第28話 オラのもんはオラのもん お前のものはお前のもの



「私は認めんぞ! あんな駄作が『ピーターパン』の続編だなんてな! そうだ! 日本にはこんな諺があるそうだ! 人の褌で相撲をとるな、とな! 設定、キャラクターをそのまま利用するという事は、そう、あれは最近の言葉で何と言ったかな・・・・・・、そう! 



と言うんだ!」


「それは違います! ユラリアはリスペクトしただけです! 彼女は『ピーターパン』を心から愛しているからこそ、『ピーターパン』を永遠にしたかった! 彼女に罪はない!全ては彼女の純粋な心を利用した甲乙龍之介のせいなのだ!」


「甲乙龍之介が生きている? 彼は貴殿らの手により始末されたのではなかったのか?!」


 検察官の声が法廷に響く。


「残念ながら、彼は生きている……」


 ベルサトリの言葉に法廷内は騒然となった。が、


「静まれ!」という閻魔大王の鶴の一声で元の静寂さを取り戻す。


「ベルサトリ。お前の質疑は終わりか?」 


「いえ、まだ聞きたい事があります。最後の質問です。ピーターパンの父親の事です」


 ベルサトリは、真剣な面持ちでバリーを見つめると、


「頼む! それだけは聞かないでくれ!」


「大人になったらどうですか、バリー殿。小説の中でピーターパンを両親の許から逃亡させたのは何故ですか?!」


「貧しい機織工はたおりこうだったが一所懸命我々兄弟を育て上げた父親を、私は尊敬していた!」


「私はあくまであなたの心の奥底に潜む潜在的な心理の事を言っているのです。それに、エディプス・コンプレックスは特別珍しいものではありません。男性の皆さんならおわかりでしょう?」


 ベルサトリは、傍聴席に呼び掛ける。


「『僕は大きくなったらお母さんと結婚する!』と、幼い頃言った覚えはある筈です。特にバリーさん。あなたの母上のような美しい女性が母親の場合、その傾向は強くなります。そうすると、母親を独占する父親を心の奥底で憎むようになるのです」


 否定出来ないバリー。


「そして、あなたのそのエディプス・コンプレックスが生み出した敵役、それこそがフック船長だった。違いますか?」


「!」


「あなたは『ピーターパンとウェンディー』の中で、こう述べていますね。フック船長は曾てパブリック・スクールの生徒であり、正しい作法にうるさいと」


「いかにも」


「それは、教育に熱心だったあなたの父親、そのままの姿なのではないですか?」

「違う、違うのだ……。だが、話さねばなるまい」


「話して下さい!」


「『剣撃大王』! 中々やりおるな!」


「そういう貴様こそ!」


 海賊達や子供達が見守る中、甲板上で戦い続ける剣撃大王とフック船長。

 そこに救出されたティンカーベルが甲板へと出て来る。

 剣撃大王の右の刀の柄から生えている前田慶次郎の刀がフック船長の胴をなぐ。それをジャンプ一番躱かわすフック船長。だが、そこに、左の柄から生えている柳生十兵衛が上段からから刀を振り下ろす。フックにとって絶体絶命のピンチだ!


「此処までだ!」と、剣撃大王が叫ぶ。


「チィッー!」


 と、その時だ!


「ダメーッ!」


 二人の間に割って入ったのは、


「ティンク!」と、子供達が叫び声をあげる。


 そうだ。ティンカーベルが突如としてある人物を庇ったのだ。

  

「ちょっと! 本当なの?」


 双眼鏡でジョリー・ロージャ号の甲板かんぱんの様子を覗いていた桜子が驚きの声を出す。


「どうしたんですか? 小桜さん」


「乃白瑠君の書いた通りになったわ」


 小雪と楓が一斉に乃白瑠の方に視線を送る。と、乃白瑠が気づく。


「あ、あれは、何だ?!」





「この人を殺さないで!」


「ティンク! どうした?! 何故お前がフックをかばう!」


 アルフレッドの言葉どおりだ。何故ティンカーベルがフックを助けようとしたのか?

 その時だ! アルフレッドが気づく。空を飛んで来たある存在に。


「ピーター!」


 そう、それは紛れも無い赤ん坊へと姿を変えたピーターパンの姿だった!

 空中を飛んで来たピーターが舳先に立っている。


「よぉ! フック!」


 ピーターパンの手には短剣が握られている。

 言葉を喋れない筈の赤子が、フックに挑発的にその名前を呼ぶ。


「貴様はパンか! 一週間見ない間に随分と縮んでしまったな!」


「ぬかせ! 勝負だ!」


 そう叫んで、宙を滑空するピーターパンが、その短剣でフックへ斬りかかる!





第28話 了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る