「ほんと、違うから!!」
「…………まじか」
恋を自覚しました。
「いや…、でも相手は“あの”優良ちゃんだし…。初対面で好きになるとかナイナイ」
そう自分を納得させてベッドへダイブする。優しく布団が俺を包み込んでくれる。
そんな温かい雰囲気の中、俺はゆっくりと目を閉じた。
もう風呂には入った。歯も磨いた。髪の毛も梳かしたし、やる事は終わっている。
否、終わっていなかった。
危うく寝そうになっていた体をガバッ、と起こして俺は勉強机へと向かう。
今日、家に帰ってきたらお母さんが「大学の資料、机に置いておいたから」と言っていたのだ。
………………最も。どんな大学の資料なのかは分かりきっているが。
「うわ」
目に入る大学の資料。その全部が美術大学のものである。
これら全ては俺が請求したものではなく、お母さんが勝手に請求したものだ。俺の資料請求したものは勉強机の下にある棚に隠してある。
「………………」
明らか嫌そうな顔をしながら俺は美術大学の資料を手に取り、一応中身を見る。
といっても見るだけである。全く頭には入れない。というか入ってこない。
お母さんは俺の絵の才能を買って美術大学に進学させたい、応援したいと思っているのは知っている。それが美術大学に行きたい人にとってどんなに羨ましい事かも知っている。
しかし自分の絵に愛着が持てないまま、美術大学に入学してその先に何が待っているのだろうか。
否、何も待っていないだろう。
周りには絵に愛着を持って接している同級生。それに対して自分は全く愛着を持てないまま絵を描き続ける。
こう言っては失礼かもしれないが地獄である。
「……………俺は…」
そう呟いて屈み、机の下に隠して置いた大学の資料を取り出す。
一年生の時にこっそりと取り寄せた資料だ。
名前だけでなく名実ともに超有名大学。
偏差値と教師陣のレベルの高さは国内でも上位だろう。そして全学部が平均して75という高さである。
俺の行きたい学部は“理学部の宇宙科学学科”。偏差値は85ぐらいである。到底今の俺じゃ手が届かない。
───それでも
俺は宇宙科学学科のページを見つめる。宇宙科学学科のページは見すぎてページの端が折れていたり、少し破れていたりしている。
───それでも俺はここに行きたい
ギュッ、と手に力を込める。
そうだ。
だから、恋にうつつを抜かしている場合ではない。
「というか恋してないし!」
俺はそう言って頭をブンブンと振り、勉強をし始めたのだった。
そう。
清水 梓は決して恋など。
───そんな事などしていない
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