90 夏休みがまたやってくる

 友達や彼氏と過ごす日々は、なんともまあ早く過ぎていく。 


 気が付けばあっという間に、高校生二回目の夏休みがやってくる。

 

「まどかー、夏休みどうする?またおばあちゃんとこ行くの?」

「うーん、しゅうくんとも話してたけどどうしよっかなって」

「ちなみに香と羽ちゃんは二人で旅行だって。いいよねー」


 今は昼休みにあいちゃんと話をしているところ。

 そして亜美さんは他の学校の友人たちとキャンプに行く予定があるとか。

 みんな夏休みといっても忙しいみたい。


「あいちゃんは?」

「ひまー。でも私だけがあんたら二人についてくのも悪いしさ。だから男漁りに行こうかなって」


 てっきり夏休みはみんなでどこかに行くのだとおもっていたので、それぞれで過ごす夏休みにどうすればよいか考えた。


 でも、せっかくだからやっぱりみんなとも遊びたい。

 そう思って私はあいちゃんに「もう一人誰か誘って」と提案した。


 別にそれが男の人でもいいけど、できたら女の子がいいなあと伝えると「じゃあ聞いてみる」といって彼女はどこかにいってしまった。


 亜美さんや香ちゃん以外にも、あいちゃんが連れてくる子だったら誰でも仲良くなれる気がするしお友達になれるといいなあ。


 そんな期待を膨らませながら放課後、しゅうくんと帰る時に私はめんどくさい女子につかまる。


「先輩、なんで最近絡んでくれないんですか?」

「り、律子ちゃん?いや、だって」

「仲良くしてくれるんですよね?言いましたよね?」

「い、言ってないよう……」


 律子ちゃんに絡まれた。

 久々でもやっぱりめんどくさい。


 自分がめんどくさい女だと自覚していても、それでもこの子はめんどくさい。


「夏休みですね。どこか行くんですか?」

「え、いや、まあ」

「どこですか?私も一緒に行っていいですか?」

「え、うーんそれは……」


 え、なにこの子?めっちゃぐいぐいくるじゃん。


 それにこうして話すのでもまだ苦手なのに一緒に遊んだりできないよう。


「ねえ先輩、私に謝るチャンスをくださいよー」

「な、なんでそんなに私にかまうの?もういいじゃんか……」

「いいでしょそんなの人の勝手です—。ねえねえ」


 しゅうくんも間に入ってくれるのだけど、それも無視しながら私に問いかけてくる彼女をどうしたらいいか二人で困っていた。


 するとそこにあいちゃんが。


「ごめーんまどかー、もう一人がなかなかいなくてさー。誰か逆にいない?」

「あ、あいちゃん!ええと」

「なになに先輩どっかいくんすかー?人足りないんなら私も連れてって―」

「あうううう」


 私のせっかくの夏休みが、律子ちゃんにむちゃくちゃにされちゃう。


 どうしよう。


「あれ、あんたって確か……まどかいじめてた後輩じゃん。しっしっ」

「原先輩ですよね?うわー、私会いたかったんですよー。一年の中でも評判なんですよー、先輩って美人だから」

「え、そ、そうなの?ま、まあ」

「私、原先輩と仲良くなりたいです!私も連れてってくださいよー」

「そ、そこまでいうんなら……まどか、どうする?」

「へ?」


 あいちゃんが簡単に買収された。

 

「ええと、律子ちゃん……あのね」

「先輩、逃げないんでしょ?」

「え?」

「私から逃げないんでしょ?だったらちゃんと向き合ってくださいよ」

「……」


 そうだ。私は逃げないと決めたんだ。

 でも、遠ざけてるだけならそれは逃げてるのと同じ。

 私は律子ちゃんすらも受け入れると誓ったんだから……え、いいのかな?


「わ、わかんないけどわかった!一緒に行こう」

「さすが先輩!じゃあ日程と場所、よろしくお願いしますねー」


 嵐のように去っていく後輩を見ながら、私は固まった。


「ま、まどか?」

「……えー、どーしよー!?わ、私律子ちゃんと遊んだりできないよー!」


 パニックだった。

 私の夏休みがめちゃくちゃにされると思って混乱していたのだが、泉君が横で私の手を握ってくれる。


「……しゅうくん?」

「俺もいるから大丈夫だよ。それに、いつまでの彼女に怯えてるより、これを機に先輩後輩をはっきりさせた方がいい。頑張ろ」

「しゅうくーん」


 とまあこんな感じで私は何の因果か、律子ちゃんと夏休みに遊ぶことになった。


 そしてあいちゃんの予定を聞くと明後日がいいということで、その日に彼女も呼んで四人で海に行くこととなった。



 海にいく前日。

 しゅう君と二人で買い物にきているのだけど、夏休みとあってかどこも人で溢れている。


「あついよう……」

「一回休憩しよっか。アイス食べる?」

「食べる!」


 私はふと思ったのだけど、まるで泉君のペットのようだと自覚した。

 ペロペロと与えられたアイスを食べながらニッコリして、飼い主に懐いてスリスリして。

 

 これじゃあ私は円ではなくマルちゃんだ。

 香ちゃんのあだ名も案外的を得ている。


 それでもいいかと思いながらも、やっぱりダメだと考え直し、二人で水着を見に行く。


 泉君が待ってくれる中、私は露出の少ないものを選んで試着室にいくのだが、ここであることが発覚した。


「……え?」

  

 去年ピッタリだったサイズがきつい。

 入らないこともないけど苦しい……


 ……太った。


「やだー!」

「だ、大丈夫?」


 試着室で大きな声を上げて私は泣いた。

 あれだけ維持してきた体型が崩れたことに嘆いた。

 

「わー、どーしよー!」

「お、落ち着いて!何が起きてるの?」


 私は散々喚き散らして店員さんが慌てて駆けつけてくる騒ぎにまで発展した。


 でも、太ったことを誰にも言えず無理してこのままのサイズで水着を買ってしまった。


 ……明日は海だというのに、どうしよう!?


 

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