第3話 美鈴と涼と

〝すずばっかりずるいずるい~! 私もみんなとゲームやりたい~!〟


 そんな風にみんなでゲームをやって楽しんだ次の日、美鈴の中に宿るレイが、そう無茶苦茶なワガママを言って駄々をこね始めた。まったく迷惑な話である。


「そんなこと言ったってねレイあんた、あんたの存在は秘密なんでしょ? だったらみんなとゲームやることなんてムリでしょ」


 なので美鈴がそう冷静に諭してやると、レイはハッとして一度口をつぐみ、それからうんうん唸って頭を捻り、閃いて口を開いた。


〝だったら、涼ちゃんの部屋に行こう。涼ちゃんは私のこともう知ってるから問題ないし〟


 が、美鈴はその提案に顔をしかめる。


「え~、プレイするのがあんたなら、私見てるだけでつまんないんだけど。人がプレイするのを見るのも好きだっていう人もいるけど、よくネットにプレイ動画とかも上がってるけど、私はそれあんまりなのよね……」


 それを聞くと、レイはむ~っ! と不満の呻き声を漏らし、


「私もたまには誰かと一緒にゲームやりてーし! というわけで、涼ちゃんの部屋に突撃だ――っ!」


 強制的に美鈴の体のコントロール権を奪い、涼の部屋へと駆け出した。〝こら――っ!〟と制止する美鈴の声など、むろん聞くはずもない。ちなみに、北桜寮は3階に女子の部屋、2階に男子部屋、という区分けがなされており。男子が女子の部屋に行くことはおろか、3階に上がることすら固く禁じられているのだが、女子の方から男子の部屋に行く分には、あまり咎められない傾向があった。


「……と、いうわけで、レイの相手をしてあげてほしいのよ」

「……了解しました」


 そうして、美鈴は涼の部屋にて事情を説明し、レイの鼻息の荒さに気圧され気味な涼の協力を取り付けた。


「おっ! 聖剣伝説のリメイク版があんじゃ~ん! これやろうぜ~!」

「いいけど、それ1、2P協力プレイできないぞ」

「え――――っ! 1、2P協力プレイできないなんて聖剣伝説じゃねえよ――――っ!」

「いや、そんなことはないだろ。普通に面白いだろ。確かに醍醐味の一つだけど。友達がいない奴らに謝れ」

「んじゃ、カービィとかゴエモンとかないの? 1、2P協力アクションゲーやりたいんだけど」

「ねーよ、そんなレトロなモンは。モンハンだったらあるけども」

「お! いいじゃん! モンハンやろうぜモンハン!」


 了承を得るや類まれな図々しさで、さっそく涼の部屋をガサゴソと漁り出すレイ。それには涼、さすがにドン引き――かと思いきや、ゲームとあらば血が騒がずにはいられないのがゲーマーの生態。レイが眼鏡に適うゲームを見付け出しプレイを始めるや、すぐに盛り上がる二人。


「やっぱ1、2P協力ゲーは熱いな涼」

「おう。あ、ホットドリンク忘れた。やり直しだ」

「え~……めんどくさ」


 満足気なレイの様子に、ひとまず安堵する美鈴。……だったのだが、小一時間後、


「すずの部屋にはさ、デスノート、ライアーゲーム、賭ケグルイ、トモダチゲームみたいな頭脳バトル系のマンガしかないんだよ? 全然女の子らしくないよね?」

「へ~、そうなんだ。でもいいじゃん。カッコ良いじゃん」

「まぁ、ブラッディ・マンディは隠れた名作だったけど」

「言うほど隠れてないけどな。まぁ、俺はその手のマンガはおつむが追い付かなくて苦手だけども」

「全然女の子らしくないといえばさ、タンスに入ってる下――」


〝やめろ! 人のプレイバシーを勝手に明かすな!〟


 ゲームをしながら雑談を始めたレイに、知られたくない自室の情報をベラベラと喋られて、慌てて制止するハメになるのであった。全く油断ならない。


「……下の方の段には、古い推理小説がたくさん入ってるんだよ。本棚には新しめのやつが。あと、頭脳マンガと参考書だけ。全然女の子らしくないよね~。なんすか、私頭いいですアピールなんすか? ってカンジだよね~」

〝別にいいでしょ! 脳に刺激が入る感じが好きなのよ!〟


 なおもベラベラなレイに、人の趣味をイジるなと抗議する美鈴だったが――


「まぁでも、すずは実際頭良いから。成績いいし。なんかいいじゃん。らしくて」


 涼が特に引いている様子が無かったので安堵する。

 と、レイ、ちっ、もう少しすずを慌てさせてやらねばつまらんな……と、さらに人の私生活を茶化し始める。


「あ、でもね、すずってばそんなサバサバした感じのくせにね、夜はペンギンさんのぬいぐるみと一緒にじゃないと眠れないんだよ! あとね、時々そのペンギンさんに話し掛けたりもしてるんだよ! プ――――ッ! くすくすくす……」

「かわいい……」

〝ちょっ、ちょっと―――! だから……恥ずかしいこと暴露しないでよ――!〟


 女の子らしい一面を話されたら話されたで、羞恥に悶える美鈴なのであった。そんな一面がまた、涼に大ウケ。


 初めは美鈴と部屋で二人きりなんてドキドキ、な感じの涼だったが、美鈴の体を操縦しているのがレイの状態な時は、見た目は同じなのに、なぜか全く緊張せずフツーに話せる涼なのであった。


 美鈴は、見た者が一瞬息を呑むほど整った顔立ちをしている上、スタイルまで抜群な、短めの黒髪ボブヘアの美少女である。怜悧な眼差しと物静かな雰囲気からクールビューティだと思われることが多いのだがしかし、イジられた時、イタズラをされた時のリアクションが意外と大きいので、面白がられて、よくこうしてレイに弄ばれている。ちなみに美鈴、昔からずっと水泳部である。

 一方涼は、いつも少々眠そうな目をした純朴な少年。中肉中背。むろん染めたりなどしていない純朴な普通の髪型と、まぁ到底、美鈴と釣り合っているとは言えないのだが、一目惚れした彼女に、傍目からしたら無謀とも思える片想い中。

 レイは密かに、そんな彼の恋路がどうなるか、野次馬根性でウキウキしながら見守っているのであった。

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