第23話 オラの魔宙(まそら)を巡ってドンパチ
「
「!」
「あなたも聞いた事がある筈」
「ユラリア! それは乃白瑠君の小説『CHU2-いんぐ-グミ』に登場する、過去・現在・未来を知る形状記憶スライムの事だ!」
『CHU2-いんぐ-グミ』。それは明王乃白瑠が書いた小説のタイトルである。
そしてそれは、『善化想像国家』と『悪化想像国家』とが戦った象魔大戦において、『善化想像国家』の核になった小説なのである。
言わば、この全宇宙が救われたのは、その小説が書かれた事によるといっても過言ではないのだ。だから乃白瑠は、『想像世界』の救世主と言われるのである。
「甲乙は、『亜无羅』と接触したの」
「何だって!」
「『亜无羅』とは、言わばアーカーシャー。別名アカシック・レコード。マクロ・ミクロを問わず全宇宙の一切の事象に関する知識を蓄えている存在の事。甲乙は、髑髏秘法によって自分の意識の貯蔵庫、つまり仏教で言う『
「月のムーンコピューターに?」
「そう。貴方達も気づいていたのね」
「ああ。最初皆笑ったよ。月が記憶の貯蔵庫だという事にな」
ベルサトリの目に映るユラリアの瞳。
「そう。月は氷衛星。内部に水を抱えている。その水が、太陽ニュートリノを検知する天然のスーパーカミオカンデになっているのね」
「うん」
「それで、あの眼鏡をかけた彼が、現在の『剣撃文庫』の所持者?」
明らかに乃白瑠の事だった。
「そうだ。彼が説明してくれたよ。その月で活動しているエーテル生命体と言える天使、つまり聖霊が、ある人物の電波の指令通り動いて、書いた小説や欲望を現実化してしまう恐れがあるとね」
「そう……。私にはその資格がないのかなぁ……」
「乃白瑠君は小説家になってもいいか自問自答している」
「それを判断するのが出版社なのね。で、私達小説家を目指す者はどうすればいいの?」
「ただ、人の悪口を書いたり、実在の人物の名前を使ってその人の人生を操ったりしなければいいだけだ」
「そうね。編集者の立場から言える事ね」
「問題は、それを書いてしまった人の魂が救われるかどうかと言う事だ。小説はフィクションだ。言わば嘘の塊だ。だが、皆が死んだ後、この想像世界での裁判で、まずモーセの十誡における九番、『嘘をつくな』。それにノアの七誡の二番目、『罵詈雑言の禁止』が問われる。小説家は嘘で皆を楽しませる職業だからな。そこをつかれる」
「そう……」
「だが、恐れていた事が現実になってしまったぞ! これで甲乙龍之介は正真正銘の摩多羅神になってしまったというのか!」
黙り込むベルサトリ。
そうこうしている内に二人の乗るヘリコプターが、このコロニーの港のハッチへと入る。港へと着くと、そこには閻魔王庁へと彼らを運ぶ想像艦隊の宇宙戦艦が待ち構えていた。後部ハッチから戦艦の甲板に着艦したヘリコプターから、出て来るベルサトリとユラリア。どういう事だろう。港の工事が急ピッチで進んでいる。
(おかしい。作者のユラリアが此処にいるのに……)
工事が進んでいるとは、つまりその小説家が、小説を今書いているという事だ。
そして二人は下士官に案内され、ブリッジへと上がる。
「お待ちしておりました」
艦長がシートから降りて、挨拶をする。
「あなた方を無事閻魔王庁までお運びしたいのですが、まずい事になりました」
「それは一体どういう事でしょう」
ベルサトリが艦長に訊く。
「我々の出港を待ち構えている奴らがいるのです」
「?」
「艦隊が待ち構えているのです」
「まさかそれは、ドズル中将麾下のコンスコン隊とか言わないでしょうね」
「はっ?! 何の事でしょう」
「コホン! いえ、何も」
「海賊ですよ」
「海賊ですって?」
そういえば、閻魔大王から海賊が出没するから気をつけるように言われていた。
「でも、どうしてこんな未完成の『想像国家』に?」
「狙いは、彼女です」
「ユラリアが?」
「私?」
「そうです。今や彼女には賞金が懸けられているのです」
「賞金ですって? 一体誰が」
「それはわかりませんが、今やこの『想像世界』の全ての海賊達がユラリアさん。あなたを狙っているのです」
「!」
「大丈夫。心配なさらないで下さい。我々が守りますから」
いかつい顔をした艦長のぶっとい笑みに、安心するユラリア。
「で、どうするのですか」というベルサトリの問いに、艦長は答える。
「まぁ、見ていて下さい」
艦長はブリッジ前方のモニターに目を遣る。モニターには、このコロニーの外の様子が映し出されている。ベルサトリとユラリアもそのモニターを注視する。
と、その時だ。
「ほら、始まりましたよ」と、艦長がその唇に笑みを刻んだ。
海賊船の艦砲射撃が始まった。何処に向かって?
「!」
海賊達が同士討ちを始めたのだ。もう想像宇宙はてんやわんやである。
あっちゃこっちゃでドンパチ。
第23話 了
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