第29話 巻き込まれた女子生徒&まほねっと
美術部の女子生徒は自宅に帰り、ベッドにダイブするようにして横になる。
ずっと生きた心地がしなかった。
いつも使っているベッドで横になることで、ようやく生を実感できた。
(とんでもないことに巻き込まれたなぁ)
枕に顔を埋めてハァとため息をつく。
いまだに現実感がない。まるでアニメや漫画の世界に迷い込んだようだった。
くるっと仰向けになって、両腕を天井に向かって伸ばしながら叫んだ。
「こんなの……絶対バズるじゃん!」
撮影した動画をウキウキしながら確認する。
命を危険に晒して、おっかない先輩に睨まれながらも、それでも撮影した甲斐があった。
「これが合成じゃないとか、やばすぎだよ」
彼女たちは魔法を使っていた。
この世界には魔法が存在したのだ。この動画はその証明になるはずだ。
「みんなに教えてあげないと!」
彼女はSNSをしており、それなりのフォロワーを持っている。でも、もっとフォロワーを増やしたいと思っていた。
地味な彼女では見た目を売りにして稼ぐことも難しい。
どこかにインパクトのあるネタがないかを探していた。そんなときに魔法少女と化け物の戦いに遭遇したのだ。
「みんなびっくりするだろうなぁ」
動画を見てトリックだと否定するものもいるだろう。技術のある人が検証して議論するかもしれない。でも、そんな彼らにだって否定できはしない。なぜならこの動画はトリックではなく正真正銘の現実なのだ。
物議をかもして挙句の果てにはテレビで紹介されるかもしれない。話題の動画を撮った人物としてインタビューされる可能性だってある。
きっとそのときにはフォロワーが倍増、いや、10倍にも100倍にも増えているはずだ。
フォロワーを増やすにあたって、最初の壁はみんなに注目してもらえるかどうかだ。その壁はきっと、この動画で容易く突破できる。そこさえ突破できれば、更にフォロワーを増やせる自信はあった。
「くふふ」
輝かしい未来が脳裏に浮かんで笑いを抑えきれない。
早速投稿しよう。
SNSにとっておきの動画を投稿した。
「……えっ?」
彼女はスマートフォンの画面を見て固まる。
大反響を期待して投稿したにもかかわらず、誰かが反応するよりも先に投稿が消されたからだ。
「操作を間違えたかな?」
特に何かをした覚えはないものの、押し間違えて消してしまったのかもしれない。
もう一度動画を投稿した。
今度はゆっくり操作して、絶対にミスをしないように気をつけながら行った。
「どうして!」
また消えた。いや、消されたと言うべきだろう。
せっかく凄い現場に遭遇して、死にかけながら動画を撮ったのだ。これは間違いなく自分の成果品だ。
確実に手に入るはずの栄光を、姿も見えない誰かに邪魔されるなんて許されることではない。
「認めない」
何度も動画を投稿した。消されては投稿し、消されては投稿することを繰り返す。だがその度に動画は消されてしまう。
上手くいかないことに苛立っていると、彼女の元にメッセージが届く。そこにはURLが張られていた。その動画を投稿したい場合はここをクリックと書かれている。
怪しいメッセージではあったが、投稿できない怒りで判断力を失っていた彼女はURLを開いてしまう。その瞬間、スマホの画面がまばゆく光った。
「――あれ? 今何してたんだっけ?」
スマホを握りながら首を傾げる。
怒りに染まっていた彼女の顔は、穏やかなものへと変わっていた。
「まぁ、いっか」
高校の友人からスマホのメッセージが届いた。
高校がヤバいことになっているらしい。
慌ててテレビを点けると真帆川女子高校がガス爆発したと報道されている。
「うわぁ……」
校舎の外から撮影された映像では、校舎が半壊状態だった。
補修して直るとも思えない。建て替えレベルの工事が必要に見える。
まともに授業を受けられる状態ではない。
(あそこにいなくて良かった……)
タイミングによっては巻き込まれていた可能性もあった。
下手をすれば死んでいたかもしれない。ニュースを見ながら身体を震わせた。
「しばらく学校休みかな?」
友人と学校が休みになったときの予定を立てる。平日に学校が休みになれば、土日は人が多いけど平日には空いているような場所にも行ける。行きたい場所はたくさんあった。
「何か忘れている気がするけど……思い出せないなら大したことじゃないよね」
魔法少女とヴェノムの戦いに遭遇したことも、その場面を動画で撮影したことも、彼女の記憶から消えていた。
そして、撮影した動画は彼女のあずかり知らぬところで利用されこととなる。個人情報がバレないような形に加工されてまほねっとに公開された。
◆
まほねっと掲示板:魔法おっさんスレ
1:魔法おっさん見守り隊?
はい、これ動画「HTTPS//***/***/***」
2:名無しの一般人
魔法おっさん!
3:名無しの一般人
久しぶりの魔法おっさんスレだな
4:名無しの一般人
最近目撃情報あがってなかったもんな
5:名無しの一般人
目撃される前にヴェノムを倒してるって噂もある
6:名無しの一般人
1の動画ヤバくね?
7:名無しの一般人
このスライムみたいなやつってもしかして上級ヴェノム?
8:魔法おっさん見守り隊?
上級
9:名無しの一般人
まじか
最近真帆川にヴェノムが多発してたのもこいつのせいか?
10:名無しの一般人
上級ヴェノムって、こんな簡単に倒せるもんなのか
なんか拍子抜けした
ヤバいヤバい言われてたけどそうでもないような
11:名無しの魔法少女
違うから!
そのへんの魔法少女だと勝てないし。
現に雪兎と氷剣ペアってそこそこ優秀なのに全く歯が立ってないよね
12:名無しの一般人
でも魔法おっさんは簡単に倒してるけど
13:名無しの魔法少女
魔法おっさんとかいう男が異常なだけ!
上級ヴェノムを一人で倒せる魔法少女なんて数えるほどしかいないから
14:名無しの一般人
魔法おっさんパネェ
15:名無しのの一般人
魔法おっさんは男たちの代表だからな
16:名無しの一般人
俺たちの星
17:名無しの魔法少女
冗談抜きで凄いよこの人
18:名無しの魔法少女
ほんとそれ
私なら多分スライムに潰されるか、体当たりされて死ぬ
19:名無しの魔法少女
私も
私ならあれと出会ったら即逃げするよ
20:名無しの魔法少女
同じく
動画は途中からだからはっきり分からないけど雪兎と氷剣はよく頑張ったと思う
倒したのは魔法おっさんとはいえ、それまでの被害をゼロに抑えてたのは間違いなく2人の功績だよ
21:名無しの魔法少女
私たちみたいな一般魔法少女は上級ヴェノムが出たら、応援が来るまでの時間稼ぎが役割だからねー
ヴェノムを倒したのが魔法おっさんじゃなくて、応援に来た魔法少女だったなら、ベストなパターンだったけど
22:名無しの魔法少女
応援って誰だったの?
23:名無しの魔法少女
赤剣さんだったって
現場についたときにはもう誰もいなかったみたい
24:名無しの魔法少女
うわー。魔法おっさん絶対赤剣さんにロックオンされたね
あの人バトルジャンキーだし
25:名無しの魔法少女
でも二人の戦いなら見てみたいな
どっちが勝つと思う?
26:名無しの魔法少女
そりゃ赤剣さんでしょ
27:名無しの魔法少女
いやでもこの魔法おっさんも相当ヤバいよ
余裕で上級ヴェノム倒してるし
全然本気出してないっぽいし
28:名無しの魔法少女
そろそろ『魔女』が魔法おっさんに対して何らかの動きを見せるだろうし、2人のバトルはもしかしたら近いうちに見れるかもねー
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671:名無しの一般人
魔法少女たちで盛り上がっててわろた
672:名無しの一般人
魔法少女たちの間での赤剣人気って尋常じゃないしな
673:名無しの一般人
別のスレで赤剣ディスったら、魔法少女たちからヤバいぐらい批判くらったことあるわ
674:名無しの一般人
魔法おっさんと雪兎ってどっかで交流あったのか?
動画でもかなり親しそうだけど
675:名無しの一般人
雪兎と氷剣のてぇてぇ崩壊か?
676:名無しの一般人
おいやめろ
677:名無しの一般人
恋愛とかそういうことは抜きにして、雪兎は魔法おっさんのことかなり信頼してるみたいだな
678:名無しの一般人
雪兎NTR?
679:名無しの一般人
信じて送り出したあの子が魔法おっさんに寝取られるってか
680:名無しの一般人
氷剣ってNTRを傍観してる主人公ポジション似合いそう
680:名無しの一般人
俺は百合の間に挟まる間男が身体でノンケに戻すシチュが好き
681:名無しの一般人
元々雪兎はノンケだろ
682:名無しの一般人
じゃあ氷剣がノンケにされるってことか
683:名無しの一般人
それは無いだろ
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