第1話 「スカートの中は……」
「今日は白か」
目の前の白さに心が洗われるようだ。
今日はこの白さを焼き付けて一日を耐え抜こう。
俺は心に強く誓った。
「いや、スカートに顔突っこんで言うセリフじゃないから」
上から氷のように冷たい声が俺の心に突き刺さる。
「っていうか、起こすときにも見てんでしょ?着替えてから見たって同じじゃん」
「……」
至極真っ当な正論で容赦なく追撃を加えてくるのは、近所に住む双子の妹。
中学までは清楚で男子に人気があったが、高校に入ってすぐギャルファッションに目覚めてその人気はなぜか男子だけでなく、女子をも取り込んでいる。
中学から知るヤツは、その変化にかなり驚いていたが、「これはこれでアリ」なんて言ってた。よくわからん感性だ。
そんなギャルから突き刺されるような視線を受けてれば、心が折れる人も多いだろう。
だが、今の俺は違う!
スカートという鉄壁の中にいることに加え、スカートをはいてる本人の体温の温かさもあって、氷のように冷たい視線は受けないカラダになっているのだ!
温かさだけじゃない!イイ匂いもするからリラックス効果もある!
スゥ~っと吸い込むと、柑橘系の匂いが鼻の中に入ってくる。
マジでいい匂い。もうずっとここにいたい。
「雫、アンタもいい加減コイツどうにかしたほうがいいんじゃないの?」
「う、うん。そうだね。ソウくん。そろそろ学校遅れちゃうよ?」
「う~ん……あと5分だけ」
この温かく、いい匂いのする楽園から離れなければならないとは......。月曜が憎い。早く土曜になってくれ。
「はあ~……雫、アタシが言ったのはそういうことじゃないんだけど」
「え?違うの?」
これみよがしに大きなため息を吐いたギャル妹は霞で、今俺が顔を突っこんで膝枕と同時に白いパンツで心を浄化してくれてるのが姉の雫という。一卵性の双子でどちらもカワイイ系だが、姉の方が引っこみがちな性恪をしていて、妺はハジケた陽キャな性格をしている。
霞の方が男女分け隔てなく付き合っていたため、友達も多くいる。それは高校に入っても変わらずで、二人のどちらかといえば霞の方が告白される回数もかなり多いらしい。
「あ~……もうアタシ先行くから。雫、戸締りお願い」
「あ、うん。わかった」
霞は紺のスクールカバンを肩にかけるとリビングを出て行った。
「いつまであんな感じなんだろうな?」
「う~ん……わかんない。ソウくんもなにがきっかけかなんてわからないよね……?」
「わかったらこんな朝早くから来ねえよ」
現在時刻7:30。学校には電車で行くが、8時に出ても間に合う距離にある。
「ごめんね。起きるの大変でしょ?」
「それは大丈夫。この膝枕が完璧すぎてもう朝はこれがないと一日がはじまらないくらいになってるから」
「えぇ……?それはそれでどうなんだろ……?」
4月もはじまったばかりだが、この生活はかれこれ1ヶ月近くなっていた。
姉妹揃って朝が弱いこともあって、朝は通学路の途中にある雫たちの家に寄って2人を起こしてから一緒に学校に行っている。
霞の寝起きはすこぶるよく、俺が家に着くと同じタイミングくらいで起きる。一方、雫の方はメチャクチャ悪くて、目が覚めてからも1時間は布団から出られない。
雫たちの両親は俺が家に着く前よりもさらに早く家を出てしまうため、こうして俺が目覚し代わりに来ているというわけだ。
ちなみに、2人とも寝るときは下着以外身に付けない。だから早く来れば2人の下着姿が拝めるわけだ。だからいってあまり朝早く来すぎると、俺自身が学校で眠くなってしまう。
昼休みにも寝るけど、ある程度睡眠時間を確保するようにしている。優等生だろ?
スカートから顔を出し、時計を見つつ再び雫の膝枕に収まる。
雫の体温と太もものしっとりとした質感がなくなった代わりに、少しざらついた制服の感触と変わらない太ももの柔らかさを堪能する。
冷たい外気にあたりながら残り10分、学校に行くまでの最後の抵抗だ。
時折、雫の手が俺の頭をなでるのが気分がいい。
もうずっとこのままでいい。もう今日は休みでいいだろ。
「もうそろそろ行かないといけないね~」
「ああ……そうだな」
雫の声がまだフワフワしているせいか、穏やかで静かな時間が流れる。
雫も化粧をしているが、ホントにうっすらとするだけらしく、霞が学校に行く前に超速でやってしまう。
だからこの30分は雫の頭が動きだすまでの時間だ。
ホントにゆったりと静かな時間が流れるため、ヘタするとこのまま寝てしまう可能性もゼロではない。現に気持ちよすぎて寝そう。
「あっ!ヤバッ!ソウくん!!もう行かないと遅れるよ!!」
うつらうつらしていたところで急に雫が立った。そのせいで俺は床に頭から落ちた。
ゴン!!といい音の後、激痛で頭を抱える。
「あ!だ、大丈夫!?」
まだコイツ寝てやがるな。
そう思わずにはいられない朝だった。
学校までは雫と一緒に行ってる。
入学した直後は別々だったし、その方が俺としては良かったのだが、入学して数日で朝から男どもに囲まれて半泣きになってる雫を見てしまい、しぶしぶ一緒に行くことにした。
霞と雫、俺は同じクラスだ。席はあいうえお順の出席番号で並らんでおり、俺は廊下側で、2人は窓側にいる。
「じゃあ、お昼にね」
「ん?ああ……」
自然に昼食も一緒に食べる約束をしてしまう。
「相変わらず自然に約束しちまうな」
「ああ、簡単には一人になれなくて困まるわ」
「へっ!学校イチのカワイイどころ2人と一緒に食べんだからそれくらいいいじゃねえか」
やさぐれ気味に話してる男は、天草四郎と言う。俺の後ろの席にいるヤツで、高校に入ってから仲が良くなった。
歴史上の人物の名前がついているが、べつに意図したわけではなく、単に四男だから四郎になったというシンプルな理由の名前らしい。
どちらかといえばブサメンなヤツで、オタク系の趣味を持ってると自己紹介で堂々と言ってたツワモノでもある。
「あの2人、もうほかのクラスでも話題になってるらしいぞ?」
「え?まじ?」
「ああ。まだ1週間も経ってないのにな。部活がはじまれば2年とか3年にも広がるだろ」
「やめろ。そんな先の話はしたくない」
「大丈夫だ。あと2週間もすれば本格的に部活がはじまる。しかも1年は全員強制と来たもんだ」
「は?」
「あ?」
「部活、強制なのか?」
そんな話聞いてないぞ。学校が終わったらすぐに帰ってメシの支度をしないといけないのに、部活に入らないといけないとなると、俺の完璧なスケジュールが崩壊してしまう。
「なんだよ。聞いてなかったのか?一昨日言ってたじゃねえか。」
「一昨日?」
言ってたっけ?
「その様子だと聞いてなかったみたいだな」
なんでも、どこかから来た先生が急に「部活にも力を入れましょう!」とかなんとかいって、学年主任と教頭、校長まで直談判しに行き、その熱にあてられた先生たちがやる気になってしまった、らしい。
やるなら自分たちでやれって話だが、熱にあてられた連中は「管理職だから俺は顧問にはならないからよろしく!」といって下の先生たちに丸投げしたとのこと。
この裏話も含めて一昨日担任が説明したらしい。
「ま、でも、急な話だから見つからない場合はテキトーに人数を集めてそれっぽい部活にしてしまえばたぶん大丈夫って言ってたぞ」
「テキトーな人数ねえ……」
そんな簡単に人数が集まるわけでもないだろうに。
「でも先生がいくつも顧問できるわけじゃないだろ?」
「まあ、そう……だな。でもその話はあのときしてなかったな」
「だとしたらもうダメじゃね?」
そもそもみんな一気に部活申請出すなら通らない可能性もあるだろ。
「それが仮入部期間を過ぎてからなんだと。とりあえず今あるヤツをやってみて、それでもダメなら部活を新規で認める流れになったらしい」
「なんだそれ。めんどくせー」
高校じゃ真面目に部活をやる気なんてないから、とりあえずテキトーに流しておいて、いい感じのタイミングで担任に押し付ければいいか。
「ウワサじゃ塾に行くからって勉強部みたいな部活を作るつもりのヤツもいるらしいぞ」
「あー……なるほどね。それはたしかにあるわ」
でもそんな部活に入ったら結果を見せろなんて言われるだろ。成績を見せるつもりなのか?
そんな面倒なことはしたくない。もっと合法的にさっさと帰れるのがいいな。
「ほかにはなにかあるのか?」
「いや、俺が聞いたのはそのくらいだ。ま、聞いたのが一昨日だし、申請を出すなんてもっと先だからな。めんどくさがってテキトーに入っちゃうと思うな」
「ありえる。最悪、幽霊部員でもいいわけだしな」
なんて話していると、始業のチャイムが鳴り、担任の先生が入ってきた。
ああ、陰鬱な1週間がついにはじまってしまった……。
ダメだ。わかってはいたけど、こんな気分じゃ昼に1度スカートダイブをきめないと1週間やってらんないわ……。
「総司は部活なにに入るか決めた?」
昼休み、まだ少し肌寒い屋上で弁当を食べていると、霞が聞いてきた。
「いや、決めてない。霞は……もう決めたのか?」
「まあ。一応ね」
「霞もう決めたの?早くない?」
雫が「聞いてない」とばかりに反応した。
「高校でもやるつもりだったしね。ラッキーなことに部活あったからそのまま入っちゃおうと思ってる」
霞は中学時代バレーボール部に入ってて、県大会もそれなりに勝ち進んだ実力がある。
いくつか引く手があったらしいが、その手はすっぱり断ってこの学校に入った。
「この学校のレベルなんて大したことないだろ?聞いたことないし」
「そうでもないよ?県大会とかわりといいとこ行くし」
「へぇ~」
そうなのか。全然知らないまま入ったけど、偶然とはいえ霞の希望にもあってたってことか。
「雫は……その様子だとまだでしょ?」
と霞が犯人を指すようにビシッと雫を指す
「そうだけど……別にいいでしょ。まだ何があるかちゃんと見てないし」
「創司も見てから決めるの?」
「あぁ」
「ふーん」
霞は何か言いたそうだが、これ以上何も言わなかった。
「ふう。ごちそうさまでした」
購買で買ってきたパンを食べ終わると、隣に座ってる雫の太ももにアタマを乗せた。
「ちょっと。まだ雫食べてるでしょ」
霞はそういって咎めるが、俺には知ったこっちゃない。だいたい、もう少しで食べ終わることは確認済みだ。
霞の小言を聞くよりも、午前中の授業で荒んだ俺の心を癒してくれるこの膝枕で寝る方がよっぽど重要だ。
「ソウくん。食べてすぐに横になっちゃダメだよ?」
「いいんだよ。こうやってる方が気分がいい」
視界の右側がテーブルで、左側が雫の胸で少し隠れてるが、青い空を雫の膝枕で眺められるのはこの学校を探しても俺くらいだろう。
中学でも運動部じゃなかった雫の太ももは程よい柔らかさで、家の枕よりも気持ちがいい。
昼休みは1時間。午後は移動教室だから10分くらい前に向かえば間に合う。
昼飯を10分で食べ終わったことで、残りの40分まるまる雫の膝枕で寝れるわけだ。
長時間の膝枕をしてもらうには、完全に頭の重さを脚にかけないことにある。両足がピッタリと閉じた状態で首筋辺りに太ももが来るようにすれば両足に重さがかかるようになるため、長時間でも耐えられるのだ。まぶしければスカートの中に入ってしまえばいい。冬服だからほぼ光は通さない。ちょっと息苦しいかもしれないけど、俺にはこれが最高だった。
学校がはじまる前にこの枕を見つけたときには、あまりの快適さに熟睡してしまったくらいだ。あのときはまだ完璧な位置を把握してなくて、3時間も寝てしまったため、雫はしばらく感覚がない状態になったあと、強烈なしびれを味わった。
そんなしょーもないことを思い出していると、4月の晴れた日の日差しの温かさと時折吹く冷たい風のおかげでだんだん眠くなってきた。
「あーダメだ。雫、俺寝るからよろしく」
「ええ?」
雫のスカートの中にアタマを入れると、そのままスーっと俺の意識はなくなっていった。
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