第12話 釜飯とイカ飯はどちらが旨いか?
乃白瑠達は、『想像鉄道』の発車駅に向かった。
閻魔王庁のあるこの地獄城は、『想像世界』の入り口だけあって、様々な人種の魂が集まる場所である。閻魔王庁で閻魔大王に裁かれた魂は、『想像鉄道』を利用して、それぞれ行きたい小説の世界、『想像国家』へと旅立つ事になる。
だが人気の高い小説世界への移住は難しく、そこで様々な審査、そして試験によって選抜される事になる。
また、定住せずに、様々な小説世界を渡り歩く人々もおり、彼らは『フーテン』と呼ばれている。勿論、日本の国民的映画の主人公のニックネームから名付けられた名前だ。
定住している人々でも、観光目的で別の『想像国家』へ訪れる事もある。
そんな観光客が、添乗員を先頭に、乃白瑠達の脇を通り過ぎて行く。
「へぇ! わぁ! すごぉい!」
見る物全てに感嘆の声をあげる楓。
機関車トーマスよろしく、『999《サンキュー》号』機関車の先頭部分には、『想象』のように顔が着いている。
「ありがとうございます」
その顔が、客が乗車する度にお礼を言っている。
「乃白瑠君。私達先に行ってるから、駅弁買ってきて」
「はい、小桜さん」
「おばちゃん! え~と……、釜飯とイカ飯を四個ずつ頂戴!」
「釜飯はイカ飯はもうないんだ! 業かな竹の箸を使った北海道産のシャケ弁当はぎょうさんあるよ!」
乃白瑠はお金を渡し、キオスクで駅弁を買い込んでいる。と、その時だった。
「!」
反対側のホームで、人込みの中にある人物の横顔を認めた。
(ま、まさか、あの人は!)
乃白瑠は突然走り出す。
「ちょっと! アンタ! 待ちなさいってば!」
おばちゃんの制止を振り切り、乃白瑠は階段を降り、隣のホームへ。
「ハァ! ハァ! ハァ!」
坊主頭に丸顔。中肉中背を学生服で包み、朴訥な性格が滲む田舎臭い青年……。
(先生! 先生! 先生!)
必死に心の中で叫ぶ乃白瑠。
乃白瑠は、隣のホームへの階段を駆け上がる。ホームを見回す乃白瑠。だがいない。
丁度、けたたましいベルが鳴り響き、停車していた汽車が発車の合図を告げる。
扉が閉まる。
乃白瑠は、ゆっくりと動き出す汽車の窓を外側から次々覗き込んでいく。誰かの姿を探すように。だが、見つける事が出来ない。汽車は徐々にスピードを上げ、乃白瑠はホームの一番端に辿り着く。汽車の最後尾を見つめる乃白瑠の額からの流汗淋漓……。
「宮沢賢治先生……」
と、乃白瑠が乗るべき汽車のホームから、もうじき発車するとのアナウンスが流れる。
「アッ! いけね!」
乃白瑠は慌てて隣のホームへと戻り、発車間際に汽車に飛び乗った。閉まる扉。
「遅い! 乃白瑠君! 早く駅弁頂戴よ! こちとらお腹が減って仕様が無いんだから!」
「お弁当?! アッ!」
窓の外でおばちゃんが叫んでいる。
この後、乃白瑠が小桜に袋だたきにあった事は言うまでもない……。
第十二話 了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます