昼休みが終わって欲しくないと思ったのは、入学して初めてのことだった。
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