第19話 ウラン
「……ああ。見た……。鬼子母神、つまりカーリーの
「ええ」
「何の為に?! 君は一体何の為に、不貞を犯して
「……私は、甲乙龍之介に利用されていたの。カーリーの髑髏法を始め、性魔術には、絶世の美女との結合が重要なの。私は、彼に『世界一美しいのは君だ』と囁かれて、
「そこだ! 甲乙龍之介は何故、その性魔術を行っていたんだ!」
「ベル。あなたも日本の密教に詳しいからわかると思うけど、
「そうだ。地中の中の鉱物を発見する為に、
「そう。心正しく、身体
「その少女を得る為に、甲乙龍之介は誘拐を行っていたというのか! なら、何を発見しようとしていた?!」
「私にもそれはわからない……」
「石油、金、ダイヤ、レアメタル……。ま、まさか!」
「編集長! な、何です?!」
「核兵器製造の為のウラン……!」
「そ、そんな事!」
「ユラリア。そして、誘拐された少女達はどうなったのだ?!」
「……私の屋敷の裏庭に、お墓があったでしょう?」
「ま、まさか! 誘拐された少女達は殺されたとでもいうのか! ユラリア!」
「馬鹿な事を言わないで! お墓の中でコールドスリープ状態で眠っているだけよ!」
「何の為にそんな事を?」と、小桜が訊く。
「彼女達を永遠の少女にしたかっただけ……」
「それは君の思いが上がりだ! 大人になりたくない、ピーターパン症候群の君のな!」
「でも、ユラリアさん。ピーターパン症候群のあなただって、多くの子供達の母親になりたいと望んだのでしょう? あなたの精神は十分大人になっているのではなくて?」
小桜が尋ねる。
「そうだけど、私は少女のまま母親になりたかった……」
「それに……」
「それに?」
「子供達、皆不治の病を抱えていたの……」
「病気だったの?!」
「そう! だからコールドスリープ状態にして未来で治療法が確立されるまで冬眠させるつもりだったの!」
そう言って俯くユラリア。そこにベルサトリが話しかける。
「私はバージニティーを失わないまま母親になりたかったのかも。マリア様のように。だから私は永遠の少女でいたかった。いつまでも夢見るウェンディーのように……」
「だから君は自分の書いた小説の中に逃げ込んだのだね」
「そう……」
「だが、永遠の眠りについている少女達まで、この『想像世界』に引き込んだのは、君の思い上がりだよ」
「そうかもしれない……」
「え?! じゃぁ、この『想像国家』の住人というのは?!」
小桜の質問に答えたのは、黙ってこの遣り取りを聞いていたアルフレッドだった。
「そうだ。この村に住む子供達は、誘拐されてきた少女達。そして彼女達の遊び相手となるべく、ウェンディー母さんが開いていた孤児院の子供達が連れて来られたんだ」
「そうだったんですか」
楓が呟く。
「コールドスリープには莫大な費用がかかる。それを実の親達は払えない。だから君は誘拐という形を取って、子供達を救おうとしたのだな」
「そうです」
皆の間に沈黙が走り、場に
「それよりベル! ミラルが誘拐されたというのは本当なの?!」
「本当だ」
「犯人は甲乙龍之介に間違いないのね?!」
「間違いない。では、やはりミラルが誘拐されたのは鬼子母神の髑髏秘法の為か?」
「間違いないわ」
「でも、何故ミラルなんだ?」
「そ、それは……」
ユラリアが言葉を濁したその時だった。小屋の扉がバタンと勢いよく開かれた。
「母さん! 帰って来た! ティンクが眼鏡掛けた変な奴を連れて帰って来た!」
一人の少年が入るなりそう叫ぶ。
「えっ?! ティンクが?!」
「小桜さん……。まさかとは思うんですが、その変な奴って……」
「恐らくね」
頷き合う小桜と楓だった。
小屋の中に入ってくる妖精ティンカーベルと、眼鏡を掛けた変な奴こと……。
「乃白瑠君!」
小桜がソファーを立ってツカツカと歩み寄る。
「アンタ、今まで何やってたのよっ!」
「いやぁ、僕だけ海に落っこちゃって! 参りましたよぉ! ティンカーベルに助けて貰ったんですけどね。心配しましたぁ?」
「馬鹿をお言い?! 誰があんたなんか、あんたなんか……」
「あれぇ? 小桜さん、もしかして泣いてるんですか?」
ビタン!
乃白瑠の頬に咲いた紅葉が痛々しいね。そんな光景を羨ましげに見つめる楓だった。
そして
「何処?! ピーターは何処?!」
「そうだ! ピーターパンは何処なんですか?! 私会うの楽しみにしてたんですけど」
楓が顔に笑みを咲かせてそう言った。
その時、小屋の中の喧噪に刺激された赤ん坊が泣き始める。
その言葉に、ユラリアが立ち上がってベビーベッドへと足を運ぶ。そして、泣き止まぬ赤ん坊を抱き抱え、あやし始めた。次第に泣き止む赤ん坊。
そして、ユラリアの口から信じられない言葉が飛び出した。
「この赤ちゃんがピーターパンよ」
「!」
第19話 了
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