第28話 魔法少女の後始末
「魔法おっさん! あなたは何者?」
くるみちゃんの友人の蒼城瑞樹が氷で出来た剣を突きつけてくる。
さっきまではヴェノムという共通の敵がいた。でも今はいない。
だから今の彼女の敵は俺なのだろう。
「魔法少女が人に剣を向けるのか?」
「うるさい。あなたは人間じゃない!」
黙っていればクールな美人に見えるし、氷の魔法を得意としている。もっと冷静な人間かと思えば、どうも彼女には冷静さが足りないらしい。
スライムとの戦いを目の前で見せたのだ。俺が彼女よりも戦えるということは分かっているはずだ。
より詳しく戦闘能力をはかることが狙いであれば彼女では力が足りない。俺という正体不明の相手を捕らえる実力もない。
今ここで俺に戦いを挑む理由は何もない。
選ぶべきは俺というイレギュラーとの会話だ。
彼女たちの窮地に助けに入った。そしてヴェノムを倒した。『魔女』という組織に属していないだけで、もしかしたら味方になりえる存在かもしれないのだ。
俺を『魔女』に取り込む糸口を探るべきだ。あるいは少しでも俺の情報を得られるよう努力すべきだ。敵対するなんてあり得ない。愚の骨頂だ。
その愚かな行動のせいで、俺が『魔女』の敵になるとは考えないのだろうか?
まぁそんなつもりはないが。
「スノーラビットと知り合いだったことが許せないのか?」
「黙って!」
図星だったのか、激昂する。
魔法おっさんという怪しい男とくるみちゃんが、知らないところで知り合っていたのだ。冷静でいられなくても無理はない。
「彼女を見ろ」
くるみちゃんを指さした。
一緒にいた女子生徒に近づいて、負傷した足の治療をしている。
「やるべきことを弁えている」
くるみちゃんは正しい。
「お前はどうだ?」
「……黙って」
「お前はやるべきことを弁えているのか?」
「黙れと言っている!」
ついにこらえきれなくなって斬りかかってくる。
この程度のことで我を忘れてしまうなんて、まだまだ子どもだ。しかも中途半端に力のある危険な子どもだ。
「魔法少女……か」
そろそろ『魔女』という組織と接触するべきだろう。くるみちゃんたちの反応を見る限り、今回倒したヴェノムはかなりヤバい存在だったらしい。それを俺が倒したのだから、向こうも本腰を入れて探りを入れてくるはずだ。
「よそ見をするな!」
考え事をしながら攻撃をいなしていたことが気に入らなかったようだ。
「バカにするのもいい加減にして!」
「お前の力が足りないせいだろ?」
「ッ、その減らず口、後悔しても遅いから……【斬鉄氷剣】!」
蒼城瑞樹が新しく氷の剣を作り出した。先ほどよりも魔力が込められている。切れ味を増幅している魔法が付与されているようだ。
身体能力は常人のものより遥かに高くなっているとはいえ、あの剣を生身で受けたらさすがに怪我をするかもしれない。
彼女の得意技のようだ。
隙が多すぎるから簡単に避けられるのだが……真っ向から受け止める方が効果的な気がする。
右腕を魔力で覆い、氷剣を防いだ。
「嘘……」
「それがお前の全力か?」
自分の魔法に絶対の自信があったのだろう。
だが俺に呆気なく防がれて、彼女は膝から崩れおちた。
「あ、あぁ……」
これで少しは落ち着いて話せればいいが……。
「ウラシマさん!」
くるみちゃんがやりすぎだと怒っている。
項垂れる少女を見て、確かにちょっとやり過ぎたかもしれないと反省するのだった。
◆
学校には警察がやってきて封鎖された。ガス爆発として処理されるそうだ。
……便利だなガス爆発。
全国のガス爆発率を調べたらかなり高くなっていそうで怖い。
巻き込まれた女子生徒の二人とは別れた。その内一人はくるみちゃんの友人でもあったが、魔法少女とは関係ないらしい。お礼を言われながらさよならした。
そして問題の蒼城瑞樹とは喫茶店で話すことになった。彼女が向かい側に座り、くるみちゃんは俺の隣に座っている。机を挟んで説明される側と、説明する側に分かれていた。
「遠い場所……?」
俺はある程度の事情を伝えた。といってもくるみちゃんに話したほどの内容ではない。
伝えたのは、ここではない遠い場所で17年間ずっと戦い、最近ようやく戻ってきたということだ。勇者として異世界に召喚されたことは話していない。
「蒼城は――」
「苗字は嫌いだから名前で呼んで」
瑞樹は目をつぶる。
俺の荒唐無稽な話について考えているらしい。
「遠い場所ってどこなの?」
「上手く説明できないな。少なくとも瑞樹が知らない場所だ」
「詳しく話す気はないということね……気に入らないけど、あなたが戦い慣れていることは事実だし」
突然チートな力を得た、という言い訳は無理がある。自分で言うのもなんだが俺の戦闘経験は豊富だ。ヴェノムと戦ってきた魔法少女であれば、俺がずっと戦い続けてきたことは分かるだろう。
「アイスコーヒー3つです」
店員がコーヒーを机の上に置いた。
コーヒーフレッシュとガムシロップを取りながら瑞樹に尋ねる。
「いるか?」
「いらない」
やはりブラックコーヒーか。
キリっとした美人にはブラックがよく似合う。
ぶっきらぼうに返事をする姿に苦笑しながら、くるみちゃんにフレッシュを1カップとシロップを2カップ渡した。
「ありがとう」
くるみちゃんはコーヒーが余り好きではない。にもかかわらず喫茶店ではかっこつけてコーヒーを頼みたくなってしまうらしい。そこまで無理して飲むものでもないと思うが、大人ぶりたいお年頃なのだろう。
「二人はもしかして……交際しているの?」
瑞樹が真っ青な顔で聞いてくる。
俺とくるみちゃんは思わず目を見合わせた。
「「してない」よ」
「そ、そうよね! ウラシマがミルクと砂糖をくるみに渡したときの二人の行動が凄く自然に見えて、まるで付き合っているように見えただなんて私の勘違いよね。そうに違いない」
急に早口になって自分に言い聞かせていた。
「恋人に見えるんだ、えへへ」
くるみが頬に手を当てて、照れたように笑っている。
今度は瑞樹と思わず目を見合わせた。
「ウラシマ! くるみは私の大事な親友だから。私のいないところで接触することは禁止ね」
やはり接触を禁止してきたか。彼女の視点から見れば俺はくるみちゃんに近づく怪しいおっさんなのだ。その反応も当然だろう。
そして、俺とくるみちゃんは同棲している。
瑞樹が知れば憤慨間違いなしだ。殴りかかってくるかもしれない。
とはいえ彼女に隠しておくことも難しいだろう。
「瑞樹ちゃんは私の親友でパートナーだよ。でも私が誰と仲良くするかは私が決めるから」
「そう……ね。少し前に反省したばかりなのに、またやってしまった。ごめん、くるみ」
さて、どう説明したものか。
慎重に筋道を立てて、少しずつ彼女の理解が得られるように誘導する必要がある。
くるみちゃんとも入念に打ち合わせをしなければならない。
――今はまだ話すときじゃない。分かってるよな?
くるみちゃんに目で語りかける。
俺と目があった彼女は笑いながら頷いた。どうやら俺の意思が伝わったらしい。さすがくるみちゃんだ。既に俺とは以心伝心なのだ。
「そもそも瑞樹ちゃんのいないところで接触しないなんて無理だしね」
「ん? おい、くるみちゃん!」
嫌な予感がして慌てて制止する。
だがしかし――。
「だって私とウラシマさんは一緒に暮らしてるから」
終わった……。
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