89 よくがんばった、はずなのに

「ううっ、眠いよ……」

「着くまで寝てていいよ。寝てないと頭が整理されないだろうし」


 朝、彼の家を一緒に出て一緒の電車にのり学校へ向かう途中、私は肩を借りて仮眠をとる。

 そしてすぐに電車が止まり、私たちは下車して学校に向かうのだけど、もう一歩一歩歩くごとに私の頭にため込んだ記憶がぽろぽろとこぼれていくような気がしていた。


 教室についても、香ちゃんたちは話しかけてこない。

 ていうか話しかけないでオーラ全開だったのでみんな空気を読んで黙っててくれた。


 そして運命のテストが。

 今回は一時間だけ。各教科の抜粋した問題が混同されているテストなので、みんなは「ごちゃまぜ」とか呼んでるこの学校ならではのよくわからないやつだ。


 でも、これをクリアしなければ私に未来はない。

 

 でも、あれだけ必死に一夜漬けしたんだから報われたい。

 ここまで来たら勉強は学力ではなく執念で差が出ると思う。


 鬼気迫る私の感情を答案用紙にぶつけ、どんどんと空白に回答を埋めていく。

 そして自分でも驚くほどに問題が解ける。


 まさにこれは。

 かのサングラスの人が「読める、読めるぞ」といっていた心境だ。


 ふむふむ。


 ふむむ。


 うむ。


 ……


 できたー!


「はい、答案用紙を集めろー。時間だ」


 時間ギリギリまで粘って書いた答案にはぎっしりと文字が埋められていた。

 得意そうに前の席の人に用紙を渡し、私は自信満々に採点を待つこととなった。


 今日の放課後には結果が出るとあって、みんなそわそわしていたが私は余裕。


「まどかー、テストできた?」

「ばっちり。あいちゃんは?」

「まあそれなりかな。でも、あんたが自信あるの珍しいね」

「なんかね、こう、降りてきたの」

「ぷっ」

「あー、バカにした」


 そういえばみんなの学力がどの程度なのかという話を、あまりしたことがない。


 というのも私の頭が底辺クラスなのでそれを悟られたくなくてあまり勉強の話題には入っていかないからだ。

 しゅうくんは結構賢いって知ってるけどどれくらいなんだろう。

 あいちゃんは……そ、そんなにできないよね?



「じゃあテスト返すぞー」


 ドキドキな放課後がやってきた。

 テストが返却される。


「次、氷南」

「は、はひ」


 いつもテストを前に取りに行くこの時が実は一番緊張する。

 でも、堂々と胸を張って先生の前に行くと。


「がんばったな」


 と優しく微笑んでくれた。


 私はどれくらいの点数があるのかと先生から答案用紙をぶんどって確認する。


「……43点?」


 え。


 ……やった!


 うわー、自己新記録だ!


「やったー!」

「こら、テストを投げるな!」


 一年の時のようにテストを投げて今度は先生に怒られた。

 みんなにはケラケラ笑われた。

 でも、気分がよかったので全然気にならず、私は得意な顔をして席に戻り、終始にやけそうになるのを我慢していた。



「やったー!」

「おめでとう円。勉強頑張った甲斐があったね」

「うん。しゅうくんはどうだった?」

「うーん、まあもうちょっと頑張らないと、だね」


 私は調子に乗っていた。

 だからしゅうくんに「テストみせてー」とせがんで見せてもらうことに。


「ええと、これだけど」

「ふむふむ……88点?」

「うん。ミスが多かったから。で、でもこれはあくまでおれの基準で、その、ええと」

「88点……」


 未知の領域である数字を見て固まる私。

 そんなところにあいちゃんがやってきた。


「まどかー、褒められてたじゃん!何点だったの?」

「え、あの、ええと」

「ちなみに私は92点だったよー。結構今回の優しめだったねー」

「92!?」


 なんと。

 みんな天才だった。


「はわわわわ……」

「ま、円?まどかー!」

「あぶぶぶぶ……」


 なんかその辺から意識がなく、気が付けばしゅうくんの背中といういつものポジションで目を覚ました。

 

 そのままおんぶされて帰宅する時、私は誓う。


 勉強、無理!



「あー、つかれたー」

「まどか、最近勉強頑張ってるわね」

「うん、だってみんなすごいもん。ついて行かないと」

「いい心がけね。そんなあんたに、はいこれ」


 家に帰って、なぜか勉強しないとヤバい気がして、諦めようとおもったのに机に向かって復習をしていたところでお母さんが来て、封筒を渡してきた。


「これは?」

「お小遣い。彼氏とたまにはおいしいもの食べてきなさい」

「え、いいの?」

「頑張った人にはご褒美がないとね。じゃあ、私寝るからあんたもほどほどにね」


 お母さんが部屋を出て行ったあと、「ひゃっほー」と声をあげて万歳してひっくり返った。


 でも、そのまま封筒の中身を見るとなんと一万円が。

 

「ひゃっほー!」



 というわけでしゅうくんと週末にデートなんだけど。

 実は。


「円、新しい服買ったんだ。似合うね」

「う、うん」


 次の日に速攻で服を買ってしまったので、もちろんデート代になんかならなかったどころか、散々甘やかされた挙句、全部奢ってもらった。


 ……今度こそ、しゅうくんに何かご馳走しよう。

 そう心に誓うだけ誓って、新しいお洋服でデートを満喫しました。

 

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