第27話 オラ・オラ・オラ~!!!



 裁判では、ユラリア=セランヌが書いた『永遠のピーターパン』が読み上げられ、本家の『ピーターパン』シリーズとの共通点が挙げられ、『小説設定利用罪』と『キャラクター盗用罪』が適用可能である事が指摘された。


「求刑は……」


 皆が息を呑む。


「想像力の永眠刑!」


 ベルサトリが思わず絶句する。

 検察官が、長々とした冒頭陳述を終える。

 次は罪状認否だ。羅王様がユラリアに問いかける。


「ユラリア=セランヌ。罪を認めるか」


「……いいえ。出版社への了解は取ってありますから」


「私は認めないぞ!」


 席から立ち上がったバリーが怒号を発した。


「『現実世界』では了解を取ったかもしれない。しかし、あなたは不特定多数の子供達に半強制的にそれを読ませ、その小説から建設された『想像国家』の歴史を固定化した。そして、本家である『ピーターパン』シリーズとの戦争に持ち込もうとしたという疑惑が掛けられているのだ。これは、『想像憲法』第九条『想像力による侵略の禁止』に抵触する」


「私にそんなつもりはありません!」


 それを聞いて、羅王様はフーッと溜め息をつく。


「お前は甲乙龍之介を知っているな」


「はい。知っています」


 傍聴席がざわつく。それはそうだ。甲乙龍之介は三年前に勃発した象魔大戦を誘発させた張本人だからだ。


「お前の書いた『永遠のピーターパン』に登場する子供達の役をやっている魂は、生き霊、つまりこの『想像世界』の住人ではない。十五歳以下の子供は罪に問われないが、不法入国させたお前と、実行犯である甲乙龍之介の罪は重いぞ」


 そこにベルサトリが立ち上がって発言する事の許しを求めた。


「私はベルサトリ=ウィズダムです。私に弁護人として発言を許して頂きたいのですが」


 その名前にまたも傍聴席から驚きの声があがる。彼の名前は『想像世界』を救った『剣撃文庫』の編集長として、乃白瑠と小桜同様、英雄扱いされているのだ。

 そのベルサトリの発言に皆が注目する。羅王はその状況を考慮し、


「ユラリア=セランヌの弁護人として発言を許す」


「では早速ですが、サー・ジェイムズ・マシュー・バリー氏を召喚したいのですが」


「よし。わかった。バリーよ、これへ」


 裁判官である春王様の命令は絶対だ。彼は傍聴席から証人席へと向かい、席に着く。


「ではお聞きします。あなたの母上であるマーガレット・オッギルヴィ殿は素晴らしい人だったようですね」


「無論だ!」


「永遠の美少女。彼女は幼いあなたに幼話をよく聞かせてくれた。『ピーターパン』に登場するウェンディーは、その母上が投影されたキャラクターである事は認めますか?」 


「……」


「どうですか? 認めるのですか? 認めないのですか?」


「……認める」


「そうですか。では、ピーターパンという永遠に少年のままの存在は、あなた自身の事である事は認めますか?」


「……」


「また沈黙ですか。あなたの時代にはない言葉ですが、心理学用語で『ピーターパン症候群』という言葉が存在するのですが、正にそれはあなた自身の心理状態を説明するような言葉です。つまり、大人になりたくはない。永遠に少年のままでいたい、という心理をね」 


 ベルサトリはバリーの精神分析を始めるつもりなのか。


「つまり、あなたは永遠の子供として母親に依存して生きていたかった。違いますか?」


「……」


「何も恥じる事はありません。永遠の子供という考えは、欧米ではよく知られた考えです。つまり、キリスト教におけるイエス・キリスト。イエスは神にとって永遠の子供として位置付けられた存在。言わば、イエス・キリストもピーターパン症候群だった訳です」


「……」


「フー。では話を変えましょう。何故、あなたはピーターパンを赤ちゃんの時に両親から離別して自分自身で成長した、という設定にしたのですか?」


「それは!」


「私にはわからない。どうして、母親を愛していたあなたが、両親と離れて、両親の愛情を知らずに成長するというピーターパンを主人公にしたのかが」


「……」


「だが、こう考えると辻褄が合うのです。ピーターパンは妖精と人間の合いの子であるという設定。そしてピーターパンにはいつも彼の側に居てお節介を焼く妖精がいますね? ズバリ言いましょう! ピーターパンの母親は、ティンカーベル! そうですね!」


「!」


「ティンカーベル! お前なら知ってる筈だぞ!」


 ジョリー・ロージャ号の船長室の鳥籠の中に閉じ込められたティンカーベルに、フック船長が怒声を浴びせる。側にはあのスミーがいる。


「何度聞いても教えないもん!」


「あのにっくきパンめの母親の名前を教えろ!」


「フン! どうしてそんな事が知りたいのさ!」


「あの、にっくきパンめがわしの母親の悪口を言ったからだ! だから今度はこのフック船長が、あ奴の母親の悪口を言ってやる番なのだ!」


 と、その時だ。船長室へ勢いよく飛び込んできた男。


「船長! 子供達が攻めてきました!」


「何だと?! パンめが攻めてきたのか?」


「奴はいません! 代わりに見た事も無い奴が!」


 それを聞いたフック船長はズカズカと床を踏み鳴らしながら、甲板へと向かう。

 甲板に出ると既に戦闘は始まっていた。


「これはどうした事だ?!」と、フック船長が叫ぶ。


「フックだ! フックが出てきたぞ!」


 短剣で海賊達と戦っていたアルフレッドが、フックに気づく。

 此処までは乃白瑠が『剣撃文庫』に書いたシノプシス通りだ。

 後は、『剣撃大王』がフック船長と自由に戦えというのが乃白瑠の指示だった。


「お前は何者だ?!」


 三位一体攻撃で海賊達を悉く退けている『剣撃大王』に誰何の声を投げたフック船長に、


「私は『剣撃大王』! 我が盟主、明王乃白瑠によって命を与えられた聖霊だ!」


「何?! では、お前があの『剣撃大王』か! 相手にとって不足なし! わしと立ち合え! 誰も手出しをするなよ!」


「望む所だ! オラ・オラ・オラ~!!!」


 タイマン勝負! その隙に子供達が船内に入り込み、ティンカーベルの救出に成功した。


「バリー殿?」


「気づかれてしまったか。お前の予想通り、ピーターパンの母親はティンカーベルだ」


 傍聴人達の顔に驚きの色が走る。葛木麿実の顔が一瞬曇る。


「だが、それを明らかにしてどうするつもりだ? それとこの裁判と何の関係がある?」


「決まっています。全ては『永遠のピーターパン』から誕生した『想像国家』を守る為!」「私は認めんぞ! あんな駄作が『ピーターパン』の続編だなんてな! そうだ! 日本にはこんな諺があるそうだ! 人の褌で相撲をとるな、とな! 設定、キャラクターをそのまま利用するという事は、そう、あれは最近の言葉で何と言ったかな……、そう! 



と言うんだ!




第27話 了

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