87 過去との決別

 中学時代の私は、今思えばだけどひどかった。


 見た目がとか勉強がとか、そんな話以前にいじめがひどかった。


 結局見た目で人の価値は決まるんだなって、おデブな時代も思っていたし痩せてちょっと綺麗になって高校に入ってからみんなの反応が変わった時も、同じくそんなことを思った。


 私を見た目で判断せず、ポンカスな中身を含めて愛してくれるしゅうくんやあいちゃんたち。

 だから私は今の自分も好きだし、昔のままの自分じゃダメだとも思う。


 そして今日は決闘。

 因縁の律子ちゃんを昼休みに呼び出し(もちろん香ちゃんから後輩伝いに呼び出してもらったのだけど)、私はみんなが見守る中で、屋上でガツンと言ってやるのだ。


「で、なんですか先輩。人を使って呼び出すとかえらくなりましたね」

「え、ええと……て、天気いいね」

「世間話とかいらないんで。うざいっす」

「はうう」


 対峙してすぐに私は劣勢。

 でも、陰から見守ってくれているみんながいるから。


「あ、あの!もう私に絡まないで」

「なんすかそれ?私が誰にどう話しかけようと勝手じゃん」

「め、迷惑なの。私、もうあの頃とは違う」


 そう。あの頃とは違う。

 中身は大して変わってないけど、でも今の私には大切な人たちがいる。

 その人たちの為にも、私がいつまでもこんなんじゃダメだって、そう思えるようになった。


「ふーん。じゃあどう違うのか説明してください」

「わ、私には、ええと、彼氏も友達もいて」

「それ、先輩が変わったんじゃなくて周りの環境が変わっただけですよね?」

「そ、それに人前で話したりもできるようになったり」

「できてないすよ、全然」

「え、ええと……勉強も、多少は」

「先輩の学力とか知らないし。で、何の話すか?」


 ダメだ。元々バカな上にコミュ障な私が口喧嘩なんてやって勝てるわけがない。

 それに律子ちゃんはやんちゃそうなのに頭はよかったし、私なんかが勝てる相手じゃない。


「いじめないでくださいって言いたいんなら無理っす。私、結構先輩みたいな人を困らせるの好きなんで」

「な、なんで?」

「おもしろいから。それより先輩の彼氏、狙っちゃってもいいすか?」

「だ、だめ!それにしゅうくんは浮気しないもん」

「色仕掛けで迫ったらわかんないすよー。私、先輩より胸あるし」

「そ、そんな」

「あはは、おもろー。先輩から彼氏とったらやっぱあの頃とおんなじじゃん。多少痩せても変わんないすね」


 チラッとみんなの方を見ると、今にも飛び出してきそうな香ちゃんをあいちゃんが必死に止めていた。


 でも、それでよかった。

 助けてもらわないでけじめをつけるって、そう決めたから。


「律子ちゃん、私……もうあなたの言うことはきかないから」

「へー。じゃあ中学の時、先輩がどんだけひどい姿だったかも、学校中にばらしていいんですね。写真、たくさんありますよ」

「……いい。あれも私だもん。私がだらしなくてお菓子ばっか食べてコーラばっか飲んで何もせずにダラダラしてた結果があれだもん。でも、そこから変われた自分も、ちゃんと私だもん」

「……」


 私は昔の自分を捨てたかった。

 でも、昨日久しぶりに写真を見て思った。


 あの頃の私もれっきとした私だ。

 だから過去をなかったことにするのではなくて、きちんと受け止めて前に進まないといけないのだと。


「律子ちゃんの脅しの道具はそれだけ?私、別に友達いるからあなたに何言われてもいいの」

「まじでつまんな人になりましたね……もういい、わかった。わかりました。私、あなたに二度と話しかけません」

「え、そこまでは言ってないよ?」

「はあ? いやいやそれを望んでるんじゃないの?」

「だ、だって一応後輩だし、普通に接してくれたらそれでいいかなって」

「……まじで甘ちゃんすね。まあ、考えときます。じゃあ」


 スタスタと彼女が去っていった。

 その後、入れ違うようにみんなが屋上に。


「まどかー、やるじゃんあんた」

「う、うん、なんとか」

「いやー、気持ちよかったわー。でもハラハラしてたんだよ、ねえ香」

「まどか、よくがんばったね。もう大丈夫でしょ」

「みんな……ありがと!」


 しゅうくんとあいちゃんと香ちゃんの三人に祝福されながら、私は自分の過去と決着をつけることができたのだと実感する。


 もちろん私がしっかりしないと同じようにあの頃の自分に逆戻りだから、これからはむしろ後輩に尊敬されるような、そんな人間になりたい。


「じゃあ円、行こう」

「うん。お腹空いた」

「そう思って。はい、パン買っておいたよ」

「わーい!」


 本当は立ち入り禁止である屋上で、みんなで座って空を見ながらパンを頬張る。

 

 爽やかな風が心地よく、春の陽気に誘われてこのまま眠ってしまえそうなほどの気持ちいい空気は、やはり自分の中のモヤモヤが晴れたからだろうか。


 なんて少しかっこいいことをいてみたかったのだけど、この後本当に眠ってしまってしゅうくんにおんぶされたまま保健室まで連行された私は、放課後まですやすやと気持ちよく眠っていたんだとか。


 でも、今日は頑張った!

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