第13話 想像鉄道999号




 『想像鉄道999号』は、定刻通りに発車した。終点はアンドロメダではなく、『イーハトーヴォ』。快速ではない。各駅停車の鈍行どんこうだ。

 小桜の制裁で、頭にコブを作った乃白瑠ノベルが、それを摩りながら、辺りを見回す。始発駅という事で、多くの観光客が乗り込んでいる。が、それはただの客ではなかった。乃白瑠ノベル達が座っている車両の全ての客が同じ格好をしているのであった。


「ゲッ! これは、まさか!」


 所々銃痕じゅうこんがあるカーキ色のウェスタン調の帽子に、体をスッポリと覆った同色のマント。そう、これは正しく『銀河鉄道999』の主人公、星野鉄郎のコスプレ集団だった!

 然も、ただの星野鉄郎ではない。肩まで垂れた長髪。


「ゲッ! これも、まさか!」


 その予想を確かめるべく、乃白瑠は通路を挟んで反対側の座席に座るそのコスプレ客に尋ねると、その客は、


「ぼっくは、死にまっしぇん!」


 そう、三昔も前に放映された『101回目のプロポーズ』の主人公、星野達郎よろしく、そう叫んだのだ! 星野鉄郎+星野達郎(武田鉄矢)のコスプレ集団!

 そして、誰からともなく、歌が始まる。


 汽車は闇を抜けて 光の海へ・・・・・・。


 佐々木 功さんが歌ってる!


 大合唱が銀河までの果てまで届けとばかりに、馬鹿ばかり!

 乃白瑠もかえでもつられて歌い出す!

 呆れてものも言えない小桜に、一人、車窓しゃそうを眺めるベルサトリ。

 そこに車掌がパスポートの検札けんさつに現れ、順に調べて行く。


「すみません。パスポートを拝見はいけん……」


「うわぁ! 肝付きもつき兼太かねたさんの声だぁ!」


 ワクワクして自分達の番を待つ楓。さては透明人間の車掌さんの登場かぁ?!

 漸く番が来て、「お願いします!」と、振り向く楓の目に飛び込んだのは!


 ゲロゲロゲロ!


 人造人間キャシャーンでもなく!


 人造人間20号!


 キャシャーンがやらねば誰がやる!


 レジ打ちキャッシャーがやらねば誰がやる?!


 スローモーなオラオラチャンリンコ、蟹股がにまた乗りで、レジ打ち鈍いキャッシャーを倒さねば誰がやる!


 客が入って欲しいオーナーと、客が多いと対応出来ないキャッシャーが、一番でかいコンビニにはいるな!


 透明の車掌しゃしょうではない。帽子だけを被り、皮膚が透けて内臓が見えている車掌だった!


「○※●#☆ッッッ!  ~ん・・・・・・!」


 楓は気絶、あー気絶!


「しっかり! しっかりするんだ、楓さん!」


 そして、次に楓が目を覚ましたのは、「起きて! 楓さん!」という乃白瑠の声だった。


「う~ん。何ですかぁ、乃白瑠さん・・・・・・」


 と、起きた楓が目を擦りながらそう言う。


「見て見て! あれが建設途中の僕の小説、『葬儀屋ランちゃん』のコロニーだよ!」


「えっ?! 何処? 何処ですか?!」と、楓が窓を急いで覗き込む。


「ほら! あれだよ! 車掌さんが教えてくれたんだ!」


 楓は見たくなかったが、前方に目を遣ると、車掌がニッコリと微笑んで帽子を取った。

 透き通った体同様、心の中も澄んでいて、中々いい人そうだと、楓は微笑み返す。

 プロ・アマを問わず、小説家が書いた小説の世界、『想像国家』のコロニーは、次々と建設されている。因に言うと、その工事の進行状況は、勿論、小説家の筆の速さに関係するのは言う迄もない。


「あれが、乃白瑠さんの書いた小説、『葬儀屋ランちゃん』ですかぁ!」


「何よ、乃白瑠君。最新作出来たの? 私よりも先に楓ちゃんに見せた訳ね。ふ~ん」


 少し楓に焼き餅を焼く小桜だった。


「で、どんな小説よ」


 その小桜の言葉に答えたのは楓の方だ。


「私が説明します! え~と、粗筋はですねぇ……」


 楓が、意気揚々いきようようと『葬儀屋ランちゃん』の粗筋を説明しだす。



 《世界観》


 将軍ベベルゥ=モードにより、朝廷に大政が奉還、『御洒落おしゃれ』諸法度《しょはっと』が廃止され、幕府が崩壊してから15年。実は正真正銘の救世主であった将軍ベベルゥ=モードが光神として天で即位してからも、世界は、地獄門解放により、地獄業魔界から溢れ出した魔族どもが世界を闊歩していた。

世界は千々ちぢに乱れ、戦国乱世の様相を呈していた。それを裏で操っていたのは、曾て世界の闇を支配していた魔王の息子であった。




 《キャラクター設定》


 主人公-蘭  陰陽道の総帥で、3姉妹の末娘。父の死によりその名跡を継ぎ、

        家業の葬儀屋の社長に就任する。


 コォ=ガ   魔王を倒そうとしている勇者。


 是空     マゾで筋肉ムキムキマッチョの僧侶。蘭の経営する葬儀屋で仏 

        教徒の担当。

 

ベルフィーユ=プリエ


        通称ベル。シスター。泣く子も黙る女王様。キリスト教徒の担当。


キーボー    踊り狂うラッパーの少年。原始宗教(アミニズム)の担当。


アイ=レン   魔王の孫息子。



《粗筋》


 蘭は、今は小さな葬儀社『ゆりかご』の美少女社長。ライバル、陰陽道を牛耳る一族の経営する葬儀社に仕事を奪われ、暇な毎日が続いていた。

 来る依頼と言えば、魔王の城に乗り込んだもののパーティーは全滅、一文無しになったコォ=ガという勇者の仲間を弔う依頼のみ。

 そこに信じられない依頼が舞い込む。それは、勇者に倒されるモンスター達の葬式を出して欲しいという依頼であった。然も、前金で巨額の報酬を支払うという。その依頼者とは、アイ=レンという若者からであった。

 その若者に一目惚れをした上、お金に目がない蘭は、一も二もなくその依頼に飛びつく。 そんなこんなで、魔王に復讐を誓う勇者の後を追い、彼の倒すモンスター達のお葬式をげる蘭達。

 勇者よりも強いんじゃないかと思える程の、蘭、そして、葬儀社『ゆりかご』の社員、是空ぜくう、ベル、キーボーの一行は、様々な闘いを繰り広げながら、魔王の城を目指す。

 そして、とうとう魔王の城に到着するコォ=ガと蘭達。

 だが、とうの魔王は先のコォ=ガとの闘いの傷が悪化し、死亡していた。

 そこに現れた新たなる魔王。それは、葬儀社『ゆりかご』にモンスター達の葬式の依頼をした本人、アイ=レンその人だった。

 多くのモンスター達を束ねる魔王として、心ならずも勇者コォ=ガと対決するアイ=レン……。



第十三話 了

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