第16話 オラ(森)の中のウイングマン(飛ぶ鳥人)
新世紀エヴァンゲリオン。言わずと知れたガイナックスの傑作アニメだ。
いきなりの先制攻撃! これは高得点が期待できそうだ。皆の手が挙がる。十五人中十人。つまり十点。かなりの高得点である。
「さぁ、お前達の番だ」
「私行きます! え~と……、そうだ! 手塚治虫先生の『リボンの騎士』!」
「えっ?! 楓ちゃん、あれ見てないの?!」
小桜の驚きの表情。
王女が王国乗っ取りの野望を打ち砕く為に、男装の王子となって悪い大臣一味と戦う話。
「美人の王女が男装の麗人となって王子になる話は、美人だから成立するけど、逆はね……。美男子でもない男が女装したら、お笑い話。シロに化けても、雄が雌に化けても、性分泌腺は取れない! ジャコウ猫の性分泌腺に香水原料に使われる時、雄が出したものか分からない訳がないわ」
「ああ、女装した男性の周囲に、性的な癒し空間なんか出来ないから、嫌われるだけって事ですかね」
「楓ちゃんの言う通り!」
ビシッと一本指建てる小桜さんにビビりまくる!
「衛星放送の再放送見逃しちゃって」
さて、皆はどうか。五人の手が挙がる。
「はぁ、五点ですかぁ」
楓は両肩を落とし、溜め息をつく。
「今度は俺たちの番だな。ニブス! お前が行け!」
「合点だ! じゃぁ、行くぞ! 『風の谷のナウシカ』!」
おっとぅ! これも高得点かぁ?
「十三点だな」
リーダー格の少年が勝ち誇ったかのように鼻を鳴らす。
「編集長! 次は私が行きます!」
小桜が一歩前に出る。
「それじゃぁっと、これは最高得点間違いなしよ!」
小桜は、人差し指を突き上げて、
「『巨人の星』!」
ど~よ! ど~よ! という顔で辺りを見回す小桜だったが、
シ~ン……。
挙がったのは、僅か五人の手のみ。
「どうして?! どうしてよっ!」
狼狽する小桜。
「小桜さん! それより、梶原一騎先生原作のあの名作を見てないんですかっ?!」
「いけないっ?! K-Iは見るけど、野球熱血スポ根アニメだけは生理的にどうしても受け付けないのよ! それより、どうしてあれを皆見てないの?!」
「小桜君。彼らはイギリス人だ。野球よりもサッカーの方が人気があるからだろう」
「あっ! そだったぁ!」
頭を抱えて蹲る小桜だった。
そしてその後は、少年側の攻撃が続く。何れも高得点であった。
敵側の最後に登場したのが、リーダー格の少年だ。
「じゃぁ、俺だな。行くぞ! 『フランダースの犬!』」
おっと~っ! これは決定的かぁ?!
教会に掲げられたルーベンスの絵を見ようとする少年ネロば、自分の愛犬パトラッシュと苦難の人生を歩む話だが、キリスト教で悪魔とされるローマ皇帝ネロとは違う。悪魔の皇帝ネロは、自分の母親とセックスしていた存在だった。
手を挙げたのは、今の所十三人。
「 ~!」
唸る小桜。そしてゆっくりと手を上へ挙げながら、ベルサトリの方を見る。
ベルサトリも挙手する。
「どうだ! これで満点だな」
「へん! まだわからないわよ! 編集長! 出番ですよ!」
小桜が叫ぶ。だが、そのベルサトリが問題だった。彼は職業柄、古今東西殆ど全てのアニメ作品を見ているのだ。じっと考え込むベルサトリ。そして、ついに口を開く。
「『夢戦士ウイングマン』」
「編集長! そんなマニアックなアニメ、ダメですよぉ!」
「やはりダメか……」
静謐《せいひつ』が続く。
だが、小桜の言葉通り、誰も手を挙げないかのように思われた瞬間、一人の手が挙がる。
「……俺は見たぞ」
それは他でもない。リーダー格の少年だった。
「見たのか?!」
「ウイングマン。ピーターパンの翼が欲しかった……」
「そうか……」
「どうして、お前はあの名作を見なかったんだ?」
「海外へ留学していたものでな。オンエアをチェック出来なかったんだ」
「フン。そうか、俺を含めて三人だな。最低点だ」
「そのようだな」
「それでいいのか」
「やむを得ないな」
「わかった。合格だ」
リーダー格の少年の、その意外な言葉にベルサトリ達は
「えっ?! ど、どういう事?!」
小桜が驚きを
「このゲームは、高得点を狙う狙わないに拘わらず真実を言うか。それとも無知をさらけ出すかどうかを試す為のものでもある。あのマニアックなアニメの名を挙げた時点で、お前は他の有名なアニメを大体見ているのだろう事は想像がつく。俺が知りたかったのは
「ああ!」
「じゃぁ!」
楓が喜びの表情を見せる。
「ああ。この国への入国を認めよう」
「やったぁ!」
右腕をグッと天に突き出す小桜。
「それで用件はなんだ。ピーターとウェンディーに何故会いたい?」
「それは……」
「ヤッホー! いい気持ちだぁ!」
乃白瑠を乗せたイルカが、ジャンプしながら岸へとその流線形の体を滑らせて行く。
その上をティンカーベルが、その羽を羽ばたかせて飛行していく。
(あれが、ネバーランドかぁ!)
感慨深げに心で呟く乃白瑠だった。
「御苦労様ぁ!」
「キキーッ!」
ジャンプして喜びを露にするイルカ達の鳴き声がさんざめき、この島の回りを夏色に染め上げていた。岸へと揚がった乃白瑠。
「ティンカーベル。僕と同じように空から降って来た人達がいなかったかい?」
「う~ん……。! そういえば、島の南側に落ちて行ったわよ」
第16話 了
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