第24話 オラの宇宙



「ティンクの奴、一体何処へ行ったんだ?」


 アルフレッドが、枝をかき分けながら前へと進む。後へ続くのは、乃白瑠に小桜だ。

 子供達は手分けしてティンカーベルを探しに行っている。

 小屋でピーターパンの世話を担当しているのは、楓と小雪だ。


「ねぇ、乃白瑠君。あの二人、残してきてよかったの? 楓ちゃんと小雪さんの事」


「何か問題ありですか?」


「あんたねぇ! 状況が良く飲み込めていないようね!」


 そう言って、乃白瑠の耳をつまみあげる。


「いててててっ! 何するんですか!」


 この鈍感男には何を言っても無駄だと判断した小桜は、


「もういいわ! だけど覚悟しておいた方がいいわよ」


「?」


 先を急ぐ。

  

 コロニーの外ではまだ戦闘が続いていた。と、その時だ。


「ん? どうした、ユラリア」


「何か聞こえる……」


 目を閉じて耳を澄ますユラリアのその言葉に、ベルサトリも耳をそばだてる。


 ブリッジ要員全てが聞き耳を立てる。


『ラ・・・ラァ・・・・・・』


 ではない。念の為。ララアはアムロに殺されるのだが。


「何だ?」


『アホじゃあ~りませんよ。パ~でんねん』


「まさか! この声は!」


 艦長の声が上ずる。


「キャプテン・パーデン!」


 艦長の声でブリッジ内に動揺が走る。いや、此処だけではない。この宙域全体に響き渡るその声に、海賊達の戦艦がまるでそこのけそこのけお馬が通る状態で道をあける。

 停戦である。


「キャプテン・パーデン?」


 ベルサトリが鸚鵡おうむ返しに艦長に尋ねた。


「伝説の海賊ですよ」


 そこに通信が入る。息を呑む一同。

 いまかつて誰もその姿を見た事がないという伝説の海賊、キャプテン・パーデン?


「艦長!」


「うむ! モニターに映せ!」


「ハッ!」


 すると、前部モニターに映し出された。そう。伝説の海賊の姿が。


「!」


 書かないでもおわかりだろう。頭にパ~の被りものをつけた白塗りの顔。黒色の外套がいとうの下は、しま模様のピタッとしたコスチューム。


「……」


 唖然あぜんとする一同。静謐せいひつが数秒続く。だが……。


「ブワッハッハッハ!」


「笑うな!」


 怒りに震えるパーデン?


「ヒィ~ヒィ~ッ! 腹が痛ェ~ッ!」


 ブリッジ要員全てが笑い転げる。


折角せっかく助けてやろうと思ったのにぃ!」 


 腕をブン回しながら泣きわめくパーデン?


「あ、いや! すまんすまん!」


 艦長が素直に謝り、モニター上のパーデンに話し掛ける。


「その姿を決して見せた事がないあなたが、どうしてまた?」


「明王乃白瑠達に借りがあるからな」


 落ち着きを取り戻したパーデンのその言葉に、ベルサトリが応える。


「借りだって?」


梶瓦かじがわらに誘拐された子供達を解放してくれただろう?」


 誘拐犯の梶瓦は、『想像世界』のコロニーからも多くの子供を誘拐していたのだ。


「あの中に、私の子供、コパーデンもいたんだ」


「コパーデン? まさか、風水に詳しいなんて事は-」


「何の事だ?」


「いや、こっちの事だ。そうだったのか。あなたの子供もあの中に……」


「そういうお前は誰だ?」


「私は、乃白瑠君の上司だ」


「何?! そうか! 有り難う。礼を言う」


 パーデンは慇懃に頭を下げた。


「パーデン殿。どうしてあなたは此処にやって来たのだ?」


「私はその誘拐犯を探していたのだが、このコロニーに逃げ込んだらしいという情報を知って、此処にやってきたのだ」


「奴の事は我々に任せておけ。今梶瓦を捜索中だ」


「そうか。なら捕まえたら私に引き渡して欲しい」


「どうするつもりだ?」


「決まっている。処刑するのだ」


「止めて!」


 パーデンの言葉にそう声を発したのは、他でもない、ユラリアだった。


「ユラリア? どうした、突然」


 ベルサトリが心配そうに声を掛けた。


「い、いえ……。な、何でもないわ」


 ベルサトリは、顔をパーデンへと戻す。


「梶瓦は、我々の手で葬る。奴に誘拐された幼い少女達の両親からの依頼だ」


 その言葉に、パーデンは黙り込む。そしてベルサトリをじっと見つめる。

 他の海賊達は静まり返り、見守っているようだ。

 見つめ合う二人の男。互いに信の置き所を探しているのだ。そして、


「……わかった。お前達に任せよう」


 初対面でお互いを信じるという難しい事を達成した瞬間だった。


「その代わりと言っては何だが、あなたにお願いがある」


「何だ。何でも言ってくれ」


「我々を閻魔えんま王庁おうちょうまで護衛して欲しいのだ。他の海賊から攻撃を受けないように」


「おやすいごようだ」


 男と男、優しく笑う二人だった。

 海賊王であるキャプテン・パーデンに逆らえない他の海賊達が見守る中、出港する戦艦。それを護衛する海賊船。

 二隻の船は一路、閻魔王庁まで高速で向かうのだった。

 裁判開始まで後五時間と三十一分!




第24話 了

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