最終話 君と二人で

「まどかー、こっちこっち!」

「あいちゃん待ってよー」


 あの夏休みからもう半年ちょっと。


 私たちは高校三年生になりました。

 

 文化祭は、一年生の時みたいに劇をすることはなく、一応文化部としてのしおりを販売してたのだけどほとんどは食べ歩いて遊んですごした。


 運動会の時は、しゅうくんと手を繋いで一緒に走ったし、香ちゃんやあいちゃんと女子騎馬戦というものをやったのだけど、上に乗った私は瞬殺されて二人にすごく怒られたり。


 そんな楽しい時間はあっという間で、クリスマスだってすごく盛り上がった。


 今年もみんなでパーティーして、イブの日にはしゅうくんと二人で……きゃっ!


 でもでも、お正月はちょっとトラブルも。


 初詣の人混みで私が迷子になるという事件が。

 それに携帯の電源も切れてどうしたらいいかわからず神様の前でわんわんと泣いてしまった高校二年生は全国広しといえどまあ珍しいと。


 その話は秘密にしておきたかったのに、亜美さんに偶然見られていて香ちゃんたちに新学期に相当なまでにいじられたのは苦い思い出かな。


 そして学年末テスト。

 私は頑張った。徹夜で、栄養ドリンクを飲みまくって必死に食らいついて、なんとクラスの平均点越えを果たしたのだ。


 その甲斐あってかどうかはわからないけど、三年生になった今、しゅうくんや香ちゃん、あいちゃんに亜美さん、あと羽田君も一緒のクラスになったのだ。


「まどか、最後にみんなで一緒のクラスとかめっちゃ運いいよね私たち」

「だね。すっごく楽しみ」


 そう。楽しみな一年間が始まる。

 それはいいのだけど。


「せんぱーい、進級おめでとうございますー」

「り、律子ちゃん?」

「お祝いにきましたー」


 私にはめんどくさい後輩がいる。

 彼女は去年の夏休み以来、なぜか私リスペクト全開で、事あるごとに私に絡んでくるように。


 いや、絡んでくるのは今も昔も変わらない。

 ただ、いじめっ子時代の彼女よりも今の方が案外苦手かも……


「せんぱいせんぱい、今度おうちで勉強教えてくださいねー」

「あ、うん。まあそのうち」

「いつですか?今日?明日?あ、私はいつでもいいんで」

「……」


 この図々しさを、私に少しだけでも分けてほしい。

 

 それにどうして急に私に好意的になったのかと聞いたところ。


「その方がおもしろいし」


 だそうです。


 ……意味わかんない!


 最終的にはあいちゃんが追い払ってくれたのだけど、しつこい律子ちゃんはまたやってくる。


 可愛い後輩だけど、やっぱりめんどくさい。

 ちょっぴり、とかではなくしっかり。


 だから私は。


「あーん、しゅうくーん」


 彼氏に甘える。


「どうしたの?」

「律子ちゃんがしつこいよー」

「いつものことじゃん。それにしてもなつかれてるなあ」

「私やっぱりあの子苦手……」

「あはは、確かに合わない感じするよ。でも、それだけ円が魅力的ってことでいいんじゃないかな?」

「しゅうくん……しゅうくーん!」


 公私ともにいつもこんな私は、最高学年になった今もやってることは大して変わらない。


 いや、昔と比べたら随分とよく喋るようになったというか、根暗じゃなくなったというか。

 でも、元々はお喋り大好きなので、やっと素の自分が出せているような気がする。


「二人とも、学校でいちゃつくな」

「香ちゃんだって、この前屋上で羽田君とイチャイチャしてたじゃん」

「あ、あんた見てたの!?」

「あ……み、みてないよ?」

「嘘つけ!こらー」

「ひー」


 香ちゃんと羽田君は順調そのもの。

 二人とも勉強できるから、一緒の国立大学に行くんだとか。


 しかも、大学では同棲するらしくて、もう既に両親の許可ももらったんだとか。


 すごすぎてわけわかんないけど、でも羨ましい。


「うまやらしいなあ」

「まどか、噛んでるよ」

「だってー、私もしゅうくんとずっと一緒がいいもんー」

「あんたはその前に勉強よ。浪人したらそれどころじゃないんだし」

「はーい」


 二人の幸せを羨んでいる私だけど、もちろん私だって幸せいっぱいではある。

 しゅうくんやみんなとの毎日が楽しくて仕方ない。


「あいちゃん、今日はどうするの?」

「んー、カラオケ行こうよ。バイト、明日でしょ?」

「うん、行こう行こう」


 あいちゃんは相変わらずフラフラと。

 相手が見つからないそうだが、理由は結構単純で。


 理想が高い。


 ここまで来たら理想の男を見つけるまで誰とも付き合わねえと豪語して、去年も何人かの男子から告白されたのを全部断ったんだとか。


 逆に亜美さんはフットワークが軽い。

 新学期早々に仲良くなった男の子と、今日早速デートなんだとか。


「あ、そうだ。放課後ちょっと先生に呼ばれてたんだった。先に泉君と二人で遊んでてよ」

「そっか。あいちゃん生徒会長さんだもんね」

「あはは、なんでこうなったかねえ」


 そう。あいちゃんはなんと生徒会長になったのだ。

 とはいってもそんなにやることが多いわけでもないそうだけど、学校行事をより楽しくするために頑張るんだーっていつも張り切っている。


 みんな変わっていくようで、でもあまり変わらない。

 変わってほしくないものはそのままに、だけど変わらないといけないことはどんどん変化していく。


 そんな学校生活の最後の一年が、今日から始まった。



「はあ、早速勉強疲れた……」

「基本は一緒だからなんとかなるって。それより、原さんがくるまで何する?」

「うーん、何か食べたい」

「あはは、そう言うと思ったよ」


 結局高校生のデートや遊びなんて、カラオケしたり買い食いしたりそんな程度。

 でも、そんな単純な毎日がどうしてここまで楽しくて愛おしいのか。

 

 それはきっと。


「でも、そんな円もかわいいね」

「……しゅうくん、優しいから大好き」

「円が人に優しいから、だから俺もみんなも優しくあれるんだよ」

「違う。みんなが、しゅうくんが優しいから、私も人に優しくできるんだよ」


 こんなに素敵な彼が隣にいるからだ。

 彼とならどこでもきっと。いつまででもずっと。


「よし、それじゃハンバーガーでも買ってからカラオケ行こうか」

「私、ポテトも!」

「うん。あ、急がないと案外時間ないよ」

「やだー。ポテトたべるー」

「よーし、行こう」

「あはは、待って待って!」


 私と彼の物語はきっとまだ始まったばかり。

 これからも私の至らなさでたくさん迷惑をかけるだろうし、私は勝手にたくさん心配になって、困らせたりもするのだろう。


 ただ、何一つ予想も勘も当たらない私でも、これだけははっきりわかる。


 ずっと、泉秀一くんと歩む日々は続いていく。


 おわり。




あとがき



 ここまで氷南円の物語を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。


 書き始めた時はどこまで行くのかと思っていましたが、気が付けば三カ月以上にわたる連載、そして自身最長となる話数の長編となりました。


 それぞれの目線からスタートするという入り方や、主に女子パートがメインという書き方は初めてで、それでも途中から円の愛らしさに惹かれて私自身もどんどん彼女の物語を見るのが楽しくなっていました。


 ただ、始まりがあれば終わりがある。

 この物語と離れるのは少し寂しいですが、これからも彼女たちのような素敵な出会いがありますようにと、新たな物語を書いていきたいと思います。


 たくさんのコメントやレビューなど、評価をいただきました皆様、いつも私の原動力にさせていただいております。


 ここからは年末のカクヨムコンに向けての執筆と連載を並行するので今以上に忙しくなりますが、そんな中で皆様の応援が私を前に突き動かしてくれています。


 これからも、応援のほどよろしくお願いいたします。


 ここまで、ほんとうにありがとうございました!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ツンデレラ姫の氷南さんは、俺の隣で少しずつ溶けていく 明石龍之介 @daikibarbara1988

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ