「ほんと、メンクイじゃないんだけどなぁ」
「というか私にばっかり“スケッチしろ”って言う割にはそっちの部長さんもしてませんよ!」
そう言ってじっ、と優良ちゃんに見つめられる。
───あ
彼女の表情は怪訝なものだったが、それでも美しい、と思ってしまった。
パッチリとした目に毛量の多いまつ毛。少し色付いた唇。すっ、と通った高い鼻。
同学年よりも遥かに美しいその顔。
別段メンクイでもない俺でも思わず見とれてしまった。
「清水部長?」
そんな少し心配の色を含んだ栄一くんの声にハッ、と我に返る。
「ごめん、なんだっけ?」
「部長さんもスケッチしたら私もするって話です」
優良ちゃんはそう言って俺にスケッチブックを差し出した。まだ新品のそのスケッチブックは恐らく優良ちゃんのものだろう。
「えぇ…、俺今日は描く気ないんだけどなぁ…」
と、少し遠回しに断ると栄一くんが冷たい目線を送ってきた。
「早く描いてください」と言わんばかりのその視線に俺は根負けしてしまい、優良ちゃんのスケッチブックを受け取る。パラパラ、と捲ってみるとやはり真っ白で何も描かれていない。
「優良ちゃん、コレ新品だけど俺が先に描いていいの?」
「別に構いませんよ」
「それなら…」
そう言って俺は美術部に置きっぱなしの筆箱から鉛筆と消しゴムを取り出す。専門学校とかだと木炭とパンで絵を描くようだが、生憎ここには木炭はないし、パンは消す事に使うなら食べたい。
「何を描けばいい?」
そう聞くと優良ちゃんは間髪入れにこう答えた。
「野菜で。それもキャベツでお願いします」
「いいけど…、なんでキャベツ?」
「デッサンが難しそうなので」
なるほど。俺の力量を見る、って事か…。
なんて優良ちゃんの目的を予想しながら俺は栄一くんに準備室にキャベツの食品サンプルがあるかどうかを聞く。
「キャベツの食サンあったっけ?」
「キャベツはなかったと思いますよ」
「それじゃある中で一番難しいものでお願いします」
そう言う優良ちゃんの要望通り、俺はしぶしぶ準備室へ行き、難しそうな食品サンプルを片っ端から持ってきた。
「はい、この中から選んでね〜」
俺が持ってきた食品サンプルを優良ちゃんは一つ一つ見ていく。
王道のリンゴからイチゴ、ブドウ、レモンにオレンジ。クロワッサンやドーナッツ。100円ショップで買い揃えられる食品サンプルは大抵ここにある。
その中から優良ちゃんが選んだのはイチゴだった。
「それじゃ、イチゴで」
「イチゴか〜。一番難しそうなの選んだでしょ〜」
「当たり前です」
そう言う優良ちゃんからイチゴを受け取り、俺は軽く全体を見る。そして俺は口を開いた。
「ん。これなら十分もあれば描けるね♪」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます