第77話 おまけ・マッサージ
越山ドームを奪還してすぐのある日、くるみちゃんと瑞樹が俺にマッサージをしたいと言い出した。
いつも頑張っているから、お礼がしたいということだ。
そのお礼が大金を使ったようなものであれば断っていたと思うが、マッサージであれば可愛いものだ。
むしろ断ることは彼女たちの気持ちを傷つけることになるだろう。
俺はくるみちゃんの部屋のベッドにうつ伏せになって、彼女たちから渡された怪しげなパンツ一枚で待機していた。
腰のあたりはヒモパンになっていて、男の下着としては布の面積が極端に少ない。
恥ずかしい……。
「失礼しまーす」
2人が部屋に入ってくる。
「おぉ?」
くるみちゃんたちの服装がいつもと違っていた。
2人でお揃いの衣装を着ている。ワンピースタイプの白いナース服が一番近いだろうか。
しかも普通のナース服よりもボディラインが強調されており、なんというか……エロい。
「その服はどうしたんだ?」
詳しく話を聞いてみると、彼女たちは「やるからには全力で」の精神で、瑞樹の母親である流子のツテを通じて、プロのマッサージ師の女性にマッサージのやり方を教えてもらったらしい。
そのマッサージ師から、マッサージをするときはこれを着なさいと渡されたそうだ。俺が履いている怪しげなパンツも、そのマッサージ師が用意したものであるらしい。
手にはたくさんの荷物が入ったカゴを持っている。
マッサージに使うようだ。
彼女たちは室内にアロマキャンドルや間接照明を設置し始めた。
思ったよりもかなり気合いが入っている。
孫がおじいちゃんに肩たたきをする程度のレベルを考えていたのだが、そこまで本気でやられるとこっちも緊張してしまう。
うつ伏せの状態で、準備をしている横目に見る。
彼らが着ている服はナース服よりもスカート丈がかなり短い。ミニスカの範疇に入るだろう。
くるみちゃんが間接照明のコンセントを刺そうと壁際でかがんだ。
ふーむ、惜しい。
あと少しでパンツが見えそうだった。
「もう……ウラシマさんのえっち」
くるみちゃんが俺の視線に気づいて、ワンピースのスカート部分を抑える。
間接照明の準備を終えた後、くるみちゃんは何かを企むような笑みを浮かべながら、俺の方を向いた。
「そんなに見たいなら……見る?」
くるみちゃんがスカートを少したくし上げる。
大事な部分は見えていないが、むちむちとした白い太ももに目が吸い寄せられる。
太ももと太ももの間は隙間なく埋まっていて、そこに無理やり挟まれたいと思った。
彼女の問いに答えられず、唾をのみ込んだ。
ごくりという音が鮮明に聞こえた。
「あはは、冗談だよ」
そりゃそうだ。
冗談だと分かってホッとする自分と、残念に思う自分がいた。
「喋ってないで準備して」
「ごめんごめん」
瑞樹は黙って準備をしている。
淡々と動くその姿は、本物のマッサージ師のようだった。
部屋の電気が消され、灯りは間接照明だけになる。
室内はアロマキャンドルの匂いで満たされている。
くるみちゃんのスマートフォンからはヒーリング系の曲が流れている。
これでもかと言わんばかりの雰囲気づくりだ。
「じゃあ始めるね」
◆
最初は少しドキドキしていた。
彼女たちに触れられて、興奮してしまったらどうしようと思っていた。
でも2人の施術はシンプルに気持ちがよかった。
「あ"ぁ"~」
癒される。
心と体がほぐれていく。
「ふふ、気持ちいい?」
「極楽だ」
プロから伝授された様々なテクニックを駆使して、俺を天国へと導く。
あまりに気持ちよくてリラックスしすぎて眠たくなってきた。
眠ってしまうのは勿体ない気がする。このままもっと意識を保ったまま、彼女たちのマッサージを堪能していたい。
でもウトウトする。
意識が落ちそうだ。
「……?」
マッサージが止まる。
もう終わりだろうか。
残念に思いつつも余韻に浸っていると、布の擦れるような音が聞こえた。
「お、お前ら、まさか服を脱いでいるのか……?」
「うん、見てもいいよ」
「いやいや」
顔を反対側にそむける。
壁を見ながら必死に心を落ち着けた。
「どう考えてもおかしいだろ」
「大丈夫だって。下着じゃなくて水着だから」
「水着だと?」
2人の姿を見る。
確かに水着姿だった。
合宿の際に着ていた、つまり俺が選んだ水着を着ている。
きわどいミニスカでも余り気にしていなかったのは中に水着を着用していたからのようだ。
「ここからが本番だよ」
「ほう、楽しみだな」
わざわざ服を脱いで水着姿になって、本気モードというところか。
ん?
よくよく考えれば、マッサージで水着になる必要性は特に感じないが……。
「うぉっ」
背中に温かい感触が広がっていく。
多分、何らかの液体をかけられたのだと思う。
じわじわと広がっていくから粘着質のある液体だろうか。
「いきなり何を――おぉ!?」
背中にぬるぬるが広がっていく。
どうやらローションをかけられたらしい。
ローションによって彼女たちの手と俺の背中の間にある摩擦が限りなく少なくなって、こそばゆいような心地よいような何とも言えない感覚だった。
「よいしょ」
くるみちゃんたちは、全身を使ってマッサージを始めた。
水着になった理由がようやくわかった。
こんなマッサージをするなら、服がローション塗れになってしまうから、脱ぐのは当然のことだ。
それはそれとして――
「やりすぎ、なんじゃないか……?」
守るべきラインを超えている。
「でもマッサージのおねーさんに教えられたとおりにやってるから」
淫乱マッサージ師め……!
いや、マッサージ師は頼まれたとおりに動いただけだろう。彼女がいかがわしい店の者なのか、真面目な店の者なのかは不明だ。
だが、くるみちゃんたちのテクニックは凄かった。少なくともマッサージ師としての能力は高い人物で、彼女なりに親身になってスキルを伝授してくれたのだと思われる。
だから敵はマッサージ師ではない。
真の敵、黒幕は恐らく蒼城流子。瑞樹の母親だ。
あいつは既成事実を作って完全に取り込もうとしている!
なんと恐ろしい女だ。
くるみちゃんや瑞樹の純粋な善意を悪用してやがる。
それが母親のやることか!
「瑞樹も、おかしいとは思わないのか?」
「……」
返事がない。
無心でマッサージをすることを選択したらしい。
「あっ」
色んな意味で当たってる!
当たってるから!
「ぐっ……」
我慢だ。
一線を超えてはならない。
◆
「こんなものかな」
天国と地獄を兼ね備えたマッサージもどうやら終わりらしい。
なんとか耐えきった!
「次は仰向けになってね」
「なに……?」
それはマズい。
非常にマズい。
「早くして」
瑞樹に強引にひっくり返される。
「「あっ」」
くるみちゃんたちの視線は、とある一か所に注がれていた。
そりゃそうだ。
布の面積が少ないパンツ一枚では隠しきれていない。
「ど、どうしよう瑞樹ちゃん」
「やると決めたからにはきちんと最後までやるわ」
2人とも根底には俺にマッサージをして疲れをとってあげたいという気持ちがある。彼女たちは続行することを決意したようだ。
くるみちゃんはチラチラと気にしながら、ぎこちない手つきで触ってくる。瑞樹は全く気にしていない風を装いながらも妙に厭らしい手つきで身体を撫でてくる。
きわどい場所までタッチされて、焦らしプレイをされているようだった。
「くっ」
俺の前には絶景が広がっている。
水着姿の美少女2人が、ローション塗れになりながら全身を使って俺にマッサージをしてくれているのだ。
気持ちよくないはずがない。
興奮しないはずがない。
蒼城流子がにんまりと微笑む顔が頭に浮かぶ。
思い通りになってたまるか!
◆
瑞樹は心を無にしてマッサージを行った。
そうでなければ羞恥心でおかしくなってしまいそうだったからだ。
「もうお嫁にいけない」
施術が終わると、ウラシマがわざとらしくシクシク泣き始めた。
くるみはよほどマッサージが気に入ったのか目をキラキラとさせている。
「あのウラシマさんを弄べて楽しい!」
(確かに……ウラシマの余裕のない姿は良かった)
いつも余裕ぶった男の焦った姿。
それは瑞樹の琴線に触れた。
「絶対またやろうね!」
そう主張するくるみに対して、瑞樹は強く頷き返す。
ウラシマの疲れを癒したい、お礼がしたいという当初の純粋な想いはどこかに消え去り、ウラシマをもっと弄びたいという理由で――ウラシマへのマッサージは定期的に行われることになるのであった。
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