第22話 たとえば誇りの話

 パッと顔を輝かせたタイラが「幸枝ちゃんか?」と言いながら近づく。都はほとんど涙目でもう一度「わーっ」と威嚇した。

「? そんなことより遊ぼうぜ、幸枝ちゃん。俺とカブトムシ捕りに行ったりしようぜ。こんなデカいやつ。な」

「うう……ぇぇぇ゛……」

「なんで泣いてんだよ。カブトムシ嫌い? 言語を取り戻してくれないか」

 なあヂアン、と振り向けばヂアンも両手で顔を覆ってさめざめと泣いている。「何? 意味がわからない。日本語を話してくれ」とタイラは困惑の表情を浮かべた。

「なぜ邪魔を……? もう少しだったというのに……」

 本当に悔しそうにヂアンは言う。唇を噛んだ都が「ごめんなさい。私、嫉妬深いの」と言い放つ。ムッとしたヂアンが「そうですか。奇遇ですね、僕も嫉妬深いタチなのです」と都を軽くにらんだ。

「どうした? お前たち、どこかで会ったことがあるのか。初対面にしてはいやに険悪だが」とタイラが瞬きをする。


「あんたねえ……。本気で言ってるわけぇ?」


 呆れた顔のカツトシが現れ、都を保護して慰める。タイラは右手を上げて「よお、カツトシ」と声をかけた。

「『よおカツトシ』じゃないわけ」

「何をそんなに怒っているんだ?」

「はぁ……いい、いい、あんたはもう。僕はそっちの子と話がしたいの」

 そう言ってカツトシはヂアンを指さす。ヂアンはといえば顔を上げ、「私……ですか?」と小首をかしげた。


「そうよ。そこの、男見る目が毛ほどもない坊やと話がしたいの」

 きょとんとした都が「ぼうや?」と尋ねる。「おや」と呟いたヂアンが涙を拭いて、ぴっとどこかへ飛ばした。

「気づいていても言わないのが“粋”というものでは? そうお思いだから仰らないでいてくださっているのかと」

「いや別に。どうでもいいから言わなかっただけよ。あなたもそろそろどうでもよくなってきたところでしょう」

「……ええ、まあ。雀鈩さまもお気になさらないようですし」

 ようやく話がつかめてきたらしい都が「おっ、おとこのこなの……?」とカツトシに確認する。カツトシは頷き、「まあどちらでも状況は何も変わらないけどね」と肩をすくめた。

「てか、マジでその男はやめたら? 普段のそいつならまだしも、その状態のそいつはやめたら?」

「失礼だな。いつもと変わらない素敵なタイラさんだろうがよ」

 カツトシはキッとタイラを睨み、「今あんたと話してないんだけど?」と吐き捨てる。驚いたように目を丸くしたタイラが押し黙った。


「あなた、この男のこと飼いならす自信あるの?」

「……そのような不敬なことは考えておりません」

「手に負えるのかって聞いてんのよ」


 ヂアンは顎に手を当て、じっとカツトシの目を見返す。「誰の話してる? もしかして俺のことかな?」とタイラが都に耳打ちし、「えーっと……たぶん知らない人のことだと思う。二人の共通の知人か、あるいはちょっと珍しい動物をペットにしようとしているか」と都は言葉を詰まらせた。

「あなたはこの山なんかどうでもいい。捨て置いて構わないけれど、僕たちにこの山を要求した。なぜ?」

「……雀鈩さまのお山ですから」

「この男を解放する、とあなたは約束した。なのに一番重い枷をそのまま維持しようとしている。この男から山を奪わないというのはそういうことよ」

「何が言いたいのかわかりませんが」

「あなたもどこかで、あいつのことは手に負えないと感じている。恐れている。だから完全に枷を外すことができない」

 口をつぐんだヂアンが、初めてカツトシを睨んだ。畳みかけるようにカツトシが「あいつを恐れているなら、あいつの隣に立つ資格ないんじゃない?」と吐き捨てる。


「それなら僕はこの山を消し炭にしましょう」

「あらあら、怒られるわよ……あなたの愛する神様に」


 つんと澄ました顔のヂアンが、結んでいた髪をほどいた。手櫛でさらっと風になびかせ、右手で小さなナイフを持つ。

「僕の国の教えでは、髪の毛にも神が宿っているのだそうです。……カミだけに」

 そう言って、ためらうことなくその美しい髪を切った。髪の毛の一本一本が風に乗って――――燃えた。

「あれ、面白くなかったですか? 一応、鉄板ネタというやつだったんですが」

 火は木々に燃え移り、広がっていく。「本当にこんなことしたくなかったのに」とヂアンは呟いた。


 カツトシがふっと笑う。雨が降り始めた。


「火であそんじゃ、ダメー!!」


 そう叫んで駆け付けたのは、実結だ。さすがにヂアンはきょとんとして、すぐに苦笑した。「そういえば、いたんでしたね……僕とは相性の良くない妖の子が」と肩をすくめる。

「これはつまり、カードを切らされたということでしょうか?」

「ギャンブルはあまり強くなさそうね」

 むう、という顔をしてヂアンは腕を組んだ。「そうですか、確かに今のは僕のミスでしたね」と認める。


 遅れてユメノとユウキが現れた。それからそのまた後ろに、ノゾムと美雨も顔を出す。「わー、皆さんお揃いで」とヂアンが嬉しそうなふりで迎えた。

「あれ……ちょっとカオスな空気になってますね。先輩はどうしました?」

 そう問われ、ヂアンもきょろきょろと周囲を見渡す。ふと都が手を上げて「彼は……その、」と申告した。

「パチンコを打ちに行く、と言っていなくなってしまったわ。『ペットを飼うならちゃんと世話できるやつにしろよと言っておいてくれ』って」

「あいつマジでろくでもないわね。自分のことだってわかんないのかしら」

 そんな話を聞いていたユメノが「えー嘘。自由すぎない?? それほんとにタイラ??」と確認してしまう。

「とりあえず先輩の干渉はないってことっすね。じゃあヂアンちゃん……でしたっけ? そろそろ降伏してくれません?」

「ヂアン“くん”よ」

「マジか……髪が短くなっても女の子にしか見えねえ……」

 どちらでもいいじゃありませんか、とヂアンはにこにこ笑っている。


 不意に、ずっと黙っていた美雨が口を開いた。

「あなた――――章でしょう? 章、なんでしょう?」


 その場の全員が、ヂアンまで、『は?』という反応である。しかし美雨は必死な様子で、「どのような姿であっても私にはわかりますとも。あなたは! 私の可愛い坊やです」と叫んだ。ああ、とノゾムがうんざりした表情で言う。「いつもの病気ですか。最近落ち着いてたんですけどね」と肩をすくめた。


「いや」とカツトシが顎に手を当てる。「事実としてあの子は――――鳳凰の子」と断言した。「えっ」とノゾムもユメノたちもカツトシを見る。


「正直……僕から言うのもどうかなーと思って口に出さなかったけど、僕が保証する。あんたが探し求めていた可愛い坊やの魂こそが、その子よ」


 しん、と沈黙が訪れた。美雨だけが「こんな――――こんなことがあっていいのかしら。もう、もう……会えないと……」と目を擦っている。

「あのぅ……」とヂアンが明らかに困惑した顔で手を上げた。「異議あり。僕にはすでに両親がおりますが?」と言う。


「あなたという存在を生み落とした一番最初の母親のことよ」

「……それはさすがに、話が出来すぎていると思うのです。僕のこと、騙そうとなさってます? 交渉術の一種ですか?」


 話がさっぱりわからなくなっていたユメノが、「ちょっと待った!」と両手を上げて存在をアピールする。「誰か解説して!! この子、美雨さまの本当の子どもなの!?」と尋ねた。ヂアンが「違います」と冷静に答え、カツトシが「そうよ」と頷く。


「数百年前、美雨は人間の男との間に子どもを産んだ。それがあなた。だけど生まれてすぐに引き離され、人間に育てられた。あなたは限りなく人間に近い性質ながら、美雨と似た不死性を持ち合わせていた。つまり……前世の記憶を持ち越しての転生。美雨と違ってそれは完璧なものでなかったにせよ、あなただって自分の出自にはある程度見当がついていたはず。あなたは間違いなく、鳳凰の子だった」


 腕を組んだヂアンが、「……いや、そこまではいいにしてもですね」と小首をかしげた。

「その方がかの鳳凰さまであると? 嘘でしょう?」

「あ、そっち? それはまあ……そうね、色々あったのよ……」

「章! ママですよ! わたくしが!」

「ええー……ちょっと信じられないな……」

 というか信じたくないな、と呟いてヂアンは嫌そうに目を細める。


「そんな……! 私では不満ですか? ずっとあなたのことを探していたのですよ」

「いえ……なんというか……まあ、その……僕には今生での両親もおりますので……」

「ええええ」

「たぶん僕ではないんじゃないかなぁ。またなんか適当な子を探してもらって……」

「適当な子!?」

 声を上げて泣きながら、美雨は「由良さぁん……どうすれば……ようやく会えたのにぃ……」と嘆いた。ふとヂアンが眉をひそめ、美雨から目をそらす。


「……ええ、しかしながら面白いお話をお聞かせいただきました。お返しといってはなんですが、なぜ僕が『人間なんて滅ばないかなぁ』と思っているかお教えしましょう」


 目を細め、ヂアンはまとった衣の埃を払った。

「別に人間なんて好きでも嫌いでもないのですが――――僕の転生先を潰しておこうと思いまして。僕って人間にしか転生しないんです。不思議ですね。そこら辺は、そちらの鳳凰さまの方がよくご存知なのかな?」

「転生先を……? そんなことしたら、自分が困らん?」

「僕も自我を持って数百年。もう飽き飽きというものです。しかもこれがいつまで続くものかわからないのです。僕はもう終わらせたい。そのためなら、僕以外の全人類がどうなっても構いません」

「全人類を巻き込んでの心中、ってことですか?」

「人間が転生するたびに前世の記憶を失くすのがなぜかわかりますか。百年やそこらを超えるような時間、耐えられるような強度に作られていないのですよ……魂が」

 そういうわけです、とヂアンは飽きたような顔でため息をつく。「まあ本心ではありますが、それほど本気という訳でもありません。最終的にそうなったらいいなとは思いますが、ほとんど空想の域です。ご心配なく」と手をひらひらさせた。

「ああ、でも……あの方と一緒ならいずれ実現できるかもしれません。そのうち本当に、一人残らず殺戮せしめるかも。あの方のやる気によりますが。なんせ僕にもあの方にも、永遠に近い時間がありますからね。まあその程度ですよ、僕の野望は」

「それ、タイラのこと言ってる? やるわけないじゃん、タイラが」

「タイラは神さまですよ……? ぜったい、ぜったい、そんなことしません」

「そうですか。そうなんでしょう。厄介だなぁ。君たちがいるからその気になってくださらないのかな。まあいいや、これについては後で考えましょう。あの方の機嫌を損ねては本末転倒というものです」

 とりあえず、と言ってヂアンは指を鳴らす。「この山は僕にくださいませんか? あの方の帰る場所を、僕がご用意したいのです」と言った次の瞬間――――全員が、宙に浮いていた。




☮☮☮




 一瞬、何が起こったかわからなかった。遥か下の方に、山の高い木が見える。ユメノたちはふわりと浮いて、そして順当に落ちていた。思わず「ぴゃあああああ」と叫ぶ。「つかまって!」と言われてそれが何なのかもわからないまま掴んだ。藁をもつかむような、とはこのことである。そしてそれが実結の服であること、ユウキも同じように捕まっていることに気付いた。実結は例の大きな傘を広げ、ぷかぷかと浮いている。

 向こうでは美雨が都を抱えながら飛んでおり、そこにカツトシとノゾムが抱きついていた。「重い! 離しなさい! あなた、稲荷の子機でしょう? 結界を張って空中に留まればよろしいでしょう」とノゾムを蹴落とそうとして、ノゾムはノゾムで「今結界張れないの知ってんでしょ!?」と言いながら掴まっている。


 実結はぷかぷかとゆっくり降りて、「あれぇ」と呟いた。ユメノとユウキも一緒に首を傾げる。ここはまだ木の上だ。それなのに、それ以上降りることができない。何か見えないものに遮られている。

「ここ、なんかある。降りられるよ。ノンちゃんの結界みたい」

「? つまり山に入れないってことすか」

「そうみたい」

 美雨たちも空中に降り立ち、「本当だ」「視認できない以上どうなってるかわかりませんが、どこかから山に入れないんですの?」と難しい顔をした。そうして全員で、カツトシを見る。

「えーっと……綻びはないわね。僕たちは弾かれて、この山に侵入することはできない。これは正しく結界よ。ノゾムのとはちょっと性質が違うけどね」

「どういう性質の結界なのかお聞きしましょう」

「そうね。あれ、見える?」

 カツトシが指さした先には、木のてっぺんだ。そこには何か紙のようなものが揺れている。「あれは呪符よ」とカツトシは言った。

「護りの呪符」

「タイラのお札みたいなものですか?」

「成り立ちも使い方も違うものだけど、そうね。あの呪符は一枚じゃほとんど効果がない。あの呪符を複数個用意した時、やっと呪符同士を結んだその内側を護る結界が生まれる。あの子はせっせとこの山中に呪符を仕込んで侵入不可の結界を作ったのよ」

「なんて健気な子なんでしょう、章……」

「あんたの息子は、男の見る目だけはないわよね」

「……“見る目”というならそれほど悪いとは思いませんけれどね。いいところを突いてきたとは思いますわよ。私は断固反対ですが」

 ふん、とカツトシが鼻を鳴らす。すかさず都が「ともかく、ここからどうするか考えましょう」と口を挟んだ。

「どうするも何も、ね……。結界を破るにはあの呪符を回収するなりするしかないけど、それにはこの結界を破る必要がある。わかる? 今んとこ詰みよ。かといってなんか困ることがあるのかっていうと、家に帰れないくらいじゃない? ここは一旦引いて対策を練るっていうのが現実的なんじゃないの」

「うーん……せっかく再会できた息子を放っておくのは耐えられないですが、しかし打つ手がないのならそうでしょうね……」

「私も賛成だわ。一度タイラを探して合流してもいいかもしれない」

「いや、今回あの男は毛ほども役に立たないからほっといていい」

「そんな言われることある?? タイラに頼めば呪符もなんとかしてくれるかもよ??」

「あのヂアンという人の言い方だと、タイラだけは山に入れるんじゃないでしょうか」

「そうだろうけどあいつのことはほっとく。僕は人の心が読めるけど、だからといって操作することはできないから。あいつを刺激してどう転ぶかわからない以上、接触もできる限りしたくない」

「そんな危険物みたいな扱いなん??」

 空咳をした都が「一旦里に下りましょう。宿を取るのがいいかもしれないわ」と話す。「しょーがないわねぇ。山が取り戻せなかったらどこで暮らしていこうかしら」とカツトシがため息をついた。


「――――いえ。山は取り戻します。今すぐ」


 不意に、ノゾムがそう言った。

「えっ、どうやって??」

「結局のところこの結界の問題は、内側からしかどうにかできない呪符にあるってことですよね。ってことはつまり、内側にさえ入れればどうということはないんでしょう」

「内側に入るには結界を何とかしなきゃいけないんですよ」

「結界を何とかしなくても内側には入れます。皆さんはオレのリスポ地点がどこかお忘れなんですかね。オレは死んだら必ず神社に戻る。結界が張れなくても、神罰を執行できなくても、それは絶対です。暗示とかそういう問題じゃない。存在の大前提ですから」


 言いながら、ノゾムは自分の懐に手を入れる。「アイちゃんさん、一つだけ訊いてもいいですか」と真面目な顔でカツトシを見た。

「オレって人間になりたかったんすかね、神をやめて」

「……そういう側面もあったのかもね。だけどそれがあんたの全てじゃないことはみんなわかってる。人が“安定”と“成長”という相反する願望を持つように、もっと端的に言えば、『サボりたい』『活躍したい』という願いを同時に持つ事もあるように、あんただって『神として人を守り続けたい』という思いと『人と同じ目線を持ちたい』という思いを同時に持っていたって不思議じゃない。どちらにしたって、それは決して恥ずべきものなんかじゃないんじゃないの」

「ああ。そう……ですよね。アイちゃんさんが言うなら、そうなんだろうと思います」


 懐から出したのは小瓶だ。ふっと笑ったノゾムが「なんかずっともやもやしてたんすけど、あの子ずっとこの山のこと先輩のだって言ってますよね。一応オレのでもあると思うんすけど。所有権的にはフィフティでは?」と言いながら瓶の蓋を開ける。


「だからこれは、責任感とかそういうものじゃなく、オレの意地です。オレは神だ。そこに誇りがある」

「ノンちゃん……それ、何?」

「君たちはオレに、『好きなことをもっとたくさんやればいいのに』『もっと自由でいいのに』と言いました。君たちのそういうところを、オレは好ましく思います。でも根本的に、誤解があるなとも思うわけです」

「誤解……?」

「君たちはたぶんオレのことを、好きでもないことを強制的にやらされて、それ以外の選択肢がないか、あるいはそれ以外の選択肢を知らないせいで選べないでいるのだと思っている」

「…………」

「実のところ、そうじゃないんすよ。君たちが、人間以外のものになれないながらもその中で好きな生き方ができるよう足掻くように。オレもここで神に徹するという最低条件をクリアしながらその在り方を選んでいるわけです。わかるかな?」


 ユメノとユウキは黙って、ちょっと自分の服をぎゅっと掴んだりして、頷いた。「うん。君たちならわかるだろうって思ってました」とノゾムは優しく言う。

「やっぱ、やりたくないことってあるんですよ。やらないで済んだらそれが一番だな、って思うこと。でも、誰かがやらなきゃいけない、じゃあ誰がやるのかって話になったら、オレはそれやろうかなって思うんです。たとえばオレが心を持つ理由がもしあるのなら、そういうことなんじゃないかって。やりたくもないことを、だけどやらなきゃいけないことを、やらなきゃいけない理由を知ってるからやる――――。そういうのを、“誇り”っていうんじゃないかな」


 それからノゾムは「だから、あんま怒らないでくださいね」と言って小瓶の中身を飲み干した。

 ユメノたちの目の前が暗くなる。カツトシだろうか、ユメノとユウキの目を塞いでいた。その手を振りほどいて「ノンちゃん!」と手を伸ばした時には、彼はもうそこにいなかった。


「僕は人の心を操作できないし、次の瞬間に相手が何を考えるかの予知もできないけど」とカツトシが呟く。「ノゾムならこうするだろうって知ってた。だから……怒るなら僕を怒ってね」とユメノたちの頭を撫でる。

 ユメノもユウキも、静かに首を横に振った。

「怒らないよ……。だって、どうしてそうするかわかったから。わかっちゃったら、怒れないよ」

 たぶん、結界は消えていくのだろう。やわらかな声で実結が「つかまって。おちるよ」と促した。頷いて、ユメノとユウキは実結を掴む。やがて、ぷかぷかと下降を始めた。ユメノたちはそのまま、地面に降り立った。

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