「ほんと、不意打ちだよね」


「…………………凄い」


十分後、優良ちゃんが最初に言葉にしたのはそれだった。

俺の描いたイチゴが描かれているスケッチブックをまじまじと見ながらそう呟いたのだった。


「まぁこんな出来でごめんねっ」


「一体何したんですか。魔法ですか」


「せめて疑問形で聞こうよ〜」


真顔でそう聞いてくる優良ちゃんに俺は思わずツッコミを入れてしまう。しかし未だに短時間で本物そっくりに模写したのが受け入れられない(というか信じられていない)優良ちゃんに栄一くんが話しかける。


「清水部長は基本短時間で絵を描き終えてしまいます」


「えっ!」


「しかもその全てのクオリティの高さは金賞を取るほどです」


「え!」


「僕も清水部長のは尊敬しています」


「待て待て待て。栄一くん、“そういう所”だけ強調しないでもらえるかな?!“全部尊敬しています”ぐらい言おうよ!」


俺がそう言うとチラリ、とこちらを向いて栄一くんは小さくため息を吐いた。


「すみません。僕、嘘は付けないものでして」


「今俺、すっごい心傷ついたよ…っ!」


そう言いながら胸を抑える仕草をすると優良ちゃんがスケッチブックを机に置き、小さく頭を下げてきた。


「すみません。私、部長さんの実力を見誤っていました」


「ちょっ、優良ちゃん…。そういうのいいって!」


俺がそう言うと優良ちゃんは頭を上げた。


「部長さんが絵を描かないのはド下手くそだからかと思っていました」


「あれ? サラッと失礼な事言われた…?」


「でも本当は違かったんですね」


「隠していたつもりはないんだけどね」


俺がそう言って笑うと次に優良ちゃんが首を傾げてこう聞いてきた。


「でもなんでこんなに上手なのに絵を描かないんですか?」


「あー…、それは…。まぁ…色々と、ね」


絵を描かない理由を聞かれ、俺ははぐらかした。


俺の絵に対する気持ちなんて誰が聞いても面白くないし、きっと聞く人によれば胸糞が悪くなるだろう。


俺はまた聞かれる事を恐れて笑顔で優良ちゃんに再度挨拶をする。


「ま〜、何はともあれ、よろしくね。優良ちゃん♪」


「はい、よろしくお願いします。清水部長!」


───“清水部長”


確かにそう言ってニコッ、と笑った優良ちゃん。そんな優良ちゃんを見て俺の心臓は少し鼓動を早めた。


───あれ?


「優良ちゃんの絵も今度見せてよ」


───あれ? あれあれ?


「分かりました! その代わり、また清水部長の絵も見せてください!」


───待って


「もちろんだよ〜! 今度は何にしようね〜?」


───嘘だろ?


「今度こそキャベツで!」


「結城さん、キャベツは部室にありませんよ」


「それじゃ買ってきます!」


「いいじゃん! 終わったらマヨネーズ付けて食べようよ!」


───え?


「いいですね! それ!」


───俺、恋しちゃった?



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