第33話 誘拐犯(ゆうかいはん)
乃白瑠達は、迎えにきた
閻魔王庁でウィズダムとユラリアと落ち合った乃白瑠達。
梶瓦麗人役をやっていたレグルス=セランヌの魂は、誘拐罪で逮捕され、今裁判を待っている状態だ。ユラリアは手紙を書いて、それをレガルスに送る。
ピーターパン役は改めてオーディションで決められるそうだ。バリーも出来るだけの援助を惜しまないと、本家『ピーターパン』に居住していた人々と共に力になっている。
羅王様と
裏庭にある無数の墓は掘り返され、その中でコールドスリープで眠っていた子供達も眠りから覚めた。
寝室で眠るユラリアの手を握っているのは、日本から駆けつけ
眠れる美女は目を覚ます。
「お母様!」と、涙を浮かべて母を呼ぶミラル。抱き合う二人。それを見守る乃白瑠達と、大勢の子供達……。
飛行機の機内。眠るベルサトリと小桜、楓を
『蘭は、アイ=レンの望み通りに、彼の遺骨を世界で一番美しい海に撒いた…… 了』
乃白瑠は、『葬儀屋ランちゃん』の結末を完成させると、窓から外に目を遣った。
機内のスクリーンでは、たった今映画が終わったばかりだ。
エンディングロールが流れ、ある曲が乗客の
ジョン=レノンの名曲『イマジン』……。
『Imgine there’s no heaven……』
(『天国などないんだと考えてごらん』か……。
ヘヴン、そして決して存在してはいけないネバーランド。だけど、人間は理想郷を追い求め、天使のように優しくなりたいのさ)
乃白瑠の胸に去来する想いが、今完成する……。
「……という小説を書いたんですけど、どうですか小桜さん」
原稿用紙をテーブルにバサッと置く小桜。
東京神田のボロビル内の事務所。
「クシュ! アンタ、『設定利用罪』と『キャラクター盗用罪』で永眠刑よ!」
「冗談言わないで下さいよぉ!」
「フフッ。クシュン! 冗談よ。だけど中々面白かったわよ。ところでこの小説どうするつもり?。アンタの書いたこの小説、私が読んだから、今頃『想像国家』として工事が始まってるわよ。これ新人賞に応募するの?」
「迷っています。応募規定は四百字詰め原稿用紙で三百五十枚。
そこに、事務所の扉を叩く人影が二つ。
「クシュン! お客さんみたいね。クシュン!」
「風邪大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。ほら、乃白瑠君! お客さんを待たせない!」
乃白瑠は扉を開け、事務所の中へと客を引き入れた。
年は三十代前半の夫婦。夫はイギリス紳士。妻は日本人。
夫婦は菓子折りを持っており、それを乃白瑠に渡す。どうやら深谷のおせんべ屋さん
編集長のウィズダムが革張りの重厚なソファーへと腰を下ろす。
名刺交換。男性の方は、とある外資系企業の社長だった。
「依頼ですか?」
「はい……。『誘拐犯』という小説をご存じでしょうか?」
「はい優城美町先生が書かれた推理小説ですね?」
(誘拐犯?)乃白瑠と小桜が顔を見合わせる。
「あの小説が実際の誘拐事件をモチーフとした小説だという事はご存じでしょうか?」
「えっ?! それって、まさか!」と、お茶を運んできた乃白瑠が声を上げる。
「シッ! あなたは黙って! それでは言いましょう。あなた方の依頼内容は、小説『誘拐犯』に出てくる誘拐犯人の手から、小説の中でお嬢さんを助け出して欲しい。違いますか?」
「そ、そうです! 何故わかるのですか?」
「やっぱりね……」と、小桜は乃白瑠を睨みつける。
「乃白瑠君。わかるわね。あなたが書いた『剣撃文庫』が実現しようとしているわ」
「どういう事だ小桜君」
「はい、実は……」
小桜はウィズダムに、乃白瑠が書いた『剣撃文庫』の原稿を手渡す。
時間が砂のように、沈鬱な雰囲気の端を痛めつけるように流れた。
「ふむ……。『剣撃文庫』の所持者である乃白瑠君の力だな」
「僕はどうしたらいいんでしょう……。怖い!」
「でも、そうとわかったらやる事は一つよ」
「何ですか?」
「あなたはこの『剣撃文庫』を完成させるのよ」
「あっ! そうか! 小桜さんあったまいい! でも、どうやって?」
「それを皆で考えるの!」
「小桜君! 楓さんと我王君にも連絡を入れてくれ! 楓さんの画力ではイラストにならん。ことによると『誘拐犯』にダイブしなければならないからな。今から旅館に缶詰だ!」
「場所は!」
「乃白瑠君、リクエストはあるか?!」
「では、伊豆なんかいいですね!」
「その経費は私達が支払います」
大企業の社長夫婦が申し出る。
「よし! 行くぞ!」
第33話 了
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