第11話 羅王と羅王尼
「よし! 少しは合格だ」
「はい!」
皆が一斉に拍手をする。
そこに、春王様の双子の妹、秋王さんが書類の束を持って現れる。
「仕事をほったらかして何やってるんですか! ……あっ! 乃白瑠様! いらしてたんですかっ?!」
「仕事なんぞ、今日は止めじゃ! 乃白瑠が来ているのだ。皆の者! 大宴会を開くぞ!」
「おぉっ!」
そこで、ベルサトリが羅王様の前に歩を進める。
「羅王様。今回我々が此処へ来たのは……」
「わかっている。今のは冗談じゃ。
「あ、はい!」
羅王尼王さんがベルサトリにレポート用紙を渡す。
「これが、ユラリア=セランヌに関する調査報告書です」
「羅王様。よく我々が来た訳がわかりましたね」
「私は、お前の事をいつも見守っているからな。わからいでか!」
ベルサトリが捲る調査報告書に小桜も覗き込む。
「ユラリアとやらはこの閻魔王庁に度々来ていたようだな」
「じゃぁ、やっぱりユラリアさんは、此処で僕たちが梶瓦と戦っていた様子を見ていた可能性がある訳ですね」
「そうだな。
羅王様の言葉を受けて、ベルサトリが訊く。
「羅王様。それで彼女は一人でやって来たのですか?」
それに答えたのは羅王尼さんだ。
「それも調べておきました」
一週間前のユラリア。そこには、仮面を被った男が一緒に映っていた。
「!」
「編集長! 仮面を被っていますが、これってもしかして!」
「ああ。甲乙龍之介の可能性が大だな」
小桜の顔色が変わる。
「ユラリアさんは此処でそれを見た後『現実世界』に戻り、優城美町先生の小説『誘拐犯』にその様子を書き込んだ……」
「それにしても、ユラリさんは何故『誘拐犯』にあんな書き込みをしたんでしょう」
乃白瑠が小首を傾げる。
「わからん。そして、その後、何かがあり、再び『想像世界』に訪れたものの、帰って来れなくなった……」
「そう考えるのが妥当ですね」
小桜が頷く。
「何があったというんだ……」
ベルサトリが腕組みをして考え込んだ。
「それについて考えても仕様がない。それは彼女に直接聞けばいい。問題は、今彼女が何処にいるかだ」
静謐。その言葉が相応しい程の沈黙がこのフロアを襲う。誰もが口を開こうとしない。
「編集長」
「なんだね?」
「言いにくい事なんですけど、見られたくない姿をミラルちゃんに目撃されて、ユラリアさんは昏睡状態に陥ってしまったんじゃないでしょうか。そして、その時のショックで、ミラルちゃんも失語症になってしまった……」
「そうかもしれん。それより、今は一刻もはやくユラリアを探すしかない。ミラルの誘拐について、知っているのは彼女だけなのだ」
ベルサトリは、調査報告書を隅々まで目を通す。だが、
「行く先は不明?」
顔を上げるベルトリー。
「ええ。『想像鉄道999《サンキュー》号』に乗ったところの目撃情報はあるのですが……」
秋王さんの声音は沈痛だ。そこに、またも楓が口を挟む。
「度々口を出して申し訳ないんですけど、此処ではではわからないんですか?」
「残念ながらな。此処は生者の監視を目的としている。ダイブしてきた魂、そして死んで からは、地獄行きの魂は別にしても、『善化想像国家』行きの魂はそのプライバシーが尊重されるからな。信用しているのだ」
羅王様が楓に言う。そして、その言葉を受けて、ベルサトリが、
「なら、我々も『想像鉄道』に乗るしかないな」
「わぁ! 私達、あれに乗れるんですか?!」
「でも編集長。行き先はどうするんです? 恐らくはユラリアさんの机の鍵の掛かった引き出しの中にある筈の書きかけの小説の世界にいるんだろうけど……」
「そこだな、問題は……」
(考えるんだ、ベルサトリ。彼女が一番行きたい小説とは何か……。トールキン先生の『指輪物語』だろうか。C・S・ルイスの『ナルニア国ものがたり』? いや、違う。それとも、エリナ・ファージョンの『リンゴ畑のマーティン・ピピン』か……。ウェンディー。君は今何処にいるんだ……。ユラリア……。彼女が一番始めに読んだ小説?)
「ハッ! そうか! わかったぞ!」
ベルサトリのその言葉を聞いて、ニヤリと笑う羅王。
「秋王。パスポートを用意してやれ。四人分な」
「はい!」
「それと、ベルサトリ。優城美町が想像主の『誘拐犯』から逃亡した梶瓦な」
「はい」
羅王様はベルサトリに耳打ちする。
「そうですか。それと、調べて頂きたい事があるのですが・・・・・・」
「なんじゃ?」
「梶瓦の役をやっているのは誰か……」
「わかった」
それを聞いたベルサトリの切れ長の双眸に光が灯る。
第十一話 了
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