第9話 神様だって切実に盆休みが欲しい(弐)
結局のところタイラとノゾムでイマダを探し出し、残りの人員で化け物を各個撃破していくということになったらしい。ユメノとユウキは神社まで都に送ってもらい、そこで待機することにした。ノゾム曰く神社に張っている結界が一番強いらしく、ここにいれば安全だとのことである。
みんなのことが心配だな、とユメノは呟いた。化け物ひとつとっても、急ごしらえであったとはいえノゾムの結界を破る力を持っている。
前回使ったタイラの神性を外す手が使えないかと提案してみたが、『恐らくそれはもうできないでしょうね』とノゾムに言われた。まったくの役立たずだ。
神社の近くにも化け物は跋扈している。結界が張られているとわかっていても、ちょっと怖い。隣に座っているユウキの手を強く握った。
イマダという男を見つけ出すのはそれほど難しいことではなかった。化け物どもが妙に多く集まっているところに向かえば一発で探り当てることができた。
「よお、クソ不法侵入野郎。元気にしてたか? そろそろ俺たちに会いたかったろ。来てやったよ」
「こんにちはクソ不法侵入野郎さん。あんたのことはよく覚えていませんがたぶんオレはあんたに恨みがあると思うので死ね」
「…………はぁ~~~~。やっぱそっちの狐も不死かよ。だと思ったんだよな、死んでも結界消えねえし。クソゲーここに極まれりだわマジで」
小指を耳に突っ込んで、イマダは盛大にため息をついている。「ため息つきてえのはこっちだよ」とタイラが呆れた声色で言った。
「まあまあまあまあ。オレたちはですね、あんたと話をしに来たんすよ」
「さっき俺に『死ね』っつったけどね、お前」
「いやさっきのはあんたじゃなくて先輩に言ったんす」
「なんで???」
「さすがに無理があるだろそれは」
ムッとしたノゾムが「めんどくさいな。もうハラキヨやっちゃおっかな」と言い出す。「いいのかよ」と言いながらイマダは人質に取ったらしい亡者を自分の前に出した。
「こいつらにも当たっちゃうよ?? 転生できなくなっちゃうよ??」
「え……ああ、はい。まあいいんじゃないでしょうか、逆に」
「うっそじゃん、お前。さっきはそこんところ配慮してんです、みたいなこと言ってたじゃん」
「言ったんすか、オレが。はぁ……スイマセン、一回死んだら別人だと思っていただいて……」
そんなノゾムの頭をタイラが後ろから叩く。「いてっ、やりませんよ……そもそも神性持ってる時点で神罰対象から外れるし」とノゾムが慌てて撤回した。
「つまりですね、オレたちはあなたとお話がしたいと」
「お前さ……先輩にそう言わされてんの?」
「いやどちらかっていうと、血の気の多いこのひとをオレが説き伏せてきたんですよ」
「適当な嘘を言うな、ノゾム」
肩をすくめたイマダが「いいぜえ。何の話する? 初恋の女の話でもしようか」と茶化す。「修学旅行みたいなネタですね」とノゾムが呟き、「えっ、それって人間だった頃も含む?」とタイラは天狗面の下で眉間に皴を寄せた。
「無理すんなよ。どうせ俺の正体を知りたいだけなんだろ。何度聞かれても同じだよ。俺は全能なの。それだけ」
「実はあんたの正体なんてのは事ここに至ってどうでもいいんですよね。どちらかといえば、動機を知りたい」
「動機だぁ?」
「何のためにこの山に来たか。なぜこんなことをしでかしたのか。どんな欲で、どんな野望で、いま神と対峙するのか。つまるところ、交渉材料を探しに来ました」
へえ、と言ってイマダは値踏みするようにノゾムを見る。「じゃあ降伏する?」と尋ねられ、「場合によっては」とノゾムは答えた。
「そんならさ、この山くれよ。俺に」
ノゾムがちらりとタイラを見る。タイラはと言うと、「えっ」と驚いたように声を漏らした。
「そんなことでいいのか」
「は……?」
「やるよ、じゃあ。でも後から文句言うなよ」
「ま……待て。何だその反応、何だその……。さてはお前……なんかあるな……?」
半笑いのタイラが「“なんかあるな”ってなんだよ。色々あるだろ、お互い」なんて言う。首の後ろをかきながらイマダは「いいよ、いらねえ。何もいらねえ。俺のやることに口出しすんな」と言い出した。
「それじゃあ困るんですよねえ……」
「ひとの家をめちゃくちゃにしながら『俺のことはほっといてくれ』なんて言われてもな。そうは問屋も卸すまい」
「じゃあそろそろこの山から出てくから結界消して」
「うーん……」
でもなぁ、と呟いてノゾムは考え込む。「何だよー。もう二度とこの山来ないでやるからさー」とイマダはにやにや笑った。
「ところで一つ、確認しておきたいんだが」とタイラが言い出す。
「何? 女の好み?」
「いやそんなことはどうでもいい。大体お前は胸が大きければいいみたいな顔をしているのでたかが知れてる」
「殺すぞ」
「お前の神性は何由来だ? 今回の被害についてどこかしらに請求したいんだが」
「保険入ってねえから無理だね。泣き寝入りしろ」
「なぜ自分に力を与える神の名を口にしない? 神性を誇示しながらその名を恥じるか」
目を細めたイマダが「あんたは勘違いしているよ」と舌を出す。「俺は何かに属しているわけじゃない。何からも力を与えられていない。あんたと同じ、ちんけな土地神さ。いや、あんたより遥かに力のない土地神だ。名前なんて言ってもわかるまい。何より名乗るメリットが一つもない」とつらつら言ってのけた。
「馬鹿が……よその土地神がこんなところで何をしていやがる」
「ええ~~~?? だって隣の芝生って青いじゃん」
「青かねえだろ。信仰なんて廃れて久しいし、山に蔓延る妖どもを躾けるので手いっぱいだぞ……」
「信仰、廃れちゃったんですかあ? そんなにお強いのにい?」
「まあ俺はその方がありがたいんだが……」
小首をかしげたイマダが「へえ、そうなんだあ」と呟く。
その瞬間、タイラは膝をついていた。
「何やってんすか、先輩。遊んでます?」
「…………いや」
「どうしたんですか。傷口が開いたんですか」
「信仰が増えた」
「なんて?」
「今、この瞬間に山神信仰が増えた。声が聞こえるんだ。俺の力を奪おうとしている」
「寝言はせめて寝てから言ってください、先輩」
ぼうっとどこか一点を見つめていたタイラが、何かうわごとのように言いながらうずくまる。
そうしてタイラが、「静かに……静かにしてくれ……わかっているじゃないか、俺だって」と呟くのが聞こえた。耳を塞ぎ、唸る。
ノゾムが「それマジのやつですか? 先輩、それマジのやつ?」と苦笑しながら尋ねるが返事はない。
「俺の……俺が……与えるものこそ加護だ。それを受け入れない者は異端者だ……。お前が、お前たちこそ、死ぬがいい」
先輩、とノゾムが呼ぶ。「このタイミングで神性に乗っ取られるとか笑えないんですけど」と駆け寄ろうとした。ニヤついたイマダが「愛した分だけ全てを呪えよ。それが、忘れられゆく神の正しい終わりってもんだろう」と首を傾げる。
一時の沈黙。ふと深く息を吐いたタイラが、顔を上げてその場で胡坐をかく。
「……ちょっと、煙草吸っていい?」
「は?」
「は?」
信じられないというリアクションのノゾムとイマダを無視して、タイラは煙草の箱を懐から取り出した。天狗面をずらし、一本咥える。小気味良い音で、火をつけた。
涼しい顔で煙を吐き出しながら、タイラは『さて』と考える。
激昂したイマダが「テメー! なんだその態度は! 立場がわかってんのか!」ととこちらを指さしていた。今にも殴りかかってきそうだ。ノゾムは呆れた様子ながらタイラの周りに結界を張っている。一服する時間は作ってもらえるらしい。
イマダという男を見ながら顎に手を当てる。
信仰の声は依然として耳障りであり、恐らく思考を止めれば簡単に乗っ取られるだろう。だから考えることをやめない。ここで存在を書き換えられるわけにはいかない。
あれが何者なのかということを考えるにあたって、気になる点がいくつかあった。何よりも大きな不審点としては、あの男が執拗に自分のことを“全能”と言い張ることだ。あれがその言葉通りの全能でないことは明らかだった。最初に亡者の中に隠れていたこともそうだが、何より本当に全能であれば美雨の飛行能力を奪っておきながらタイラのそれを奪わないというのは説明がつかない。単にその必要性を感じていないという可能性はあったが、そこまで見くびられている感触でもない。恐らく何らかの制約がある能力だろう、というのがタイラの考えではあった。
そして今、突然にタイラを縛る信仰という鎖が強固になったことでそれが確信に変わる。イマダという男は、こちら側を弱体化させたくて仕方ないにも関わらずそのような回りくどい方法しか取れないのだ。制約は恐らく会話――――あるいは単にこちら側の“発言”だろう。
ついにイマダが攻撃態勢に入ったらしく、怪物たちも動き始めていた。結界を維持しながらノゾムが「先輩!! このままだとオレが死にますが!!」と訴えている。必死な様子だったのでちょっと笑った。
どちらかといえば神道寄りだが『言霊』という考え方がある。言葉そのものに力があり、それだけで現実の事象や運命に影響を与えるというものだ。故に言葉を利用し不可能を可能とする化生というのは決して珍しくない。問題はその言霊をどのように利用しているか、だが。
『言ったことがそのまま実現される』というものでないことは確かだ。そうであれば今頃はもっと甚大な被害が出ている。
たとえば奴は“全能”と言い張り、タイラは戯れにそれを一度肯定した。しかしイマダの反応はといえば、言うならば『期待外れ』という風にも見えた。
今のやり取りについてもそうだ。「信仰は廃れた」と言ったら信仰が増えた、ということになる。
で、あるならば。『言ったことがそのまま実現される』の真逆。『言ったことが反転して実現される』と考えれば辻褄が合う。他の連中がどうであったかはわからないが、少なくともタイラからすれば辻褄は合う。
なるほど、とタイラは呟いて煙草を潰した。重い身体を引きずりながら、立ち上がる。
「お前、天邪鬼か」
一瞬目を見開いたイマダが、すぐに興醒めの表情をして「なーんだ、つまんねえの。もうちょっと正体不明のまま遊ぼうと思ったのによ」と頭をかいた。怪訝そうにノゾムが「天邪鬼? そんなザコ妖怪が?」と素直に口に出す。
「あんなもん、他人の口真似するぐらいしか能がないはずですが……」
「何か力を得るような機会があったんだろう。同族喰いとかな……。お前か? 地獄の鬼を喰ったのは」
べっ、と舌を出して「あいつらほんと不味いのなんのって。二度と喰いたくねえな」とイマダは言った。「悪食め」とタイラが低く呟く。舌なめずりをしながらイマダが、「神ってのは美味いのかな」と目を細めた。
「……ノゾム」
「はい」
タイラは何も言わずに下がる。一旦撤退する、という合図だ。ノゾムも頷いて一歩後ずさりした。それを見咎めたイマダが「おいおい」と指をさす。
「いいのか、ここで俺を何とかしなくて。そろそろ俺の可愛いしもべがお前の結界を突破すんじゃねーかなぁ」
「ノゾム、結界はどれぐらい保つ?」
「馬鹿にしてんすか。神社の結界と山全体に張ってある結界はオレの最高強度ですよ。1ミリでも綻びが生じるわけないじゃないですか」
一瞬の沈黙の後で、タイラがふと「今のは俺が悪かったよ」と呟いた。やがて全てを理解したノゾムが「ア゛ア゛ア゛ア゛」と叫ぶ。目の前でイマダが腹を抱えて笑っていた。
「さーて、じゃあこんな山とはおさらばしよっかなー」
そう言ったイマダが歩いていこうとして、立ち止まる。「あ、進めね。オメーさては俺の周りに結界張ったろ。無駄な足掻きを……」と言って叩き割った。それからペタペタと自分の周囲を触れて確かめ、「二重かよ……」とまた拳を振り上げる。
「…………」
「…………」
「何重に張ってやがんだ!!! 結界でミルフィーユすんのやめろ!!!」
それからノゾムは懐からありったけの札を出してばら撒いた。小さな爆発音と共に札は子狐へと姿を変える。何十何百の狐たちがイマダの周りを囲んだ。
何か憎まれ口を言おうと開いたノゾムの口を塞いで、タイラは羽を広げた。もごもご言っているノゾムを抱えて飛ぶ。
「いやぁ、やられたなぁ。とりあえずカツトシたちと合流するか……」
「あのッ……くそザコ鬼……殺す……!」
「気持ちはわかるが抑えてくれ。解釈次第で不死性を持たせることになるかもしれん。そうなれば殊更に厄介だ」
「……あんたは大丈夫ですか。さっき神性に乗っ取られかけてましたが」
「もう一度くらい意識が飛んだら本当に乗っ取られるかもな」
「はー、先輩もついにオートマ化かぁ。めでたいなぁ」
「言ってろ」
おっ、と呟いてタイラが降下を始める。木の鬱蒼と生い茂る中に降り立ち、「よお」と手を上げた。「あら、お早いお帰りですわね。何かおわかりになりました?」と言ったのは美雨で、「なーんでノゾムはそんなに不貞腐れた顔……あっ(察し)」と口に手を当てたのはカツトシだ。
「大変じゃないの……とりあえず結界を張り直した方がいいわよ」
「んなことわかってんすよ」
「何かありまして?」
「相手の口車に乗せられてこの山の結界を無効化させたらしいわね」
「なぜそんなことを……」
カツトシ、とタイラが呼びかける。何よ、と言いながらタイラの方を見たカツトシが「……そうね。……そう。部分的にそう。……違うけどニュアンスとしてはそうだと思う」と何かぶつぶつ呟いた。満足げなタイラが、「大体説明がついたな」と頷く。
「いいか、相手は天邪鬼という妖怪だ。接触しないのが一番だが、もし鉢会ったら言葉に気をつけろ。反転して現実に作用する」
天邪鬼ぅ? と美雨が半目で訝しげな声を出した。「そんな低級妖怪にこれほどの力があるわけないでしょう」と肩をすくめる。
「獄卒を喰ったらしい。そして恐らく新たな力を得るつもりでこの山に来たんだろう、霊力の量といいうってつけだからな。すでにかなりの成功を収めていると言っていい」
「……まあ心に留めておきましょう」
「カツトシ、被害はどうだ」
「そりゃまずいわよ。山を囲んでた結界が消えて、怪物たちが里に下りようとしてる」
「わかった。俺はとりあえずそっちの処理をするからお前らノゾムの援護をしてくれ」
そして唐突にノゾムの肩を掴んで、タイラは「な、ノゾム。お前ならできるな。後でピザでも何でも奢ってやる。お前はできるやつだ。よーしよしよし、結界のことは俺が悪かったから。やる気出せ。な?」と励ました。ふくれ面だったノゾムが「……いや」と視線を逸らす。
「あの男に『先輩に勝てるわけない』っつったの、たぶんオレだと思います……なんか、すみません」
きょとんとしたタイラが、ふっと笑って「お前ってほんと可愛いやつだよな」とノゾムの頬をつねる。それからカツトシと美雨に「後よろしくな」と言って飛んでいってしまった。
頭を抱えたノゾムが「はあぁ……」と深いため息をついてから自分の頬を思い切り叩き「やります」と宣言する。
「山の周辺は先輩に任せるとして、まず神社の結界を張り直します。アイちゃんさん、神社の様子はどうですか? ユメノちゃんとユウキくんがいるはずです。無事ですか?」
ハッとした様子のカツトシが神社の方向に目を向けた。まずいわね、と呟く。
「化け物どもが湧いてる。ユメノちゃん……妙に人外に好かれるところあるから……」
「私が走っていきましょうか? 機動力に難ありですが」
「それよりオレが死んだ方が早い」
懐から小瓶を出そうとするノゾムを、カツトシが制止する。「あんたは早く結界を張りなさい」と叱咤した。それからじっと神社の方を険しい顔で見つめる。
「オーケイ、今のところ大丈夫…………とにかく集中して」
「……わかりました。危なくなったらすぐ言ってください。いきます」
ノゾムは地面に術式を描き始める。やがてそれは光を放ち始めた。
怪物たちが神社の境内に足を踏み入れ、最初に思ったことは『ノゾムの身に何かあったのかもしれない』ということだ。ノゾムが死んですら消えることがなかった結界が破られたのである。ユメノは不安で胸の辺りに痛みを覚えた。
「にげよう、ユメノちゃん」とユウキがユメノの手を取る。ユメノはハッとして「うん」とうなづいた。この弟を守り抜かなければならないのだ。
しかし神社に向かっていく怪物を見て、ユメノは動きを止めてしまう。ノゾムは神社が無事な限り不死なのだと言う。であれば、神社に何かあった時はどうか。
「ユウキ、先に……行ってて」
言いながら、ユメノは落ちていた石を拾い握りしめる。大きく腕を振りかぶったその時、一瞬早く隣のユウキが石を投げつけていた。
それからユウキは怒ったようにユメノの腕を強く引っ張って顔を寄せさせる。
「何回言ったらわかるんですか!? ぼくとユメノちゃんはいっしょです。ぼくがユメノちゃんを守ってあげる。なんですか、その顔は!!」
「は、はえ…………??」
行きますよ、とユウキはユメノの手を引いて走り出す。怪物はこちらを振り向いて、怒声を響かせていた。
「ゆ、ゆうき…………」
「ぼくはユメノちゃんのために死んだりしない。だれのためにも死なない。ユメノちゃんも死なせない。いっしょに生きていくって約束です。ユメノちゃんはすぐ忘れちゃうんだから」
ごめんユウキ、と呟く。ちょっとだけ視界がぼやけた。
「逃げ切れるかな」
「逃げきれないかもしれません!!! 走って!!!」
なぜだかユメノは可笑しくなってしまって、ユウキに手を引かれながら声を上げて笑う。「何笑ってるんですか!」とユウキは怒った。
生きている、という感覚があった。ちょっとでも足を止めれば終わってしまう自分たちの全てが、どうしようもなく生きていると思わせた。
「みんなこっちを追いかけてきます!!!」
「えーなんでぇ!!?」
「とりあえず神社は無事ですね!!!」
「それはよかったけどね!!!」
走る、走る。
ふとどこからか「のぼって!!!」という声が聞こえた。思わず、声の方を見上げる。
「やまのうえのほう、のぼってえええええ」と叫びながら、傘を広げた少女の影がゆっくり降りてきた。近づくにつれ、その顔が見える。
「ミユちゃん……?」
「親方ぁ、空から女の子が……」
ふわりと降り立った実結が傘をたたみながら「はしるのっ」と2人を急かした。
「やま、のぼるの! うえ! いちばんうえまではしるのっ」
「登るのぉ!?」
ユメノもユウキも、無意識ながら下りを選んでいた。上りは走りづらく、スピードが落ちるからだ。しかし実結の真剣な目を見て、「わかった。信じる」と方向を転換する。
一心不乱に走りながら、ちらりと後ろを見た。なぜか、ユメノたちの後ろだけ雨が降っている。強い強い雨足だ。バケツをひっくり返したように、その辺りを水浸しにしている。
やがて緩んだ地盤は地滑りを起こした。ユメノたちを追いかけていた怪物たちが地滑りに巻き込まれ、将棋倒しのように滑落していく。ユメノとユウキも足を滑らせかけたが、実結に力強く引っ張られて体勢を直す。実結は相当力が強かった。
随分と登ってきたが、もうそろそろ体力も限界だ。「みっ、みゆちゃっ……」と息も絶え絶えに訴える。実結は緊張したようにうなづき、パッと傘を広げた。
「いくよ、つかまっててね」
「えっ?? まっ……」
実結はくるりと振り返り、今走ってきた道を後戻りするように走り出す。虚をつかれたユメノたちは、しかし実結を追いかけようと踵を返した。「何してるのミユちゃん! そっちには化け物が」と言って実結を捕まえようとする。その小さな背中に手を伸ばした。
その瞬間、少女はふわりと飛んだ。実結はユメノの手を掴む。思わず、ユメノはユウキの腕を掴んだ。ふわふわと浮かんだまま、平行に進む。怪物たちが手を伸ばしてきたが、ギリギリ届かないところで浮遊を続けている。
「ミユちゃん……飛べたんだ……」
「ミユはとべないのよ。ゆっくりおちてるだけ。かさでふわふわ」
確かに彼女の言う通り、ユメノたちはゆっくりと下っていた。
何度かタイラに抱えられて空を飛んだことはあるが、こうして傘の陰から見る山の景色は何だかひどく綺麗だった。
少しずつ地面が近くなる。ちょうど着陸地点に怪物がいるからか、実結は迷ったようにくるくるとその場で旋回した。そして、突然「ままーーーーっ!!!!」と叫ぶ。
次の瞬間には下にいた怪物が凍りつき、ぜえぜえと息を切らした都が腕を広げていた。そんな都の腕の中に無事着地して、ユメノたちは呆然とする。
「実結……! 一体どこに行ったのかと……。ふたりも無事ね!?」
「幸枝さんは今どこから出てきたの……?」
「実結に呼ばれた気がしたから」
「すご……」
ユメノとユウキを地面に下ろした都は、汗を拭いながら「こんなに氷を使えたの、初めて。もう一生できないかも」と独りごちた。
「どうして神社から離れてしまったの?」
「化け物が入ってきたんです。もしかしたらノンちゃんに何かあったのかも……」
「結界が破られたということ? それは……そうね、心配ね。みんなを探しましょう」
その時である。地鳴りが響き、地中から何か大きな黒い棒のようなものが現れた。むくむくと隆起し全体像が顕になる。それが棒などではなく、大きな蜘蛛の脚だとわかりユメノは卒倒しかけた。
「何これ気持ち悪っ!!?」
「昆虫は大きくしちゃダメでしょう!! 昆虫は!! 大きくなったら手に負えないんですよ!! ちゃんと責任もって飼えるんですか!?」
「斬新な批判ね」
「ゴキブリの大きいのとか出たらあたしショックで死ぬ自信あるよ」
「ゴキブリはやばいです。やつらはただでさえやばいのに、大きくなったら相当やばいに決まってます」
「面白い姉弟だわ」
そんなやり取りを尻目に、どうやら実結が雨を降らせたようだ。大量の水を被った蜘蛛が気持ち悪い音を立てて身を震わせた。思わずユメノが「吐きそう」と呟く。
「昆虫に氷は有効なのだけど、動きを止めるほどの力が出せるかわからないわ」
「逃げよ」
「間違いないですね」
妙に甲高い声を上げて、蜘蛛が特攻してくる。「えっ、はやっ」「だから昆虫は大きくしちゃダメだって言ってるのに」とまるで阿鼻叫喚となった。
前に出た都の足元から地面が凍ってゆく。蜘蛛の脚を凍りつかせたが、動きは止まらなかった。素早くユメノたちを抱き上げた都が「今からあなたたちを投げる。実結、しばらく飛んで。運が良ければカツトシや美雨に会えるかも」と早口に言った。「ま、まって。幸枝さんは?」と尋ねるが答えはない。
いよいよ都に投げられる直前、何か大型車同士の事故のような鈍い破裂音が聞こえた。一瞬遅れて怪物の断末魔が響く。耳を塞ぎながら顔をあげれば、潰れた蜘蛛の上に降り立ったのは、タイラだ。
重い印象の、黒い癖毛が揺れた。着物も天狗の面もべったりと赤い血がついており、それを真新しい青い液体が上書きしている。無機質な、まるで絵のようだ。
ふと、タイラが声を発した。
「何これ気持ち悪っ。なんで体液が青いんだよ!!」
うんざりという声色でタイラは「シャワーを浴びさせろ……」と呟く。
「はぁ……まーた不殺生戒を破る羽目になった。刑期が伸びる……。しかも今回は蜘蛛なんか殺しちまったぞ。萎えるな……」
物凄く萎えていた。
「タイラぁ…………」
「おっ、お前たちここにいたのか。神社にいなかったから探したぞ。無事か?」
「あたしたちは無事だけど、ノンちゃんに何かあったのかも! 結界消えちゃった」
「それはアレだ。まあ、解決したから。今山の方の結界も全部復活したし。あとノゾムはたぶん元気」
「ほんとに???」
頭を掻きながらタイラが「どうやったら4人運べるかな。ユウキを肩車、ユメノをおんぶして、幸枝ちゃんをお姫様抱っこして、幸枝ちゃんがミユちゃんを抱っこする…………完璧か?」とぶつぶつ言っている。慌てた様子の都が「わ、私は大丈夫です。徒歩で行くので」と断った。
「あたしもやだよ。絶対ユウキのこと肩車したらあたしが捕まるとこないよ」
「ユウキに捕まれ」
「無理だって」
「そうか? じゃあ2人ぐらい俺の羽に吊るすけど」
「嫌だし、それでほんとに飛べんの?」
今後の課題だな、とタイラが言う。「私のことはいいので3人のことを連れて行って」と都が控えめに促した。タイラは、「君が歩くなら俺も歩くよ」と眉を顰める。
ふと、ガサガサ木の葉の擦れる音。それから素っ頓狂な声が響いた。
「あれー!? いいところに皆さんお集まりじゃないですかー!!」
口元を押さえてもわかるニヤケ顔。イマダが木の上からこちらを見ていた。タイラが面白くもなさそうに舌打ちをする。
「と、」と言いかけた都の口を片手で塞いで「やつは天邪鬼だ。こちらの発言をねじ曲げて実現する力がある」とタイラは囁く。静かにうなづいた都が「オーケイ。気をつけるわ」と言った。
「おいおい、ショートヘアの激マブな姉ちゃんもいんじゃん。お話しましょうよ」
「私はつまらない女よ」
「どーでもいいね。綺麗なツラさえついてりゃそれで」
「お上手ね。さぞおモテになるんでしょう?」
「……おねーちゃんさ、煽ってる?」
隣でタイラがふっと鼻で笑う。「おうコラ! 馬鹿にしてんのか!」とイマダはこめかみに青筋を浮かべた。
「余程痛い目みてえんだなぁ、オイ」
枝が揺れ、イマダが地面に降りてくる。身構えた都とタイラの横をすり抜け、ぽかんとしていた実結の前に立つ。一瞬のことだった。タイラたちが振り向く頃には、実結のおさげ髪を手に取りながら「可愛いねえ、お嬢ちゃん。あの女の娘だろ? 目元がよく似てる」と笑いかけている。
青ざめた実結が後ずさり、「実結っ」と叫んだ都は手を伸ばした。
不意に突風が吹き、実結を直撃する。小さな体がふわりと浮いた。実結は咄嗟に傘を広げる。
都がタイラを振り向き、タイラは早口で「飛ばしすぎた。制御できないかもしれん、行ってくれ」と言った。
「でも……っ」
都はぐっと言葉を飲み込み、「わかった」と言って実結を追いかける。
残されたイマダがそれを横目で見ながら、不機嫌そうな顔をした。
「何だよ今の。風? オメーがやったの?」
「……お前、性根が小悪党だよな」
「あ゛?」
舌打ちをしながらイマダは、目の前の男を睨む。天狗の面のせいで表情はわからないが、微塵もイマダを恐れていない様子なのが気に障った。
あの男がすぐにでも飛び立たないのは、位置関係の問題だろう。タイラとユメノたちのちょうど真ん中にイマダは立っている。人の子を見捨てては飛んでいかないはずだ。不死であれば尚更、そうする理由がない。
「正直さぁ、お前とやり合ったって何も面白くねェんだよな。結果なんてわかりきってるし」
「そうはしゃぐなよ。新しい玩具はそんなに気に入ったか?」
「……お前マジでムカつくぜ。人の神経を逆なでする天才かよ」
新しい玩具、という言い方がまた癇に障る。そう、イマダの力はこの男を基準としたものであって元々のイマダのものではない。だが、それがどうしたというのか。手に入れたからには自分のものだ。『俺はお前より強いんだ』と怒鳴り散らしたくなる。
「後々束になって来られても厄介だ。ここらで戦力を減らしておくかぁ」
「マジレスするとお前が疲れるだけだぞ」
「それはどうでしょうね、神様」
踏み込む。タイラが構えた。素早く距離を詰め、下から拳を入れる。当然防がれるが、確実に骨まで響いた。次は真横から入れる。タイラは冷静にそれも防ぎ、イマダの腕を掴んだ。そのままくるりと後ろを向き、思い切りイマダの腕を引っ張る。背負い投げの形で、イマダの体が浮いた。
受け身を取り、イマダは地面に転がりながらタイラの腹より上の方を勢いよく蹴り飛ばす。タイラは防ぎ切ったように見えたが、その場で少しえずいて血を吐き出した。天狗面の隙間から顎を伝って滴る。
イマダは立ち上がって「なあ、やっぱり」とそれを指さした。
「治ってねえよなぁ、さっきの。お前、再生能力はたかが知れてんな? 人より多少自然治癒力が高いくらいか」
「え、何? よく聞こえなかった」
「なんでいきなり難聴になるんだよ」
すっとぼけやがってよ、とイマダはタイラを見る。それから腕を組んで考え込んだ。
天邪鬼といえば、読心ほどでないにしろ相手の感情の動きを察知するのに長けた怪異だ。しかしこの男の声色に、大きな揺れが感じられない。どうも感情が動いているようではない。いつまでも一定の、そこにはただ慈愛と傲慢さが見えるだけだ。
「いーいこと思いついたぁ。もう一度お前の胸に穴を開けて、今度は心臓を引きずり出そう。再生にどれぐらいかかるかな? 何もできずにその辺で死んでんのを想像するだけで笑えるなぁ。そんでその心臓俺が喰ったろ」
「喰うのか。それはウケるな……神のハツか……」
ウケてる場合じゃないよ、とユメノが声を震わせている。イマダも『何ウケてんだよ』と少し苛立った。タイラはどこまでも飄々と、「ちゃんと火を通せよ」などと忠告している。
ナメやがってと内心舌打ちをしながらも、何か嘲笑ってやろうとイマダは口を開いた。しかし一瞬早く、タイラが動く。
イマダは体勢を直し、身構えた。タイラが右足を上げる。腰の辺りを狙った中段蹴りだ。足を掴んでやろうと手を出せば、直前でタイラは足を下ろした。不意に腕が伸びてきて、イマダのニット帽を掴んで投げ捨てる。それから、タイラは思い切りイマダに頭突きをした。
脳味噌が揺れる。正直、意識がトびかけた。足を踏ん張って、何とか耐える。
「ふざけ、んなッ」と言って頭突きをやり返した。タイラの天狗面にひびが入り、割れる。ふらついたタイラが二歩ほど後ずさり、額から滴る血を拭った。
笑っている。前髪をかき上げ、しっかりとイマダを見ながら笑っている。
タイラの右手には真新しい天狗面が光っていた。それをまた装着する。律儀なことだ。最初に遭遇したときにはつけていなかったはずだが、何か制約があるのか。
しかし。それにしても、である。
(この野郎、勝ちに来ているのか? まさか)
勝てねえんだぞ、お前は俺に。
それはお前のやりようの問題じゃねえ。そういう
砂利を踏みしめる音がした。
あいつは。あいつは、この喧嘩に翼を使わない。あくまで地を駆けてイマダに向かってくる。それに気づいたとき、イマダはどうしようもなく怒りに震えて顔が熱くなった。とことんまで馬鹿にしていやがる。自分の武器を使わないということは、相手にその価値を認めないということだ。何が不死だ。100回殺してやる。
何の小細工も捻りもない、顔面ど真ん中を狙ったグーパン。当然ながら受け止めて、拳を掴む。するとタイラはイマダの足と足の間に自分の右足を置き、掴まれた拳を更に前に押し出した。イマダはバランスを崩す。後ずさるのですら間に合わないと判断し、わざと後ろへのけぞった。倒れ込む寸前にタイラの胸倉を掴み、思い切り腰を捻る。タイラを引っ張り込んで一緒に倒れ込み、馬乗りになった。思い切り顔を殴れば、天狗面にまたひびが入った。
「言ったろうが! お前は強いが格上との戦い方がなってねえ。お前は今、俺より弱いんだぞ。やり方ってもんがあんだろ」
それは、とタイラが本気で驚いた顔をする。「盲点だったな」なんてぽつりと呟いた。「クソッ……何なんだよその態度は」とイマダは歯軋りをする。
力いっぱいに殴りつけた。苛立ちをぶつけるように殴った。そんなイマダの拳をタイラが止める。「俺から言わせてもらえば、お前は優位性を保った戦い方がなってない。自分より弱い相手に、そうまで怯えて殴りつけるやつがいるか?」とせせら笑った。
怒りで固まるというのは初めての経験だった。それはある種の防衛本能のようで、言葉の意味を理解しないよう思考を停止しているようでもあった。
腕を強く引っ張られる。ガクンと頭が動いた。イマダの耳元でタイラが「殺せよ、俺を。何度だって殺せよ。なあ? 俺と永遠に踊ろうぜ、イマダクン」と囁く。
実際のところ、この山から出ることができないというのは目下の問題ではあった。あのノゾムという神が張る結界は大変に厄介だ。先ほど千載一遇のチャンスを逃したところだし、次に隙を生み出せるかわからない。あとはあの若い神を抹殺する方法だが……これは全く思いつかない。恐らく稲荷明神に連なる神だろうが、だからといってあの神の不死性を解き明かせるわけではない。
あるいは交渉に入るべきかもしれない、という考えもあった。それに応じるとは思えなかったが、言葉尻を捕まえてある程度優位に事象を反転させられるかもしれない。
そんなことを考えているうちに、タイラがイマダの肩を掴んで体勢を逆転させようとしていた。咄嗟に腹に蹴りを入れ、離れる。それから立ち上がり、タイラを睨みつけた。タイラはと言えば、また新品の天狗面に付け替えている。
イマダは呆れ果て、「その面ってしないとダメなの? つうかそれで前見えてんの?」と言ってやった。肩をすくめたタイラが、「俺のアイデンティティなんだよ」と吐き捨てる。嘘をつけ、とイマダは舌打ちをした。
ふと、アイデンティティという言葉に引っかかる。この山神のアイデンティティとは何か、ということはイマダもずっと考えていた。つまりどこに自己を置いているか、実のところこの男についてはよくわかっていないのである。
そもそも山神信仰というのは、その多くが自然や未知なるものに対する畏れによる。そして畏れによる信仰の最たる特徴として、信仰による因果は基本的に信仰によって収束する。
たとえば。
“山の神は、山一つ動かすだけの怪力を持つ”という伝承があるとする。それは信仰によって事実となるが、と同時に一層畏れを集め、強固な信仰によってその事実は抑えられる。つまり、それだけの力を持ちながらそれ故にその力は発揮できないのである。
決して何も生まない信仰。それが、畏れによる山神信仰あるいは山岳信仰である。
しかし、それだけであればこれほど各地に超自然的な存在への信仰や畏れが溢れたりはしない。問題は、『信仰によって生まれた因果が消えることはない』ということだ。先ほどの例で言えば、“山の神は山一つ動かすだけの怪力を持つ”という事実は消えないのである。
神は、不安定な存在だ。特に単なる伝承から生まれたその土地の神などは、ひどく脆い。信仰を畏と敬に分ければ、基本的にそれが拮抗して零となる。因果はそこに収束する。が、時々はあるのである。そのバランスゲームに失敗することが。敬が勝てばその神は伝承上の全てを為し、畏が勝てばその神は自我を失くし信仰を祟る。もちろん圧倒的に後者が多く、古い神などはほとんどが自我を失くしている。この国には決して足を踏み入れてはならない場所があり、それは祟り神となった古い土地神の場所なのだ。
先ほどイマダがこの神の『信仰を増やした』のは、当然畏れのことである。そのまま祟り神になってもおかしくはなかったが――――このタイラという男に自我を失った様子はない。
故に、イマダは思ったのだ。この男は神であるという自分の存在に自己を置いていないのではないか、と。ではこの男の核はどこなのか。
曖昧な伝承によって創られた神ではないのか。否、元々妖かなにかとして存在していた者に山神伝承が結びつけられたのか。天狗の面を“アイデンティティ”と呼んだのが本気なら、天狗信仰と山神信仰は決してイコールでなく、天狗として存在していたものが山神としての資格を得たという可能性も大いにある。
(いまいち読めねえなぁ、こいつ。本気か冗談かという問題もある)
そんなことを考えているうちに、またタイラが構えた。正直に言えば、もう、うんざりである。
こちらの方が強いのは間違いない。イマダにはほとんどダメージがないが、対するタイラはすでに満身創痍だ。にもかかわらず、イマダは疲れている。体力すらあの男を上回っているはずなのに、だ。
死んじまうぞ、お前。そう言いかけてイマダは盛大にため息をついた。そうだ、そういえばこの男は不死だった。だからといって、どうやら疲労や苦痛がなくなるわけではないようだ。そろそろ体が動かなくなってもおかしくはない。それでもあの男は立っている。疲れた様子もなく、むしろ動きはキレを増している。有り得ない。負傷に加え、信仰のデバフまで乗せてやったのだ。
このままでは優位性を保てなくなる、という予感があった。あの男の言う通り永遠にやり合っていれば、恐らくいつかは逆転されるだろう。能力で反転させた法則すら破って。
イマダはまた深くため息をついた。それからふと、ユメノやユウキとかいう子どもを見る。
(別に俺は、フェアプレイなんかにミリも価値を感じちゃいねえんだよなァ)
あからさまに視線を動かす。そちらに半歩踏み出す。それだけで、タイラは動いた。当然だ。やつらを守りきろうと思うなら、たとえ無駄になろうとイマダより早くやつらの元にたどり着かなければならない。
(なあ、そうだろ? 神様)
なりふり構わないその動きは、言ってしまえば大きな隙だ。積極的に狙っていく。足だ。足めがけて突進する。タイラが翼を広げた。おっ、と思う。飛ばれたら厄介だ。そのまま力任せに引きずり込む。
うつ伏せのタイラを組み敷いた。タイラが、「安全な場所まで走れ」とユメノたちに叫ぶ。イマダは思わずニヤリと笑った。
「安全な場所ぉ? そんなところあるんですかねえ」
ハッとタイラが息を飲む雰囲気がある。珍しく悔しそうに舌打ちをした。イマダは気を良くして、「どうしよっかなぁ。俺の解釈次第なんだが……そうだな、反転して……『やつらのいる場所のことごとくが安全でなくなる』とかどうだ?」と囁いてやる。
途端に化け物の声がした。大きな獣どもが一斉に湧く。
走り抜けようとしていたユメノたちが身を竦ませ、それを見ていた。実際の何倍も大きな熊のような化け物が、その腕でふたりを潰そうとし────空振った。
「……あ?」
突進する猪が直前で転げ、鳥の化け物は風に煽られ落下する。不自然に、それはそれは不自然に全て失敗していた。
ふとイマダは下を見る。タイラが片腕を伸ばし、何か一心不乱にユメノたちを見ていた。
「テメー……何かやってんのか?」
その瞬間、あろうことかタイラは全身の力を抜いた。この状況で、完全にイマダに主導権を握られながら、力を抜いたのである。
「……こっち見ろよ。なあ、おい。馬鹿にするのもいい加減にしろ」
タイラの右腕を後ろに回し、力を込める。骨が軋んでいるはずだ。タイラが微かに呻いた。
ユメノたちはと言えば、未だにかすり傷すら負ってはいない。ただ不自然に化け物たちの猛攻は防がれている。それは本当に不可思議な光景だった。全て、子どもらに接触する直前で何か見えないものに邪魔されているようだ。しかし結界などではない。強いていえば、“強運”だ。運が、ユメノたちに味方しているとしか思えない。
(……何だ? 運命への干渉? まるで『あの二人が無事である』という結果をまず前提としているような……。因果をねじ曲げているのか?)
何にせよタイラが関わっていることは間違いない。
「無駄な足掻きを……するんじゃねえ、よッ」
渾身の力を込める。確かに背骨の折れる感触があった。
しかし、タイラは一切の反応を示さない。その集中が途切れることもなかった。
ぞっとする。無我の境地。あるいは滅私。否、そんなことは有り得ないのだ。神だろうが妖だろうが人間だろうが、この世界で苦痛だけは平等なのだから。
ふと風を感じ前を向き直すと、自動車くらいの大きさの猿がこちらに吹っ飛ばされていた。イマダはぽかんとし、しかしすぐに飛び退く。その隙にタイラが羽根を広げ、何か言う暇もなく飛翔した。ユメノとユウキを抱え、旋回しながら彼方へ消えていく。
「……あいつの羽根も折ってやればよかったな」と舌打ちをし、しかし追わずにイマダもその場を離れた。どうせあの手負いでは少なくとも数日は立つこともままならないだろう。あの男は今後、なんら脅威ではない。そしてイマダ自身、ひどく疲れていた。
今までよりずっと速く闇雲に飛び続けるタイラに、ユメノは恐る恐る「大丈夫……?」と尋ねてみる。タイラは「ん? ああ、問題ないよ」と答えて少しだけスピードを落とした。
ユウキがぎゅっとタイラの着物を掴む。「ぼく……足でまといで……ごめんなさい」とぼそぼそ言えば、タイラは「いや、そうでもない。俺はあいつと遊びたかった」なんて飄々と返ってくる。
「最後のやつ、あれはタイラが何かしたの」
「まあ、そうだな。前に見せたろ、運命干渉能力。お前たちの不運をキャンセルし続けた」
「サイコロの陸を出すやつ? でもあれ、使えない力だって言ってたけど」
「そうだ。運命というのは基本的に絡み合っていて何をどうキャンセルすれば効果的に望んだ未来を引き寄せられるか考えるのは大変…………まあ、骨が折れる。全く実践向きの力じゃない。乱数の偏りさえなければな」
「らんすう…………ノンちゃん?」
そうだよ、とタイラが肯定する。「お前たちの幸運値は恐らくあいつの贔屓により元々かなり高かった。そこに例の天邪鬼が無理やり不運を乗せたとして、俺はその一番上の不運だけをキャンセルし続ければよかった」と簡単そうに説明した。「お前たちの幸運は折り紙付きというわけだ。神だけにな」とくつくつ喉を鳴らす。
「ああ、見えた。やっとあいつらと合流できるな……全く何も解決の目処が立っていないが、情報の共有くらいはできるだろう。さて、幸枝ちゃんとミユちゃんは無事かな……」
言いながら降下を始めた。ちょうど山の中腹あたりに、ノゾムやカツトシ、美雨がいる。こちらを見て手を振っていた。
ユメノとユウキを下ろしたタイラが、カツトシの方を見る。カツトシは「え? 何?」と手で何かを振り払うような仕草をして「あー、幸枝ちゃんとミユちゃんね」と辺りを見渡した。
「そうね……いたいた。無事よ。神社に逃げ込んだみたいね」
タイラはそれを聞き、なぜかちょっとの距離を自分の足で歩かずにふわふわと漂って、やがて木の影に腰を下ろしてうずくまる。
「? どうしたんすか先輩」
「“休憩させてくれ”だって」
「なんで自分で喋らないんです」
「“おれはつかれた”だそうよ」
「語彙力なくなっちゃったのかな? てかなんで黙ってるんです、マジで。怖いんですけど」
「むしろ声を上げていないことを評価するべき。すごいんだから心の中、ずっと痛がってて。どうやら背骨を折られたみたいね」
頭を殴られたような衝撃で、ユメノは思わず「なっ…………んで!?」と呟いてしまう。
「なんで、言ってくれなかったの……!? 言ってくれればあたしたち……何の役にも立たないかもだけど……も、もうちょっと…………」
「時間が経つにつれすごく痛くなってきたんですって」
「頑なに天狗面を外さない怪我人はシュールですわね」
「お面外したら……? あたしたち、見ないようにするから……」
「“いい”って。見せらんない顔してんのよ。ちょっと可哀想な程ね」
困惑した様子のノゾムが「そんなに? アイちゃんさんが同情するほど?」と頭を搔く。
「大丈夫ですか、先輩。ついに祟り神になります?」
「!! いやだぁ……タイラがたたり神になったら、ぼく、いやです……。しっかりして、山神さま…………」
「“うるさい。子どもらを向こうへ連れて行け”だそうよ」
苦笑した美雨が「さあふたりとも、こっちにいましょうね。大丈夫ですわよ、死にやしませんわ」とユメノたちをタイラから引き剥がした。
うずくまっているタイラを屈んで見下ろしながらカツトシは頬杖をつく。「幸枝ちゃんのこと呼んでくるわよ」と言うとタイラはちょっと顔を上げてカツトシを睨んだ。「そんなこと言ったって、あんたがここで戦線離脱する方がみんな困るわよ」とカツトシは顔をしかめる。ふいっとタイラが視線を逸らした。カツトシはなぜか「ふっ……ふふふ、あははははは」と笑いだし、「わかったわかった。ちょっと待ってなさい」と立ち上がる。
「誰か幸枝ちゃんたち連れてきて。神社にいるから」
一瞬の沈黙の後、ハッとしたノゾムが「もしかして事ここに至ってオレの機動力が一番高かったりします?」と口を開く。そのようですわね、と美雨が肯定し「じゃあ行ってきます」とノゾムは走って行った。
狐の姿になったノゾムの背に乗って、都母娘が現れる。都はぐったりしているタイラに仰天し、おろおろした。カツトシに宥められ、ようやく処置を始める。
都の氷で骨を補強されたタイラがようやく起き上がり、第一声に「このまま俺のパーツを全部氷に取り替えていったら雪男伝承が生まれるかもしれないな、雪山でもないのに」と言った。「わー面白いなー(棒)」とノゾムが呟く。
「さて……まあ、その、なんだ。情報共有でもしようじゃないか」
「まるで何事もなかったかのように……さすがですわ」
「やっぱりメンタルの強さが異常なのよね。伊達に人間から神になってないわ、って思う。これはどちらかというと感心しているのではなく呆れ」
タイラは面倒くさそうに「そう褒めるなよ、照れるだろ」といなした。どうやら彼自身も、心底億劫ながら何とかモチベーションを立て直そうとしているようだった。
「まあいいわ……。あのイマダとかいう男、正体は天邪鬼だって言ってたわね。えーっと……何だっけ、それ」
「“天邪鬼”って、アレだよね。なんか素直じゃない人っていうか、わざと反対のことする感じの人」
「天邪鬼という妖怪はかなり昔から実在していて、本来は人の声真似などして悪戯をするような小鬼とされてきました。しかし現代において、ユメノちゃんが言った通り『人の意見にわざと逆らったり、本心とは別のことを言ったりする、素直じゃない人』としてその言葉が使われるようになり、“天邪鬼”という妖怪の本質も変わってきました」
「元々いた妖怪が、時代によって変わったりするの?」
「そういったことは案外多いですね。妖怪に限らず、神なんかもそうです。結局のところ人々のイメージに大きく左右される。天邪鬼についてはその逆輸入が大変顕著で、後天的に新たな能力を手に入れたわけです。『人の言葉を必ず嘘にする。そのために事実の方をねじ曲げる』すなわち、『言ったことが反転して現実に作用する』というものです」
ユメノとユウキは同時に空を見上げ、口を半開きにした。今までの経緯を思い出し、「な……なるほど……」と呟く。
「とは言っても、天邪鬼というのは元々それほど強い力を持つ鬼ではありません。反転させるにしても限度があるはず………でしたが」
「同族喰いでしたかしら」
「恐らく、な。そしてあいつはそこそこの力を得てこの山に来たわけだ」
「もうひとつ厄介なのは、天邪鬼も能力を使うのに当然霊力を使いますが、それが自分の霊力のみでないということですね。“言霊”というものがあります。発言者がその発言に込めた霊力のことですね。天邪鬼はその言霊を利用して事象をひっくり返すわけです。つまり、その発言に込められた言霊が大きいほど反転した時の効果が大きくなります」
「……まあ、おあつらえ向きに霊力の溜まり場みたいな山で、これまた霊力を持て余し気味の神やら妖を見つけて都合よく言葉を反転させ、美味しい思いをしたってことよね」
「そういうことですねぇ……」
ふっと笑った美雨が「まあ、誰の発言がどうだとか、そういう犯人探しみたいなことはやめましょうね。誰が悪いって言ったらあの小悪党が悪いに決まってますもの」と言い出した。カツトシとタイラが「自分の失言に予防線を張り始めたわね」「さすが普段から『そんなこと言わなきゃいいのに』ということばかり言っている女は違うな」と言い合う。
「美雨の言う通りだと思う。あの妖が悪いのであって、誰も気に病むべきじゃないわ」
「そうでしょう、ユキエ。これからもし万が一大変な失言をしたってそれは致し方ないことですわね」
「それはできる限り気をつけましょうね……」
ため息をついたノゾムが、「そうは言ってもですね」と頭を掻いた。
「アレを野に放てばオレたちは戦犯です」
「間違いない」
「待って、その“オレたち”にどこまで入ってる? もしかして僕も入ってる?」
「雀鈩山全体の責任です」
「しれっと対象を広げるんじゃないわよ」
あんたたちで何とかしなさいよ、とカツトシは冷たい声音で言う。「ごもっともですが……」とノゾムが肩を竦めた。都がこほんと咳払いをする。
「とりあえず対策を練りましょう。天邪鬼の能力についていくつか確認したいのだけど」
「誰か詳しいひといます??」
「天邪鬼は日本神話由来だろ、お前の出番だ」
「いやいやいや、天邪鬼ってアレでしょ。よく仏教の四天王とかに踏みつけられてるやつ。先輩の方が詳しいのでは?」
「まーた習合案件かよ、知らねえよ」
沈黙が辺りを包み、困った様子の都が「今確定している事実を並べましょう」と提案した。
「とりあえず天邪鬼……あのイマダという男は神性を得ているため、オレの神罰の対象になりません。間違いなく不浄なんですけどね……」
「そして俺よりも強い。厳密に言えば『俺を上回る各ステータスを持っている』という感じか。上位互換と言えるな。ただ、」
「ただ?」
「恐らく超えられないでもない。あと幾度かやり合えば」
「嘘すぎでしょ……“先輩より強い”っていうのは絶対なんじゃないんですか……」
「それについては、思うところがある。あいつは事象をねじ曲げる時に『俺の解釈次第』と言った。これは推察だが、あの男は自分の解釈で反転する方向性と度合いを決めるが、それを後から変えることはできないんじゃないか」
「と、言うと」
「つまりあの男は、俺に勝てないという発言を反転させるためにまず俺の強さを確認した。そうして俺を上回る程度の強さというのを自分に設定したわけだ。そしてそれは、後から『やっぱりもうちょっと盛っとこう』ということができないわけだ」
「なるほど……それは面白い推察だと思う」
「希望的観測とも言えるが」
腕を組んだノゾムが「本気で勝つつもりあります?」とタイラに尋ねる。タイラは顎に手を当て、「当然だ。考えてもみろ、向こうの残機は1だがこちらの残機は無限だぞ。何度死んだって一勝あげればいい勝負だ。楽勝と言える」とうなづいた。「ポジティブシンキングの申し子かな?」とノゾムは首を傾げる。
「こちらの天狗お兄様がどんなにやる気でも、向こうもそうとは限りませんわ。あの天邪鬼、もうこの山には用がないのでしょう? ということはどうにかこの山を出る方法を探しているはず。どちらかといえばお稲荷様狙いでいらっしゃるのでは?」
「……それが現状一番警戒すべきことでしょうね。結界を破る方法、あるいはオレを抹殺する方法を今血眼になって探しているはずでしょうし」
「ちなみに結界の強度はどれほどなんです?」
「そうそう破れるものではないですね。破れれば張り直すこともできますし。オレを殺すこともほとんど不可能です。神社が塵一つ残さずに消えれば……とも思いますが、そもそもそれをするのに結界を破る必要があります。…………一番危ないのは、さっきみたいに言ったことを反転されて結界を突破されることですが」
もうひとつ大きな問題があるわ、と都が口を開いた。「彼を倒して、現状反転してしまっている事象が元に戻るかわからない、ということ」と真剣な顔をする。うーん、と唸ったノゾムが「それは確かにそうなんですよね」と天を仰いだ。
「それは困りますわ、わたくし飛べませんし」
「つまるところ、こちらが上手く主導権を握りながら反転した事象を元に戻させるか、あるいはここからまた上書きをさせる必要があるのではないか……と」
「可能性としては」
「可能性が少しでもあるなら慎重にならざるを得ないですね。このままあの巨獣どもが湧き続けても困りますから」
「つまり……接触は不可避ってことよね」
「できれば交渉の体を取りたいところです。向こうもそう思っているはず」
「お互いに交渉する気なんてサラサラないことがわかっていながら、か」
「そうなるとかなり不利ね。反転するかどうかの決定権があちらにある以上、相当上手く立ち回らなければならないわ」
恐る恐る手を挙げたユウキが、「ここでこうやって話してるのは大丈夫なんですか?」と尋ねる。
「盗み聞きされてたら、たくさん反転されちゃうんじゃ……」
「それについて、結果論的に“大丈夫なんだろう”としか言えないですね。かなりヤバいことを言った覚えがありますが、現状それが反転している様子はないので」
「もっと論理的に話をすると、もし盗み聞きが有効なのであれば最初に死者の魂に紛れてまで私たちの前に姿を表す必要がありません。全てが盗み聞きで事足ります。恐らく“発言者の認識外から聞いた発言を反転できない”というような制約があるのでしょう。まあ、そうであってもらわなきゃ困るのですが」
「認識の定義も曖昧だから、大丈夫とは言いきれないけれど……」
もう少し材料が欲しいところだわ、と都が呟く。「どちらにせよ接触するしかない、ってことですね」とノゾムがため息をついた。
「アイちゃんさん、巨獣たちが集まっているところって見えますか?」
「今かなり散らばってんのよねえ」
「それなりの強さを得た自信で自分の周りを固める必要がなくなったのかな……。探すしかないか」
肩を回しながらタイラが立ち上がり、ノゾムも着物の埃を払いながらそれに続く。それからユメノとユウキを見て、「また万が一結界が無効化されたら困りますし……逆に護衛をつけてここにいてもらった方がいいかな」とノゾムは言った。ユメノたちは顔を見合わせて、所在なさげにうつむく。
「……タイラがいいんじゃないかしら、護衛」
「ん? いや、俺はあの天邪鬼を探す役割だろ」
「オレもそう思っていましたが」
「思うに、向こうはタイラがそんなに早く戦線に復帰するとは考えていない。今回戦闘を考えていないのであれば、そこにタイラを引っ張り出すのはもったいないんじゃないかしら」
「それはつまり……来たるべき時に、俺に奇襲をしろと言っているのか?」
「現時点でそういう手もある。それを潰すのは惜しい、というだけよ」
「なるほど……」
腕を組んだタイラが「待機か、俺が?」と重ねて聞いた。面白そうに、カツトシと美雨が「待機!」とタイラを指さして笑う。「待機かよ、俺が」とタイラはまだぶつぶつ言っていた。
「ついでにアイちゃんさんは見晴らしのいいとこで山に異変がないか視ててもらってもいいですか?」
「まあ、僕には天邪鬼が視えないんだしね」
「それ以外の面子で天邪鬼を探しに行くので、誰かがあいつと接触したときには、アイちゃんさんが他のメンバーにそれを知らせてみんなを連れてきていただけると大変嬉しいんですが」
「それくらいするわよ」
「オッケー。じゃあ、行きますか」
話し合いは終わったようで、全員あっさりと散らばっていく。振り向いたカツトシと都が「また後でねー」「実結のこともよろしく」と手を振った。実結はひどく疲れた様子で、先ほどから木の陰で眠っていた。
残されたタイラが頭をかきながら、ユメノとユウキ、それから眠っている実結を腕に抱いて不意に飛び上がる。高い木の上で胡坐をかいて、「つまんねえなぁ。俺をのけ者にして解決するパターンだろ、これ」とぼやいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます