第18話 森(オラ)の中の髑髏



「どういう事ですか?」


「多分、こういう事よ。童話の『白雪姫』の物語のある解釈によるとね。女王が娘の白雪姫を森に追放したのは、王である父親に襲われそうになった白雪姫を助ける為だったという説があるわ。近親相姦を避ける為にね」


「へぇ……。そんな解釈があるんですか」


「つまり、父親を母親と娘で取り合っている訳よ。楓ちゃん。女王が鏡に向かって尋ねるでしょ。『この世で一番美しい女は誰か』って」


「ええ」


「そうすると鏡は答えるでしょ。『それは白雪姫だ』ってね。その鏡の声の正体は、実は父親である王様なんですって」


「えっ?! そうなんですかっ?!」


「つまり、女王様は、妻である私よりも娘の方が美しいって、夫に言われてしまったから怒ってしまったという解釈も存在するらしいわ」


 小桜の講義の後を継いで、ベルサトリが、ユラリアに話しかける。


「……ユラリア。君がミラルを虐待したのはそのせいか?」


「……そう」


 蚊の鳴くような声を臓腑から絞り出したユラリア。


「それに、ミラルを憎んだのには、もう一つ理由があるの……」


「知っているよ。もう君は二度と子供が産めない体になってしまった。初産だったミラルのせいで」


「知っていたの?!」


「ああ。君の主治医から他言無用という事を条件に教えて貰ったよ」


「私は子供が大勢欲しかった! 鬼子母神のように! でも、ミーシャのせいでその夢は断たれたのよ!」


「君が孤児院を作ったのは、多くの子供を産めなくなったその反動からなのか」


「そう! 孤児院を作って多くの子供を育て、私の書いた物語を聞かせていたの! でも、私だってミラルが可愛い! 愛情と憎悪の中で戦っていた私の心をわかって? だけどこれから美しく成長するだろうミラルを可愛がるレグルスが許せなかった! だからミーシャを守る為に私は夫を見殺しにしてしまったの!」


 そう告白し、大粒の涙を流すユラリアの姿に同情する小桜と楓。


「全部が全部君のせいではない。そう仕向けさせたのは、甲乙龍之介。そうなんだな?」


「何もかもあの男がミラルの家庭教師として、再び私達の前に現れた時から狂ってしまった」


「再び?」


「そう。あれは今から八年前。私が日本の東平とうへい大学に留学中に、私は彼と出会ってしまったの。共通の友人である優城美町の紹介で……」


「じゃぁ、ユラリアさんも『ネオ・インクリングス』に?!」

 

 小桜が問いかける。


「ええ。そう」


「君が甲乙龍之介と以前から面識があった事はわかった。ならば、彼は何故君達親子の前に現れた? 彼の目的は一体何だ? 甲乙龍之介は何をやろうとしている?! この一連の誘拐事件と何の関係がある?!」


「・・・・・・ベル」


「何だい?」


「・・・・・・貴方達も地下室は見たのでしょう?」


 ユラリアのその言葉に、一瞬ベルサトリは躊躇ちゅうちょしたが、


「……ああ。見た……。鬼子母神、つまりカーリーの髑髏どくろ法を行っていたんだな」


「ええ」


「何の為に?! 君は一体何の為に、不貞を犯して甲乙龍之介なんかと!」




第18話 了

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