「ほんと、いつもの通りがいいよね」


「お、おはよ〜。優良ちゃん」


あ。少し声が上ずってしまったかもしれない。なんて思ったのも杞憂で優良ちゃんはいつものように顔を合わせていつもの笑顔で「おはよーございます!」と応えてくれた。


いつも通りじゃないのは俺の方。


あぁ、ダメだな。俺って。


「今日は早いね〜」


「クラスが早く終わったのでセンパイを迎えに行こうと思ったんですけど、クラスがわからなくて…」


「栄一くんなら確か──」


栄一くんのクラスを教えようと口を開いた瞬間、俺の頭に手刀が振り下ろされる。あまりの勢いで俺は思わず「べぶっ」なんて変な声を上げてしまった。


手刀をした本人は見るまでもなかった。


「痛いよ、栄一くんッッ!」


「センパイッ!!!」


俺の後ろには呆れた表情を浮かべる栄一くん。


「個人情報です」


「ごめんごめんって」


「全く…」


「結城さんが授業中に来たりしたらどうするんですか」なんて続ける。しかしこの後スケッチブックに書いてあった学年、組、出席番号の(栄一くん曰く個人情報)がバレて案の定、授業中にやって来たりするのはまた別の話。


「栄一くん、今日は何するの?」


「それを知っているのは本来清水部長なんですよ」


「あっれ〜? そうだっけ?」


「そうなんです」


栄一くんは「はぁ」とため息を吐くと恐らく顧問から貰ってきたであろう部活動表を俺に差し出してくれた。こうしてなんだかんだ言いながらもやってくれる栄一くんに俺はかなり甘えてしまっている。


直そうとは思っているがこれが中々直らない。もう直さなくてもいいんじゃないか? と思ってしまっている次第である。


そんな俺らのコントのような会話を聞いていた優良ちゃんが頭を傾げて口を開いた。


「なんで部長は部長をしているんですか?」


「面白いと思ったから!」


俺はその質問に即答で答える。


「なんて理由…っ!」


「えぇ。僕もそう思います」


「も〜! 2人して酷いなぁ! ほらほら、部活するよ〜」


なんて部長らしい事を言いながら俺はいつもの部長席にドカッ、と座る。そして部活動表を確認する。


えぇっと…、最初はデッサン…。部員がモデルになるあの地獄のやつか…。一年にはデッサンに集中してほしいから、二三年生メインで…俺の番が来る前にさっさと切り上げて…。それから春のコンテストに向けての準備…。あー…、もうそんな時期か。時が経つのはやっ。


「栄一くん」


「なんでしょう」


俺はいつの間にか隣に座っていた栄一くんに部活動表から目を離さずに話しかける。


「俺、歳かもしれない」


「あなた、まだ10代でしょう」



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