94 夏がまた終わる。
夏休みの終わり。
宿題も終えた私は、その最後の日にしゅうくんと二人で隣町にある海辺に来ていた。
「あー、なんか潮風が気持ちいいなあ」
「でも、人も少ないね。夏も終わりだね」
「また運動会に文化祭に忙しい二学期が始まるね」
「うん、楽しみ」
私の人生で最も楽しい夏休みは去年だったと思っていたが、今年もまた過去最高を更新した。
宿題地獄や、後輩との恐怖の海というイベントもあったけど、それでも夏祭りでしゅうくんと過ごしたあの時間は、一生忘れることはないだろう。
「でも、来年は受験かあ。早いよね」
「私、自信ない……浪人になったらどうしよう」
「大丈夫だよ。成績も伸びてるし、このまま勉強したら大丈夫。円はなんだって克服してきたじゃん」
私は過去にいじめられて、まず自分の容姿を変えた。
整形とかではなく、頑張って痩せて、おしゃれを勉強して必死で綺麗になった。
そして勉強も、全くできないところから一応赤点を気にせずに済むレベルにはなった。
さらに言えば友達ゼロだった私が、みんなでバーベキューをしたりカラオケに言ったりするようなことまでするようになった。
でも、それもこれも全部、しゅうくんのおかげだ。
「しゅうくんがいたから、だよ」
「そんな大げさだよ。円が頑張ってたんだって」
「でも、しゅうくんがいないと私、頑張れない」
「じゃあずっと頑張れるね。俺はずっと円の傍にいるから」
「うん」
たまにはこうして、何もせずにボーっと二人で過ごすのも悪くない。
海でこうやってまったりするのもいい。
そう思っていたのだけど。
「あー、まどかじゃん!なにしてんの?」
「あいちゃんに亜美さん?え、どうして」
「いやー夏休み最後だから海で黄昏れようかなってね。亜美がちょうどさっき男にフラれたから傷心会も兼ねて」
「フラれてない。私がフッたのよ」
今日はこの後、二人で浜辺を散歩して夕方になったらロマンティックに夕陽を背にキスなんかしてと、勝手な妄想を繰り広げていたがどうやら私には似合わないようで。
「おーい泉ー!何やってんだよみんなで」
「羽田?お前こそどうして」
「いやあ香が海に連れてけってうるさくてさ。なあ」
「私はそんなにねだってないわよ」
香ちゃんと羽田君もいた。
なんだ、みんな結局暇なんだ。
「あはは、みんな集合しちゃったね」
「だね。円が引き寄せたのかな」
「だと、いいな。うん、みんなでどっかいこ」
結局八月最後の一日は、みんなでカラオケにいったりボウリングしたりと、騒ぎまくって楽しく過ぎていった。
♥
帰り道。
騒ぎすぎてクタクタになった私はしゅうくんの自転車の後ろに乗せてもらって、二人乗りで家まで送ってもらっているところ。
「楽しかったね。なんか、予定とは違ったけど」
「うん。でも体力つけないともたないよ……」
「あはは、でもボウリングうまくなったよね。最初の時なんてひどかったし」
「あー、それ言わないで。私、気にしてるんだもん」
彼の背中にギュッとしがみついたまま、私たちは楽しくお喋りをしていると、夕陽に赤く照らされた川沿いの道に来たところで彼が自転車を止める。
「どうしたの?」
「いや、ここって……」
ふと見たその場所は、私が初めてしゅうくんと出会った場所だった。
「ここで、円が泣いてたんだよね」
「うん。あの時、酷いことされてここで一人泣いてたらしゅうくんが声かけてくれて」
「ちょっと降りてみる?」
「そうだね」
二人で近くの階段を降りて、川沿いまで。
そしてちょうど私が泣いていたその場所に着くと。
「ここで円に声かけてよかった」
「私も。いじめられてたからしゅうくんに見つけてもらえたんだとしたら、これまでの自分も好きになれるかも」
「でも、そんなことがなくても俺は円を好きになったと思うよ。きっと同じ学校に通って、どこかで俺が惚れて勝手にアピールして。どうなっても円の隣にいたいって思ってるはずだよ」
「私も。だけど今思い出したらいじめられたり痴漢されたり、そんなことでしかしゅうくんの気をひけてない自分がやっぱり情けないなあ」
「そんなことは二度とないよ。だって、俺が守るから」
「うん。守ってもらうもん」
夕陽で朱く染まる川を見ながら、二人で肩を寄せ合ってその場に座る。
そして夏の終わりを告げるように静かに響く虫の鳴き声を聞きながら。
私たちはぎゅっと手を握ってその場を動かなかった。
きっと、この先もずっと。
この場所で彼と出会って、彼とまたこうして振り返った日のことを忘れないだろう。
毎日が過去最高の一日だって、そう思いながら過ごす彼との日々は。
ずっと続いていく。
~お知らせ~
次回、最終回となります。
最後まで氷南円の活躍を応援いただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
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